劇場公開日 2024年6月14日

「あくまでドラマ、フィクションとはわかるが」ディア・ファミリー 町谷東光さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0あくまでドラマ、フィクションとはわかるが

2024年6月17日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

知的

封切りの何カ月も前から、TOHOシネマズの予告で「お父さんが絶対治してやるから」という大泉洋の絶叫にうんざりしていた。
この手の、感動をあおるような映画やドラマにはあまり食指が動かない。
本作の存在を知るまで、愛知に娘を助けるために人工心臓の開発に取り組んでいた人がいた…という事実を、恥ずかしながらまったく知らなかった。
僕は長年マスコミで働き(既に退社)ながら、いろんなことを知っているつもりだったが、この「事実」はまったく知らなかった。
原作は、元読売巨人軍の球団社長で、中部本社(名古屋)社会部長や東京の運動部長も務めた清武英利氏。
その清武氏が、映画は原作を基によくできている、と評して(そう言うのは当たり前だが…)いた。原作者の中には故・西村賢太のように執着・粘着的に映像作品をこき下ろす作家もいるのだが。
その清武氏のインタビュー記事を読み、よくできた映画なのかどうか、本当に泣ける「感動作」なのかをチェックしたくなって都心のシネコンに行ってみた。

映画は街を走る車、新幹線、家庭の中の家電類などなど1970-80年代の雰囲気をかなり丁寧に再現しており、好感が持てた。
ドラマも、大泉の演技は予告編で見たような絶叫がしょっちゅう出てくるわけではない。適切であったと思う。妻役の菅野美穂もかつての美少女の面影を残しながら、アラフィフらしい落ち着いた母を演じている。
いずれ死ぬことがわかっている子供を抱える親の気持ち…それを大泉は時に熱情的に見せるのだが、全体的には比較的淡々と落ち着いた描写で作品にしている、と感じた。もちろん、親子の情が通い合う場面が多く、人の子、子の親であったりすれば共感もし、涙も出る作品だ。

ただ、光石研演じる大学教授との関係や、主人公の会社の事業そのものがどうやって成り立っていたのか、という気になる点は作品中あまり触れていなかったのが残念。もうちょっと掘り下げてもよかったと思う。その点で★ひとつ減らしている。
事実に基づいた映画の場合、最後にモデルになった当事者の写真やら近況について触れたりするものが多いが、それらが一切ないのだ。僕はあったほうがいい、と思った。

日曜の午後、都心のシネコンの巨大スクリーンで鑑賞した。ランキングでは初登場1位も、入りは3割ほどか。どっと客が入ってもいいのでないか。

町谷東光