「家族を信頼することで生まれる余白と、尊敬を持つことで得られる希望の物語」ディア・ファミリー Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
家族を信頼することで生まれる余白と、尊敬を持つことで得られる希望の物語
2024.6.14 イオンシネマ京都桂川
2024年の日本映画(118分、G)
原作は清武英利の『アトムの心臓「ディア・ファミリー」23年間の記録』
1970年代に先天性の心疾患と向き合った家族を描いたヒューマンドラマ
監督は月川翔
脚本は林民夫
物語の舞台は、1991年にある女性の救急搬送が描かれてはじまる
心肺停止状態で運ばれた彼女は、蘇生に成功し、心臓カテテールの処置に入ることになった
それから10年後、東京では黄綬褒章の授賞式が行われ、IABPカテーテルを国内生産し普及させた坪井宣政(大泉洋)とその妻・陽子(菅野美穂)が会場を訪れていた
インタビュアーの山本(有村架純)は、「なぜ、人工心臓ではなく、IABPの開発に取り組んだのですか?」と尋ねる
だが、宣政と陽子は顔を見合わせて、言葉を飲み込んでしまった
映画は、彼らがIABPバルーンカテーテルを開発するに至った経緯を紐解き、先天性の心疾患を患った次女・佳美(鈴木結和、成人期:福本莉子)の闘病生活を紐解く流れになっている
1973年、名古屋にて愛知高分子化学を経営していた宣政は、アフリカ諸国に髪留めのクリップを販売する旅から戻ってきていた
現地の衣装を身に纏って、得意げに取引の様子を語る宣政だったが、ある日、佳美が病院に運ばれてしまう
主治医(外川貴博)から疾患の説明を受けた宣政たちは、彼女の余命が10年であることを告げられた
現在の日本では手術は難しく、人工心臓の研究も動物実験の段階で、実用化どころか臨床試験ですら夢のまた夢のようなものだった
ある夜、台所にて食事を運んでいた佳美を見た宣政は、「体に負担をかけないように休んでいない」と言うものの、佳美は「自分でできることは自分でする」と答えた
その言葉に感銘を受けた宣政は、自分で人工心臓を開発しようと思い始める
東大に侵入して講義を聞いたりする中で、東京市立医科大学の石黒教授(光石研)の研究チームとも研究を始めていく
費用はほぼ宣政の持ち出しで、樹脂を固めるための設備なども作っていく
だが、1984年にアメリカで人工心臓の臨床試験での死亡が報道され、世論は「人工心臓を使ってまで延命させることの是非」で揺れてしまう
そして、中山部長(大石吾朗)から研究にストップがかかってしまい、宣政の研究は頓挫してしまうのである
物語は、人工心臓の実現が不可能になったことで、「残りの時間を大切にしよう」と言う感じに動きていく家族を描き、そんな中で「私の命はもう大丈夫だから、これまでに得た知識で人助けをしてほしい」と佳美から言われた宣政が「バルーンカテーテル」の国内製造を始める様子が描かれていく
人工心臓の際に真っ先に降りた研究員・富岡(松村北斗)との妙な縁が結ばれ、彼の助けを借りてデータを集め、とうとう実用に耐え得る製品を開発することに成功する
だが、そこからが正念場となっていて、病院はリスクを恐れて、宣政の作ったカテーテルを使ってくれないのである
映画は、実話ベースの物語だが、無理に感動させようと言う感じには作られていない
宣政の開発の転機に「家族の言葉」があり、それを忠実に再現している
また、開発に関わる際の再現度もリアルで、素人が見てもどうやって作っているとか、バルーンカテーテルがどういったものなのかがわかるようになっていた
物語としては、構成が回想録になっていて、それは予告編でも見られるように「人工心臓の話なのにカテーテルで授賞とはどう言うことか」と言う疑問に答える形になっている
とは言え、予告編で見せすぎに思える部分はあるので、それを見てしまうとどうなるかと言うのが読めてしまうのは難点かな、と思った
いずれにせよ、丁寧に作られているし、わかりやすい物語になっていたと思う
個人的には原作の「アトムの心臓」と言うパワーワードが好きだったのだが、本作の内容ならこのタイトルで良いと思う
訳のわからない長い副題がつくよりは良いと思うので、あとは大泉洋のシリアス演技に抵抗がなければ大丈夫なのではないだろうか