「夏の家族映画にはオススメ出来ない名作」インサイド・ヘッド2 kou-sukeさんの映画レビュー(感想・評価)
夏の家族映画にはオススメ出来ない名作
インサイドヘッドの1作目を観た時、こんなに間口は広いのに、子供向けにはしないのヤバいなぁ‥と思ったが、
本作はそれに拍車を掛けている。
具体的に言えば、ライリー以下の年齢の子供はターゲットにはならない。
何故ならこの作品は、誰しもに起こるライリーのような心の葛藤に共感し、
自分や、精神的困難にぶつかっている方への理解のための作品だからだ。
間違っても12歳以下の子供と見るような作品ではないのが恐ろしい。夏休みに家族で見ても、難しくて子供には若干退屈で地味な作品として見えてしまうだろう。
まぁ、そう云う子には、大きくなってから見直してもらうしかないだろう。
数年がかりのアハ体験になるかも知れない。
昨今お約束とも言える、ディズニーの多人種表現として、学校の友人やキャンプのメンバーに様々な人種的特徴が見られることがあるが、ギリギリノイズには到っていない。
多人種国家であれば、ギリありえるかもとも思える範囲ではある。
吹替版での視聴でしたが、主演の小清水さんは、見事にヨロコビを引き継いでくれました。素晴らしい采配と演技に感謝。
参加声優・俳優の方々も実力派の方ばかりで、こちらも満足です。
キーキャラクターであるシンパイを演じた多部未華子さんもキャラボイスがすごい‥‥。
ゲスト声優の入れる塩梅も見事。平成フラミンゴとかチョイ役すぎて気づかない。
まずは良かった点を大きく3つ
①物語の結末
ラストのヨロコビがシンパイを助けるシーンで、ヨロコビも自らの過ちに気づくシーンがあった。あれがものすごく良い。あれがなければ、ヨロコビはJoyからPride=傲慢になってしまっただろう。
この感情全てをひっくるめて自分を作る大切なものと言う着地点がブレないため、作品として「仲間もの」「家族もの」のような、一体感のある結末を迎えられた。
もちろんヨロコビの端々にprideを感じさせるニュアンスがあるのも面白いけど。
②映像表現
ピクサーのCG技術は回を重ねるごとに見事と言えるものを見せてくれる。
今回は何と言ってもブルーフィーやランスのくだりだろう。
スパイダーバースの1作目を見ているような、同じCGの中でここまで見事に共存させられた画面作りは、映像的快楽を感じられた。
また、光や粒の描写は、今作とても緻密に描いていることも素晴らしい。リンク上での氷を反射するような光や、捨てた思い出の雪崩のシーンも、やはり気持ちが良い映像だった。
③作品構造
思春期を迎え、感情が増えると聞いた時、最初は大丈夫だろうか?と思った。
しかも出てくる感情が、不安と羞恥心と嫉妬と気怠さ。
一番心配だったのは、やはり嫉妬である。
だが今回の嫉妬=イイナーは小さいのだ。
これは小さい=他を羨ましがる に焦点を当てたキャラデザの表れだろう。しかし、そのキャラに相まって、幼児性も獲得している。
嫉妬ではなく憧れに重きを置いて、スターウォーズで散々見させられるような暗い方面の感情は出してこない。上手いバランスである。
気怠さもライリーの成長の足を引っ張るような事はせず、どちらかと言えばある種の「諦め」のような感情を担う。自己防衛のような役割だ。
このように感情の役割を上手く調整する事で、物語のバランスを非常に丁寧に保っている。心理描写として、見事としか言いようがない。
今作は、本国でも非常に評価が高いようですが、納得の出来だったと思う。
ヨロコビの気持ちを語るシーンには胸に来るものがあるし、イカリが語る「君(joy)がないと前に進めない」の言葉も堪らない。
個人的な感想としては満足だが、
ライリーのドラマパートのみの描写だけを抜き出して見てみると、結構歪なシーンも多いとは思う。
他の学校へ行く事を黙っていた友人はキャンプに誘われた時に態度で示すべきだし、コーチのスマホ没収は練習時間だけ(未成年の両親への連絡など)にすべきだし、未来を見据えての進学決断のライリーだが憧れのバルのチームメイトに魅力がない。
現実側が舞台装置になっているため、多少の筋書きの歪みは感じるが、ある種サイドストーリーでもあるので、許容は出来る程にはなっている。
ただ、そこまで綺麗に補完出来ていたら、もっと良い作品になっていたと思う(自分の読み込みが足りないだけかも知れませんが‥‥)
色々と書いた本作ですが、
joyとprideについても書いたように、この作品は、まだ進む事も出来る。
と言うか、人気が出たので、次作の話も出ている事だろう。
‥‥ただ、ここから先を描くと、大罪と呼ばれる欲が増えるし、いつかは色欲を描く必要も出るかも知れない。
色欲は今一番描きづらいテーマなので、描くのかどうか‥‥。
もし続編があるなら、見事な着地点に期待したい。