劇場公開日 2024年11月22日

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「◇失われた時(岡山)を求めて」カオルの葬式 私の右手は左利きさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 ◇失われた時(岡山)を求めて

2025年9月6日
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鑑賞方法:映画館

 先日、出身校の同窓会事務局よりダイレクトメールが届きました。同じ高校の卒業生である湯浅典子さんが監督を務めた映画のイベントがキネカ大森にて開催されるというお知らせ。邦画はそれほど熱心に追いかけているわけではないですが、映画関係者を生で見ることが出来る機会に期待が膨らみ出掛けてみました。

 作品は、若い女流脚本家の事故死。遺言に従って実家の岡山の山村で進行する葬儀の顛末。故人を偲ぶ参列者たちそれぞれの思い。断片的記憶、無意識記憶が岡山の閉塞的共同体の中で折り重なるようにランダムに再生されていく物語です。

 数年前に、私も父親の葬儀で故郷の岡山に帰ったことを思い出しました。夏休みを挟んだ忌引で過ごした二週間程度の岡山の時間は、大学時代から故郷を離れて三十数年の中でもっとも長くて、自分の人生にとっても特に色濃い記憶、時間となりました。

 ほんとに「田舎じゃけぇのぉ」温暖で平和な岡山は、地域として自己完結しているような大らかな独特の風土を持っています。葬儀の厳粛な喪に服する空気とは裏腹なのんきな地域性は、故人を偲ぶ物語の舞台として皮肉です。

 私自身の個人的記憶の断片、映画の中の登場人物それぞれの記憶の断片、トークイベントにて語られる映画監督や出演者たちの映画製作する上での記憶の断片。それぞれが混ざり合って、私の中で特別な化学反応を起こします。忘れがたい映像体験として、記憶の奥底で仄かに鈍い光を放ち続けそうです。

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私の右手は左利き