「群像劇スタイルを借りた独白のような作品。」エス アベレージさんの映画レビュー(感想・評価)
群像劇スタイルを借りた独白のような作品。
自主映画祭でグランプリ受賞経験のある有望な映画監督が、自ら罪を犯し逮捕され実名報道までされて、留置所で32日間過ごした。その経験を元に考えだされた作品と理解して観ました。
話の中心人物で、しかしほとんど登場しない「染田」という人物が監督本人の事である事は明白で実際に太田監督が演じているのですが、実話を元にした作品でそこまで事実と重ねて配役する作品を私は初めて観ました。
別の俳優をキャスティングする事も出来たはずですが、そうはせず「監督本人が染田役をやった」という事にこの映画の意義と、得体の知れない魅力が詰まっていたように思いました。
太田監督がどういうつもりで作ったのか、このセリフはどういう気持ちで書いたのか、俳優に言わせている時どんな気持ちで撮影・編集したのか。想像しながら観てしまいました。普通の見方ではないのでしょうが、そういう見方をしてしまわざるを得ない作品。
主人公不在の群像劇とカテゴライズされる作品なのでしょうが、主人公は染田=太田監督だと思います。
なのでそこを「面白い!凄いもの創ったね!」と思うか「卑しいな!逮捕歴すら面白可笑しく映画のダシにするのかよ!」と思うかは観る方次第だと思います。私は前者でした。
シンプルな群像劇として観たとしても、面白かったです。セリフの言葉選び、俳優陣の心の機微の表現も素晴らしく、ひとりひとりの人間の人間性が事件をきっかけに無理なく炙り出されていく感じも良かった。
染田を励まそうと集まった友人たちの予想できないシーン展開や、物語終盤に屋上で対峙する考え方の相容れない二人の表情のコントラストの可笑しみなど。丁寧に計算されて作られた魅力もありました。
あと「Ctrl+Z」をマシーンのように押す描写とか…あれは心の叫びだったりするのかな。
才能あふれる太田監督のこれからに期待しています。