「悲しい現実の中に見出す希望」型破りな教室 Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)
悲しい現実の中に見出す希望
メキシコでの実話に基づいた話。2011年、アメリカ国境に程近く、向こう側にはNASAの宇宙センターを臨むことのできるマタモロスの街では犯罪が蔓延り、パソコンは設置すれば盗まれ、百科事典の全巻すら揃っていないほど小学校の設備は劣悪、教員も意欲のない者ばかりで、半数の生徒がドロップアウトしていた。そこに6年生クラス産休の代用教員として赴任して来たのがフアレスだった。彼の奇抜な(あるいは型破りな)教え方は周りの教員や教育委員会からは決して認められるものではなかったが、教室の生徒たちは明らかに変容を遂げていた。しかし、ある事件が起こり……。
なんでスペイン語ではなく英語のタイトルなんだろうと思っていたのだが、英語の "radical" はスペイン語でも "radical" だった… というのは置いておいて、フアレスの教え方は、実は、私自身の目には決してラディカルには映らず、「主体性」「対話」「探究」「課題解決」「学習者中心」といった近年のバズワードで表現される手法。ただ、現在の各地の教室でもそれが主流になっているとは言い難い状況で、統一試験(ENLACE)で点数を取ることしか考えていない当時の教師たちにとっては明らかに過激(ラディカル)に映ったであろうことは想像に難くない。そして、フアレスのファシリテーションの上手さは感動的ですらある。
類似のテーマを扱った、まだ記憶に新しいテレビドラマの『宙わたる教室』とも重なる部分も少なくないのだが、メキシコの小学校の現実は新宿の定時制高校ほど甘いものではない。悲劇は悲劇のまま終わってしまうことも悲しい現実だ。
ニグレクト、ヤングケアラー、貧困、児童労働、暴力、殺人、麻薬、汚職、等々、何でもありの環境の中で「現実を見ろ、夢を見るな」という大人と「自分の可能性を生かすも殺すも自分次第だ」という大人。本当の希望を与えられるのはどちらなのか、と大人たちが自問することを迫られる。
キツそうに思えるかもしれないが、全体的にはコメディタッチで描かれ、希望も感じられる良作だ。