「言葉がちゃんと届くまで、語りかけられる人はどれくらいいるのだろうか」うさぎのおやこ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
言葉がちゃんと届くまで、語りかけられる人はどれくらいいるのだろうか
2024.4.9 アップリンク京都
2024年の日本映画(87分、G)
知的障害の22歳と関係の悪い母親を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本は上西雄大
物語は、大阪のとある町
知的障害のある玲(清水裕芽)は、シングルマザーの母・梨加(徳竹未夏)と二人暮らしをしているが、母は玲の障害年金をパチンコに注ぎ込んで、家賃さえまともに払っていなかった
主治医の柊先生(楠部知子)からもらったうさぎの帽子を肌身離さない玲は、先生の死去により、ケアのできない時間が重なっていた
二人にはケースワーカーの北村(古川藍)がサポートに入っていて、ようやく後任の主治医として恵比寿先生(上西雄大)が赴任することになった
変わった先生との評判で、カメレオンの被り物をしていることから「レオン先生」と呼ばれていた
ある日、大好きなメガネチョコを買いにスーパーに出向いた玲は、そこで「万引き容疑」がかけられてしまう
母に連絡しても出ず、やむを得ずに名札にあったクリニックに電話した店長(水上竜士)
彼らの元に北村とレオン先生が来ることになり、レオン先生は「玲だけと話がしたい」と言って、店長をその場から追い出してしまった
レオン先生の問いかけによって、玲は別の店でチョコを買っていたことがわかり、店側の思い込みとして謝罪させることになったのである
物語は、母から「22歳になったんだから、社会に出て働いて、家にお金を入れなさい」と言われるところから動き出す
玲は町で見つけた募集広告に応募するものの、そこは出張デリヘルの事務所で、そこにいたデリヘル嬢のカナ(華村あすか)は「あんたが来るところじゃない」と追い返す
だが、会長(荻野崇)は彼女を気に入って採用し、明日「映画を撮る」と言って、契約書にサインさせてしまう
映画は、知的障害を患っている玲が、社会の荒波に揉まれるというもので、ずっと彼女の世話をしてきた母親の疲弊が、玲を放置する結果になっていることを描いていく
ケースワーカーが入り、医師がサポートに入るものの、社会的弱者が食い物にされてしまう現実がある
そんな中、レオン先生は「正しいこと」を行いながら、玲を守り、彼女を理解しようと努めていくことになる
最終的には玲の適性を考えた就職によって、社会的な自立をするというところまで描いているので、ほっこりとしてしまうのである
難点があるとすれば、心の声を話しすぎというところで、母親が悪態をつくあたりはまだ許容範囲だが、心情を独り言のように演出してしまうのはどうかと思った
演者も表現力があるし、観客も読解力もあるので、それらを信頼して、言葉なき表現にした方が良かったように感じた
心の声の音声化は、時には陳腐になりがちなので、本作のテイストには合わなかったのではないだろうか
いずれにせよ、演技も抜群で、レオン先生の玲に寄り添う目線、言葉遣いなども印象に残った
育児疲れの母親を完全に悪者にせず、彼女が抱えているものもケアしようという姿勢があって、現実もこうだったらいいなと思わされる
テーマが重たくても、ユーモアのあるシーンが多いので、そこまで心が引き裂かれることはないと思う
若干ファンタジーに感じる部分はあるものの、実際にできている現場もいるし、鼻で笑う現場もあると思うので、ちょうど良いバランスなのではないだろうか