「ほっこりできて、視点の鋭さに気付く至福のときが待っていますよ」九十歳。何がめでたい Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
ほっこりできて、視点の鋭さに気付く至福のときが待っていますよ
2024.6.25 イオンシネマ久御山
2024年の日本映画(99分、G)
原作は佐藤愛子のエッセイ『九十歳。何がめでたい』『九十八歳。戦いやまず』
断筆宣言をした作家と頑固な編集者の掛け合いを描くヒューマンドラマ
監督は前田哲
脚本は大島里美
物語の舞台は、都内某所
元作家の佐藤愛子(草笛光子)は、執筆活動から離れて、暇を持て余す生活を送っていた
娘・響子(真矢ミキ)、孫・桃子(藤間爽子)と同居しているが、いつも新聞を読んだり、テレビを見ては文句ばかり言う日々を過ごしていた
一方その頃、とある週刊誌の編集部では、吉川真也(唐沢寿明)のセクハラ&パワハラ問題で揺れていて、真也はその調査の間、在宅勤務を言い渡されてしまう
そして、結局はそれが認定され、別の雑誌へと飛ばされてしまう
その雑誌では、断筆宣言をした佐藤愛子のエッセイを企画していたが、編集者の水野(片岡千之助)は一度訪問して断られただけで、あっさりと諦めてしまう
真也は意地になって、その担当となり、愛子の自宅を訪れることになったのである
物語は、手土産を持って執拗に訪れる真也が描かれ、あれこれと理由をつけて断る様子が描かれていく
「今日が最後です」と切り出すものの、愛子の対応は変わらず、そこで真也は演技をすることで、家族の同情を買う作戦に打って出る
愛子もその芝居に騙されて、「九十歳。何がめでたい」というタイトルにて、エッセイの執筆を開始することになった
だが、2年ぶりに原稿に向かうものの、書きたいものがまったく見つからない
真也とともに散歩に出かける愛子は、公園にて楽しそうに笑う子どもたちを見て、その後、新聞にて「子どもの声がうるさいという理由で幼稚園の建設が取りやめになった記事」を見て、ある思いに心を馳せることになったのである
映画は、愛子が思ったことをエッセイに書く様子が描かれ、エッセイの映像化のようなテイストになっている
いくつかのエピソードをうまく組み合わせて、ユーモアを交えて綴っているので、館内でもクスクスと笑いが起こっていた
映画館で観る必要があるかは何とも言えないが、空いた時間にほっこりしたいという感じならOKだろう
また、言いたいことを言えずに人生を無駄にしている真也の妻・麻里子(木村多江)が反撃するパートも面白い
前後しているものの、自分の行動が結果として、多くの物言わぬ主婦を起こしている部分があるので、それもまた人生の面白さなのかな、と感じた
いずれにせよ、佐藤愛子を知っていなくても大丈夫で、エッセイを読んだことがなくても問題ない作品だった
日常系エッセイなので共感を得ることは容易だが、言葉の端々で作家らしい言葉選びがあるのが面白い
子どもたちの騒ぎ声を「天使の合唱」と呼び、太平洋戦争の絶望的な静寂を対比に出しているのだが、記事で建設反対を訴えた年齢層に直撃させる内容になっているので、なかなかの切れ味だなあと思った