「私には敷居の高い上級者向け作品」瞳をとじて おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
私には敷居の高い上級者向け作品
普段あまり観ることのないスペイン映画で、しかもヒューマンミステリーということで、ちょっと興味を惹かれて鑑賞してきました。でも、自分にはちょっと難しい作品でした。
ストーリーは、撮影中に主演俳優フリオ・アレナスに失踪された映画監督ミゲルのもとに、失踪事件の謎を追うテレビ番組から出演依頼が届いことをきっかけに、ミゲルが昔の仕事仲間のマックス、フリオの娘のアナ、かつての恋人のロラを訪ね歩き、フリオの行方をたどる中、彼に似た人物が海辺の高齢者施設にいるとの情報を受け、そこで久しぶりの再会を果たすというもの。
冒頭から重厚さが漂う作品であり、その雰囲気は全編で貫かれ、長い年月を経たミゲルとフリオの邂逅をじっくりと描いていると感じます。しかし、そこに再会を喜び合う二人の姿はなく、この行方探しの旅路はどのような結末を迎えるのかと、クライマックスに向けてフリオの動向から目が離せなくなります。
ただ、最後まで明確な結末が描かれることはないので、自分なりに想像して余韻に浸るのか、訳がわからずモヤモヤしたまま終わるのか、観る者によって受け取り方はさまざまになろうかと思います。私はもちろん後者で、本作から何をどう感じればいいのか、なかなか理解できませんでした。
いったいミゲルは何がしたかったのでしょうか。自分の中に引っかかっていた思いをなくしたかったのでしょうか。そのために、未完のままお蔵入りした映画を決着させたかったのでしょうか。それとも、長年行方不明で記憶も失った親友との大切な思い出を取り戻したかったのでしょうか。すれ違いから失った親子の時間を取り戻させようとしていたのでしょうか。そもそもフリオはなぜ失踪し、どうして記憶をなくしてしまったのでしょう。さまざまな思惑が錯綜しているように見え、しかもその結末がどうなったかもわからず、モヤモヤしてしまいます。もしかすると、どんな結果を招こうと、今やるべきことをやりきったという、その思いこそが大切だったのかもしれません。
というわけで、観る者を選ぶ上級者向けの作品という感じで、自分のような若輩者には敷居の高い作品でございました。この日4本目の鑑賞でやや疲れもあり、タイトルに誘われたわけではないですが何度も瞳をとじてしまい、いろいろ大切なセリフを聞き落としたせいで理解が不足していたのならご容赦ください。それにしても、ゆったりしたテンポで延々と続く、聞き慣れない名前と地名が目白押しの会話劇は、なかなかつらい時間でありました。
主演はマノロ・ソロ、脇を固めるのはホセ・コロナド、アナ・トレント、マリオ・パルド、エレナ・ミケルらで、一人も存じ上げませんが、落ち着いた演技が本作の雰囲気によくマッチしています。
「未完のままお蔵入りした映画を決着させたかったのか」について。私はミゲルの思いがはじめはお金になる話から徐々に自発的なものになった様子からそれは結果的にそうなったのかなと。困難(立ち退き)にも向かう前途ある若い夫婦への眼差しには後に続く者への先輩としての愛と励ましがみえ、監督が晩年に際し振り返る歳月、老いながら生きていく貴重な時間をミゲルとまわりの人々を通じ描いたようにも思います。