「見えざる敵に怯えるアメリカ」ハンテッド 狩られる夜 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
見えざる敵に怯えるアメリカ
もはや国内での銃撃事件がさほど驚きを持って伝えられなくなっているほど日常茶飯事化しているアメリカ。
その犠牲者の数に比例して報じられ方も違っていたりする。受け取る側の人間もまたかという具合に感覚がマヒしてしまっているのかもしれない。
おそらくこの作品で描かれた事件もその犠牲者の数からしてけして新聞の一面で取り上げられることもなく、小さく報じられて二、三日もすれば忘れ去られてしまうんだろう。
本作の犯人の正体はあえて明かされない。犯人はまさに今の病んでいるアメリカを象徴する存在として描かれている。
PTSDを患う帰還兵、政治的あるいは宗教的過激思想を持つ者、ミソジニー、陰謀論者、格差社会で貧困にあえぐ若者、いかにも銃撃事件の犯人にふさわしいと思われる人物像を犯人自身がほのめかす。そのどれとも違うし、そのどれでもある。
まさに犯人は現代の不安や憎悪に包まれたアメリカを象徴する人間として描かれている。犯人の標的とされた主人公は男性社会において努力して社会的地位を掴み取った女性だが、不妊に悩んでいてそんな自分を優しく気遣う夫に対して重荷を感じていた。
確かに優しい夫ではある、しかしそれは自分を一人の人間としてではなく、あくまでも妻として、子供を産んでくれる女として気遣っているにすぎない。子供も産めない自分をただ一人の人間として愛してくれるのか、夫に対する疑念をぬぐうことができず彼女は同僚と浮気をしていた。
そんな彼女の事情をすべて見透かしているかのような犯人。男性優位社会で生きづらさを感じて生きてきた彼女をいたぶり殺そうとするその姿は自分たちは差別はしないとリベラルの皮をかぶりながらやはり差別的意識が抜けきれない男社会を象徴してるようにも見える。
死闘の末、彼女は犯人を倒すが彼女も力尽きて息を引き取る。長い夜が明けて一人生き残った少女が道を駆け出す場面で映画は終わる。この少女がこれから生きてゆくアメリカ社会は果たしてどうなって行くのか。この一夜で起きたようなことがこれからも起こり続けるのか。そんな救いとも不安ともとれるラストシーンだった。
近年まれに見る社会派スリラーの傑作。