「1970年、米国北東部の寄宿制の名門バートン高校。 クリスマス休暇...」ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
1970年、米国北東部の寄宿制の名門バートン高校。 クリスマス休暇...
1970年、米国北東部の寄宿制の名門バートン高校。
クリスマス休暇でほとんどの生徒たちは親元へ帰るのだが、事情があって帰れない生徒たちが何人かいる。
今年も4人、寄宿舎に残ることになった。
監督役を命じられたのは古代史を教える非常勤教師ポール・ハナム(ポール・ジアマッティ)。
頑固で偏屈、その上、体臭がキツイと、生徒はもちろん教師仲間からも疎まれている。
4人の居残り生徒と思ったが、急遽ひとり追加。
問題行動で高校を転々としているアンガス(ドミニク・セッサ)だ。
それに、黒人女性料理長メアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)。
彼女は、去年同校を卒業した息子をベトナム戦争で息子を亡くしたばかりだった・・・
といったところからはじまる物語。
予告編などから、居残る生徒はひとりだと思っていたので、あれれと思ったけれど、他の4人は序盤でホリデイを迎えることができて、いなくなってしまう。
本題はどこからなのだけれど、この生徒5人のときの描写が丹念。
で、ここが意外といい。
急いては事を仕損じると言わんばかりの映画の語り口。
冒頭のユニバーサル映画マーク、鑑賞年齢の制限を示す「R」マーク、主要キャスト・スタッフのオープニングクレジットなど、画面のフィルム感も含めて、これぞ70年代の映画という雰囲気から続くのだから、急いではいけないわけである。
(なお、画質はデジタル撮影の上に効果処理を施したらしい)
で、ハナム、アンガス、メアリーの3人になってからの物語に通底するのは、嘘と後ろめたさ。
ベトナムで戦死したメアリーの息子は、白人の後ろめたさの象徴のようだ。
3人が徐々に心を通わせていく、というのはお馴染みの展開だが、アンガスがハナムの体臭に言及するあたりから、ふたりは似た者同士、同じ人物像の若きと老いとわかってくる。
このあたりから、じんわりと胸が熱くなってきます。
どうしてもボストンに行きたかったアンガスの理由、ハナムが母校で非常勤教師を務めている理由・・・
それらの真実には、幾分かの嘘が覆いかぶさっている。
物事を滞りなく進めるために。
けれど、嘘と真実のどちらを見ればいいのか。
嘘だけみていても世の中生きていけるじゃないか、とも思う。
それは、ハナムの斜視、左右で異なる方向をみているように見える目のようなものだろうか。
「どっちの眼をみて話をすればいいの」とアンガスがそれとなく言う。
最終盤、右の眼を指さしてハナムが言う。
「こちらの眼をみて、話せばいいんだよ」と。
観終わってすぐの感想は「久しぶりに、いい映画を観たなぁ」だった。
「いい」は「良い」「好い」とも書けるが、「善い」が適切でしょう。