「劇中のスイーツほど精密ではない物語は、若干パッチワークさが残る代物だった」パリ・ブレスト 夢をかなえたスイーツ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
劇中のスイーツほど精密ではない物語は、若干パッチワークさが残る代物だった
2024.4.2 字幕 アップリンク京都
2023年のフランス映画(110分、PG12)
実在のパティシエ、ヤジッドイシェムラエンがパティシエの世界大会で優勝するまでの道のりを描いた自伝映画
原作はヤジッド・イシェムラエンの『A Starry Child’s Dream(2016年)』
監督はセバスチャン・テュラール
脚本はセドリック・イド
物語の舞台は、1998年のフランス・エペルネ
養父パスカル(パトリック・ダスマサオ)と養母シモーヌ(クリスティーヌ・シティ)に育てられたヤジッド(マーウェン・アルスケール、成人期:リアド・ベライシュ)は、育児放棄の母サミナ(ルブナ・フビタル)と時折会う関係を続けていた
ヤジッドは料理学校に通うパスカルの息子マチュー(フェリックス・ブロケード)の影響を受けて、お菓子作りに興味を持ち始める
彼は実母のためにスイーツを作ろうとして材料を万引きし、完成させて母に捧げるものの、母は一向に興味を示さなかった
それから十数年が過ぎ、ヤジッドはパリの高級ホテルの厨房に忍び込むことに成功する
そこのチーフ・シェフのマセナ(ジャン=イブ・ベルトール)の知り合いであると嘘をついて面接をクリアし、それがバレても開き直って、「実力で判断してください」とスイーツを作ってみせる
マセナはヤジッドの少年時代の憧れで
、彼はマセナの定番スイーツを再現してみせた
マセナは「荒削りだが筋はある」といい、彼を厨房に残し、それから丹念の時期を過ごすことになった
映画は、パリのレストラン時代から幼少期を回想する流れになっていて、パリ時代の後は「コート・ダジュール」というレストランでの修行シーンへと移っていく
この「コート・ダジュール」にて、友人のマニュ(ディコシュ)との出会い、のちにパトロンとなるムッシュ・ブシャール(パスカル・レジティミュス)との出会いがあり、コンクールで対戦する意地の悪いパティシエ・ジュリアン(エステバン)との絡みが描かれていく
彼はスイーツを作る際に集中し、周囲の音を掻き消す能力があるようで、それが分かりやすい演出として組み込まれていた
映画は、主にフランス大会、世界大会に向かうヤジッドの軌跡を描き、そこに到達するまでの人間関係や決意の変遷などを細かく描いているスタイルになっている
PG12の理由はよくわからなかったが、おそらくは幼少期の素行の悪さが原因で、施設暮らしも大概酷い生活をしていた
エペルネから180キロ先のパリのレストランに向かう中、バス停で寝泊まりしたり、野宿をしたりしているのだが、この辺りは自伝的な感じがよく表現されていたように思う
スイーツに関してもプロが監修しているので、めっちゃ美味しそうに思えるのだが、どれひとつ家庭で再現するのは不可能だと思う
世界大会の氷像を作る際に母が亡くなり、その亡霊のようなものが会場に来たり、それで作るものを変えたりするのだが、どの辺からが脚色なのかはよくわからなかった
スポ根系の成り上がり物語としては定番の流れだが、主人公の素行が悪すぎるのと、母親の毒っぽさがガチで引くレベルなので、なかなか共感しづらいキャラクターだったのではないだろうか
いずれにせよ、スイーツを目で堪能したい人向けで、成功物語として何かを得ようとする人にとってのヒントは少ない
彼の唯一の長所は「行動力と自信」であり、それを裏付ける「スイーツへの好奇心」と「鍛錬」と言うものがあるので、この過程を努力だと感じない人ならば、同じ目線に立てるのではないだろうか
個人的にはそこまでハマらなかったが、何を期待するかによって、満足度は違う作品なのだろう
物語の中身としてはそこまで濃密なものではないので、彼の物語のさわりを知りたいのであればOK
自伝本も出版されている(日本語訳があるかは不明)ので、興味のある人は読んでみても良いのかもしれません