「長い旅路のようで、一瞬のまばたきにも感じられる重厚なドラマ」瞳をとじて 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
長い旅路のようで、一瞬のまばたきにも感じられる重厚なドラマ
エリセの初長編『ミツバチのささやき』に、とある映画が効果的に登場したの同じく、31年ぶりとなる今回の新作長編でハッとさせられるのはやはり映画内映画という構造だ。20年前、主演俳優の失踪によって未完のままとなったらしいその映画。主人公の映画監督ミゲルは今、かつての記憶や証言を手繰り寄せながら、親友でもあった俳優フリオの消息を探し求めるーーー。169分の凪いだ海をゆっくりと漕ぎゆくかのように美しく丹念に紡がれていく本作。長らく新作を発表していないミゲルの状況はどこかエリセ自身と重なる。そして過去のエリセ作品が時を経てもなお登場人物のまなざしを透き通るほどの純真さで投射し続けるように、未完成の映画もまた、20年後の彼らに訴えかける。おそらくエリセにとって映画とは、観る者が自らを投じることで深く結実していくもの。ふと私の脳裏に『ミツバチ』のアナが瞳を閉じて純粋に思いを捧げようとする姿が蘇ってきた。
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