「人生に起こることはなんでも楽しまなあかん」あまろっく にあさんの映画レビュー(感想・評価)
人生に起こることはなんでも楽しまなあかん
父が再婚後、再婚相手の影響でランニングに行き亡くなった際、再婚相手に「お父ちゃんが死んだのはあんたのせいや、この疫病神が!」と罵るような展開も想像されたがそうした描写はなく、すごいな、と思った。
江口のりこの子ども時代を演じた子役は、その「らしさ」がしっかり体現されているが、嫌味さがなくとても良かった。尖っているけどどこか寂しさもある、しかし子供らしい生意気さや元気さもある、そういうのがとても上手く演じられていてかなり見やすかった。
ただ、中条あやみのキャスティングには少し違和感が残った。美しさが突出しすぎていて、演技派揃いの中で浮いて見えたのは否めない。もう少し生活感や素朴さをまとった人物像であれば、物語との親和性が高まったように思う。桜井ひよりなんかもそうだけれど、あの系統の顔立ちは声や滑舌に独特なクセみたいなものがあって、それが作品によってはノイズになりうるなと感じる。
ストーリー内では、“フラグ”が立ちすぎていて、ランニングに出るシーンや鉄鋼が落ちる場面などは、不穏の露骨さに、心が落ち着かずすごくざわざわした。とても嫌な気持ちになった。
一方で、主人公の境遇はあまりにも“恵まれすぎている”ように感じられた。大学生の頃に母を亡くし、兄弟もいないなかで父1人残し実家を出て仕事に邁進しても、30代で実家に戻った際には祝・リストラを掲げてくれるような父がいる。仕事を失い、友人も恋愛経験もない状態でも、生活に困る描写はなく、理解ある親と家があり、何でも話せて言い合える幼なじみの男友達がいて、キャリアを捨ててまで自分を選んでくれる結婚相手までいる。こうした現実離れした人の温かさ、そしてそこに疑問も感謝もなく時には反発までして甘えられる環境。綺麗すぎる。
また再婚相手との絆も、エリートとの恋愛も、それぞれ描写が弱く、感情移入がしにくかった。感動的な台詞や設定は多いが、「これだけの俳優をそろえて、最終的に伝えたいことは何だったのか?」と、どこか空虚な気持ちが残った。
「いつも笑ってたらいい、どんな人生も楽しまな」というメッセージは、阪神大震災という重い背景とともに語られたことで深みを持った。しかしそれでもなお、全体として“綺麗にまとまりすぎた”印象が拭えなかった。響く人には響くだろうけど。私には逆に、こうはならないでしょ…と偏屈な感想を抱いてしまったことによる、重さの方が大きく残った。
三大洋食からの再婚宣言や、こむら返りからのプロポーズ報告、ここのテンポ感と、親子揃って言いにくいこと言うときの癖が一緒なのが良かった。関西弁のテンポとイントネーション相まって、さらによく感じた。
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<あらすじ 覚書>
父親は町工場を営んでいるがいつもだらだらしてばかり
そんな父のようにはなるまいと
優秀になりたい一心で勉強し京大に進み
仕事に人生を捧げて成果を出してきたが
社会性協調性のなさからリストラされる
学生時代にもチーム競技では場を乱してしまうため
ソロ競技で勝利を勝ち取りに行ったり
自身でも思い当たる節はあり
そのまま実家に引きこもりニート生活を送っていた
母は学生の頃亡くなっており、
実家で父と二人の生活
そこに父が20歳の再婚相手を連れてくる
衝動していた二人だが、
父が亡くなってからも共同生活を続け
再婚相手とも家族になっていく
京大卒で海外駐在のあるようなエリートと
縁談の話が舞い込みプロポーズも受けるが、
再婚相手に父との子が宿っているなか
エリートと結婚すれば海外赴任となることに葛藤、
工場と家を売り払ったお金を再婚相手に渡し
それぞれで生活していこうと考えていたが、
父がどんな思いで家族を生活を大切にしていたかを反芻し
自分が家族を守る番だと使命感を持ったため
プロポーズを断る
が、最終的には
自分が町工場の社長をやり、
再婚相手は副社長として敏腕営業として活躍、
エリートは会社を辞め彼女と結婚、
彼女が社長を務める町工場で職人として働き始め
人と人が繋がっていき家族となりましたの物語
台風などで川が荒れた際の死傷者はすごかったが
尼崎閘門(通称尼ロック)ができたことでその被害は大きく減少した
父は自分をこの家の尼ロックと呼んでおり
どんなことがあっても自分が盾となり
家族を守るという意味で使われていた
そして父亡き今は娘がこの家の尼ロックになる
という家族の愛の物語
父はいつも明るくアホだと思っていたけど
阪神大震災で両親を亡くしたなかで
三日三晩救護活動に繰り出し
たくさんの救えない命を前に
なぜこの人たちが亡くなって
何の価値もない自分が生き残ってしまったのだと
サイバーズギルトに襲われるなどしたが、
生き残った分亡くなった人の分も
人生を楽しまなければならないと
常に明るく生きていたと聞かされる
ちなみに再婚相手は
幼い頃に父が浮気性で暴力を振るい出て行き
母親も男を取っ替え引っ替えして家に寄り付かず
常に一人ぼっちだったからずっと家族が欲しかった
それまではそれで可哀想がられたりされたくなくて
弱みを見せないようにして生きてたけど
町工場の社長の人柄の良さに惹かれ
この人と家族になりたいと思ったとのこと