「初めて自分に向き合ってくれる大人が見つかる」コット、はじまりの夏 根岸 圭一さんの映画レビュー(感想・評価)
初めて自分に向き合ってくれる大人が見つかる
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9歳の少女コットは、母親の従姉妹であるアイリンと、その夫ショーンの元に、夏休みの間預けられる。アイリンは温和で優しく、ショーンは昔気質でやや寡黙。コットは今まで家庭にも学校にも居場所が無く、誰にも見向きもされなかった。その中で、アイリンとショーンは初めて自分に真摯に向き合ってくれる大人だった。アイリンと共に料理を作ったり、ショーンと共に農場の仕事をする中で、彼女は人の温かさを感じるようになる。
コットはショーンに農場の案内をされているとき、勝手にショーンの元を離れ、大きな声で「勝手に離れるな。分かったな」と怒られるシーンがある。その後自宅に戻った2人の間に沈黙が流れる。ショーンは大きな声で怒ったことを申し訳ないと感じているらしく、謝罪の言葉の代わりに、無言でビスケットをコットの前に置いていく。ここに彼の不器用な優しさが表れていてぐっと来る。
夏休みも終わり、最後にコットはショーンに対してハグをしながら別れを惜しむ。実父が前方から歩いてくるシーンでコットは「パパ」と言い、すぐに次のシーンでショーンを映しながら「パパ」と言う。コットが認識している父親は実父ではなく、ショーンなのだということを暗に伝えていて、秀逸な表現だと感じた。
陽光に照らされ輝く自然や、済んだ空気が伝わってくる映像美も素晴らしい映画。
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