「想像することが難しい「自分がいないことになっている世界」」弟は僕のヒーロー Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
想像することが難しい「自分がいないことになっている世界」
2024.1.18 字幕 京都シネマ
2019年のイタリア&スペインの映画(102分、PG12)
ダウン症の弟を恥じて嘘をついてしまった兄を描く青春映画
原案はYouTubeにアップロードされた5分間の動画『Una Simple Entervista』
監督はステファノ・チパーニ
脚本はファビオ・ボニファッチ
原題は『Mio fratello rincorre i dinosauri』、英題は『My Brother Chases Dinosaures』で、ともに「僕の弟は恐竜に夢中」という意味
物語の舞台は、イタリア北部の小さな街
5歳になったジャック(幼少期:ルカ・モレロ、少年期:フランチェスコ・ゲギ)は、弟ジョー(幼少期:アントニオ・ウラス、少年期:ロレンツォ・シスト)が生まれるのを楽しみにしていた
ようやく生まれ、ジャックは父ダヴィデ(アレッサンドロ・ガスマン)と母カティア(イザベラ・ラゴゼーネ)から「特別な子ども」と説明される
当初はその意味がわからなかったが、思春期に差し掛かり、ジョーが普通とは違うことを認識し始める
そして、中学から高校に上がる際に、ある「嘘」をついてしまった
それは、一目惚れをしたアリアンナ(アリアンナ・ベケローニ)に「弟はいない」と言ってしまったことだった
親友のヴィット(ロベルト・ノッキ、幼少期:アンドレア・ティンパネッリ)は呆れるものの、やむを得ずに口裏を合わせることになった
物語は、活動的なアリアンナの学生運動につきあわされるうちに、取り返しのできない嘘をつく様子が描かれていく
そして、その嘘を上塗りするようにまた嘘をつき、という感じに、どんどん深みにハマっていくのである
その頃から、ジョーはヴィットに頼んでYouTube動画を上げるようになっていた
それを知ったジャックは、パスワードを入手してバズっている動画を削除し、それをネオナチのせいにしてビラまで作ってしまう
この動きに怒りを挙げた両親はネオナチの活動拠点の前でデモ活動を始めるようになり、ジャックは「これ以上は無理だ」と白旗を上げ、一連の騒動は自分のせいだと告白するのである
この行動に呆れたアリアンナはジャックの元を去り、学校中からいじめを受けるようになってしまう
だが、ジョーはそんなことはお構いなしに、いつものように接してくるのである
映画は、彼らが作り上げた5分間の動画がバズり、それによって兄が執筆したノンフィクション本が作られることになった
本作は、それを原案として制作されているので、ジャック目線の話になっている
物語は、思春期の恋愛で家族が特別だったらどう紹介するかという命題を描いていて、ジャックは隠そうとしてしまうのだが、クラスメイトたちはその対応に対してバッシングを行ってくる
同じ立場ならどうするかという想像はそこにはないのだが、とは言え「死んだことにする」というのは擁護できないものだと言える
動画に関しては、ジョーの撮りたいものを撮っているだけというもので、それがプチバズりするものの、世界的なムーブメントを起こしたのはラストで再現される「インタビュー映像」だった
そこにはジャックとジョーの姿が映されていて、仲睦まじい兄弟の関係がそこに描かれている
そしてまた、この映像が出来上がるには、ジャックの嘘も必要だったと言えるのだろう
いずれにせよ、ジャックの中で育った「弟との違い」というものが価値観に落とし込まれる様子を描いていて、それを対外的にどのように消化すれば良かったのかを考えさせる内容になっている
また、アリアンナがジャックと距離を置いているのも、「自分のことしか考えていない」からであり、それはジョーの隠し事だけではなかった
「自分が死んだことにされている」という想像をすることは難しいのだが、自分の欲望を優先することの愚かさは、このような事例を通して学んでおくべきなのかなと感じた