劇場公開日 2024年6月14日

「空色の切符と本気の心」ディア・ファミリー R41さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 空色の切符と本気の心

2025年9月5日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

空色の切符と本気の心——映画『ディア・ファミリー』をめぐる文学的エッセイ

「ディア・ファミリー」——このベタなタイトルに、どこかで見たような既視感がよぎる。
だが、冒頭に掲げられた「実話」の文字が、私の心を静かに引き寄せた。
物語に向き合う覚悟が、そこから始まった。

事実は小説より奇なり。
そう言われても、なお信じがたい決断がこの作品にはある。
娘の心臓病と余命宣告を受けた父・坪井は、人工心臓を自ら作ることを決意する。
すべてを捨てて研究に没頭する姿は、狂気にも似ている。
しかし、それが彼の「本心」であるならば、狂気は信念となり、信念は現実を動かす。

フィクションであっても、似たような物語は描かれる。
そこに共通して流れるのは、「心こそが人生を動かす」という真理だ。
心が本心でなければ、くじける。離れる。諦める。
だからこそ、物語は私たちに問いかける——あなたの心は、本心ですか?

坪井の一心は、娘の命を救いたいという願いに尽きる。
その願いは、物語の終わりまで貫かれる。
だが、彼の前に立ちはだかるのは、日本の研究制度の壁。
予算取りの現実、権威の名のもとに語られる「キレイごと」
医者は本当に人を救いたいと思っているのか?
親は本当に家族を思っているのか?
働く人は本当に誇りを持っているのか?

「働きアリの2割はさぼっている」という言葉がある。
ならば、残りの8割は本気なのか?
 いや、2割すら本気で生きている人がいるのか?
本気になれば、生き方は変わる。
坪井のように、本気にさせてくれる「逆境」を人は望まない。
何事も起きない日常を望みながら、心の奥では本気を求めている。

私自身も、実話に共感する理由がある。
息子は生まれてすぐ、小児がんと診断された。
腎臓を摘出し、腸閉塞と闘いながら、ようやく二十歳を迎えた。
生きていてくれるだけでいい。大学でゲーム三昧でも、それでいい。
坪井のようにはなれないが、子を思う気持ちは同じだ。涙が流れるのは、その共感の証だ。

「私は、人工心臓を誰よりも作りたい男です」——このひとことに、坪井のすべてが宿る。
言葉はキレイごとになりがちだが、本心から発せられた言葉は、命を動かす力を持つ。
石黒教授は、日本社会の縮図であり群像。
彼らが築いた土台の上に、坪井のような男が立つ。その稀有な存在に出会えるだけで、人生は変わる。

坪井がしたことは、既存のIABPカテーテルを改良しただけだった。
だが、その改良で17万人の命が救われた。
人工心臓は未完のまま。
アメリカでは故障する人工心臓に苦しむ患者がいた。
命とは、寿命であり、決められているものなのかもしれない。

この作品を観ながら、私は中島みゆきさんの「ホームにて」を思い出した。
あの歌詞は、自殺に失敗したみゆきさんが見た幻ではないかと、勝手に解釈している。
寿命を迎えた者は、「空色の汽車」に乗って大いなる故郷へと旅立つ。
科学がどれほど進歩しても、いつか「空色の切符」を受け取る日が来る。

ロックフェラーの死が、その事実を教えてくれる。
だが、「命を救いたい」という本心があるなら、それに従うことこそが、生まれてきた理由になるのではないか。本気の本心——それは誰の中にもある。私も、もう一度それを見つけたい。

「それで、次はどうする?」
叶えても、あきらめても、「次」を見つければ、それだけでいい。
それだけで生きる理由になる。

R41
♪エルトン シンさんのコメント
2025年9月7日

R41様
レビュー読ませていただきました

「そして重要な要素のひとつが、主人公への共感だ。
動き出した動機、葛藤、やがて答えを導き出す…。まるで誰かの人生をそのまま見ながら、自分をそこに重ね合わせている。」
プロフィールから拝借させていただきました

共感はもちろん時には応援であったり欲望で会ったり様々な感情をわかせてくれるから映画は見たくなるんですよね

のほほんと映画を見て時には涙したり笑ったり怒ったりの自分ですが
見終わった後は人にやさしくなれる自分がいます
すぐにそんな自分が無くなるのでまた映画を見るんですが・・・・

ご子息のご健康をお祈りします

♪エルトン シン
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