「小猫王」クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 pigeyesさんの映画レビュー(感想・評価)
小猫王
舞台は半径3キロくらいなのだろうか。建国中学があって、カッコ良い体育館があって、中学の隣にスタジオがあって、街の中心には小公園というイベントスペースがあって、露店みたいなのが出てて、向かいには中山堂があって、217の溜まり場のビリヤード場があって、ハニー達のチームの溜まり場は線路の真横にあって、近くに軍の演習場があるから、軍用ジープとか戦車とかが通りを走ってて、小四の家は日本家屋で、玄関入ってすぐ右がお手洗いになってて。
男子中学生がいて、女子中学生がいて、不良チームがあって、伝説のリーダーがいて、お金持ちの転校生がいて、国民党の外省人の両親がいて、よく出来た長女、信心深い次女、生意気な三女がいて、ちょっとダメだけど兄弟思いの長男がいて、高いキーで優しくプレスリー歌う少年がいて、スリムジーンズにボーダーシャツのませた女の子がいて、スリムジーンズにアーミージャケットの姉御肌の女の子がいて。
町があって、そこに人が住んでる。必要な時間を掛けて、隅から隅まで、くまなく描く。シンプルに、見たことない豊かな、世界が立ち現れてくる。そう映ってるのは世界とか、全てって言いたくなるもの。町のあらゆる場所で、事件が当たり前のように起こって、その全てがあるべき顔の役者が、あるべき演技で、あるべき照明をあてられて、あるべきカメラワークで、あるべき画角に捉えられてる。あの豪雨の中の殴り込み、闇に紛れて、男たちは町を縦横無尽に駆け抜ける。ラスト悲劇は街の中心であっけなく起こる。いや、そもそも最初に並木道を親子が自転車でカメラに向かってきて、軍用ジープの脇を通り過ぎるところからスリリングな事件が起こっていて。全てのカットで事件が炸裂していく。私は変わらないわ、この世界と同じように、と少女は言う。真実を口にした途端、刺される。世界の中心で愛を叫ぶとはこういうことで、最低って何?って話。なんだ世界を切り取るってこということだったのか、って溜息が漏れる。