劇場公開日 2024年6月21日

「古き良き反骨の精神」ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ Moiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0古き良き反骨の精神

2024年7月4日
iPhoneアプリから投稿

感想

1970年、東部マサチューセッツ州バードンスクール。クリスマスからニューイヤーのホリデイシーズンに、帰省により誰も居なくなった寄宿舎に寮監代行として残る事になった、訳アリの堅物歴史学教師ポールと別な意味で訳ありまくりで居残る事になった学生アンガス。そして、在学中にベトナムへ出征し戦死した息子の母親で寮に調理主任として住込みで働くメアリー。この立場も人生の環境も違う3人が織りなす、複雑で、心の傷みを弄りあう笑いあり、涙ありのペーソスが溢れる人間ドラマ。人は見た目では何を考えているか判らない。また、話をしてみないと人柄はわからない。『だから人生は面白い!」を地で行っている話が展開していく。

教育一筋40年にして堅物、融通のきかない頑固な性格が災いして軽蔑の視線を学生や同僚からも向けられているポール。この学校に入ってくる勉強嫌いの金持ちの子弟達。プレップスクールに入れて一定額以上の高額寄付金を納めれば名門大学への推薦枠を優先的に獲得出来るという事実。金で全てを解決していこうとする父兄と学校運営を良好にする目的の元、拝金主義に偏る学校側に疑念や不信を募らせ、年々頑固さが頑なになり、彼の授業は特に採点が厳しく修了年限内に単位が取得出来ず、大学推薦が決まっているにも関わらず、進学を棒に振る学生もいる。ポールにしてみれば学生本人の学問見識が低いだけだと思っており、何の責任も感じていない。

アンガスは学内でも反骨精神が強い学生。転校を繰り返しており、このバードン校を辞めさせられると後は州兵養成の為に設置されている陸軍学校に行くしかない。学内の成績は上位だが憎まれ口を叩くので教師からも一目置かれ、友人と呼べる者は一人もいなかった。
12月の試験が終わる頃、両親は離婚、母親が親権を獲ったが、母親は間髪を入れずに再婚してしまい、ハネムーンに行くという事でホリデイシーズンは一緒には過ごせない話になる。大好きな父親とも別れる事になりアンガス本人にとっては人生で最悪のホリデイシーズンとなったかに見えたが...。

この学校内の寮で学生達の食事を担当する食事主任のメアリーは最近、最愛の息子をベトナム戦争で失った。息子のベトナムへの従軍は計画的であり、一年間の従軍の後、退役軍人としての免責事項として大学進学の学費が全額国から支給される事を見込んでの行動であったが、帰らぬ人になってしまった。息子を失って最初のホリデイシーズンだったのだ。表面上は明るく振る舞うメアリー。休暇期間になり悲しみが再び彼女の想いに大きく広がっていく。

演出・脚本・俳優◎
人はそれぞれ。性格的にも得て不得手がある。休みの日の寮内に残された三者三様の考え方、感じ方など足りないものをお互い補いながら、そこにある本音と建前、生きる上での苦しみや悩みを互いに理解していく事で絆が生まれてくる。その経験がそれぞれの人生の糧となる様を描いた淡々とした演出が素晴しい。学生の真の人間性を認めていく変わり者教師ポールと黒人女性メアリー、悩み多き青春時代の学生アンガスの姿を歴史ある東部の学園風景と共に1970年の年の瀬のベトナム戦争が深刻化していくアメリカ世相を織り込み構成された見事な脚本。小品ながら味わい深い作品に仕上がっていた。ポール役のポール・ジアマッティは個性際立ついつも記憶に残る俳優。アンガス役のドミニク・セッサ。内向的性格と要領の良さを上手く表現していた。今後の活躍に期待。メアリー役のダバイン・ジョイ・ランドルフは本作で第96回アカデミー最優秀助演女優賞を受賞している。

⭐️4

本作で描かれている学校は普通のアメリカ国内にある公立高校(パブリックスクール)や私立普通科高校ではなく中西部湖水周辺、東部に比較的多く所在している東部名門大学に入学するための専門的教育を行っているPreparatory-School 所謂、プレップスクールである。そこに就学する学生をPrepie(プレッピー)と呼ぶこともあるが、尊敬の意味はあまりなくお金持ちのお坊ちゃんお嬢ちゃんを揶揄する蔑称の意味合いが強い
とされる。その点がイギリスのパブリックスクールとは権威的にも格が大きく異なる点である。学校形態としてはプロテスタント系キリスト教主義教育、男女別学、寄宿舎(ホールディング)生活が主流である。この特殊な環境を理解した上で、映画の中で描かれる情景や登場人物の会話を観ていくと話をより理解することが出来た。

⭐️4

Moi
トミーさんのコメント
2024年9月14日

共感ありがとうございます。
メアリーが後半、ちょっと不協和音みたいになっているのが残念な気がします、産着とかは悪くなかったんですが。もっと施設の父親とかの描写が欲しい気がしました。

トミー
talismanさんのコメント
2024年7月15日

過去の格差社会を恥ずかしがっている。そうだ、そうですね。今のすごい格差ばかり頭にあったけれど、もっと多様な社会になってほっとしている人、自由に思っている人は確かに当時より増えていると思います。Moiさん、ありがとう

talisman
talismanさんのコメント
2024年7月15日

Moiさん、コメントありがとうございます。そっかー、納得。
この映画はなんなんだ?!という気持ちが溶けました。前向きの、いい意味でのノスタルジー。悪くないです。寝落ちしながら文句言うのも最低でした。どうもありがとうございます!

talisman
talismanさんのコメント
2024年7月15日

Moiさん、コメントありがとうございます。懐かしい!今のなんでもユニクロ的カジュアルも悪くないけど、当時の「ちゃんと」感が好きでした!

talisman
talismanさんのコメント
2024年7月15日

大昔の女の子ファッション雑誌で、プレッピーとかリセ(フランスの高校生)のスタイルとか載ってたこと思い出しました!友達に、リセスタイルが本当に似合う、美しい良家の子女の鑑みたいな子が居て素敵だなあと思ってました

talisman
talismanさんのコメント
2024年7月15日

プレッピー、なんか思い出しました、その言葉!お洒落な感じもするけど勉学に励むのはちょっとダサい存在になるような。子ども達の親は金持ちばかりというイメージかなあ。ポール先生もそこの卒業生というのが考えてみれば意外だった。

talisman