劇場公開日 2024年1月27日

「スポメニック」すべて、至るところにある あらP★さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0スポメニック

2024年2月17日
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鑑賞方法:映画館

知的

「幽玄廃墟」などの作品がある星野藍さんが紹介されていたので観た。バルカン半島に点在するソ連共産圏時代のモニュメント、いわゆるスポメニックが出てくる、ただその一点だけで。
スポメニックといえば、子供の頃、信州・大町の郊外にある別荘地の林の中にそびえ立っていた、茶筅を立てたような巨大なモニュメントを思い出す。いま検索しても情報が出てこないので、あれが何だったのかわからずじまいだが、ダムや橋など巨大建造物が好きになったのは、あの原体験があったからだろうと思う。
スポメニックには、レーニン像のようなわかりやすい偶像や、議事堂のような明確な使用目的がなく、ただ国家の威光を示す建前でコンクリート芸術家が腕を奮った、不思議な魅力がある。その国家の威光が失われ、半ば廃墟となりつつも遺されて佇んでいることで、何とも言えない悲哀をまとっている。
この作品は、監督のバルカン三部作の最終作として撮られた、とのことで、本編のストーリーにもそれが反映されている。前2作は観ていないのだが、なんとなくつながりを想像しながら鑑賞した。背景には、コロナ禍と、旧ユーゴの戦争の爪痕、隣のウクライナで始まった戦争があり、現地の人々のインタビューを交えて風景と遺跡を巡るドキュメンタリーと、フィクションが織り交ぜられている。時間と空間を行き来するストーリーで、登場人物に感情移入することは無かったが、背景にある事象がぽっかりと空白のまま描かれず、しかし、それは確かに「すべて、至るところにある」のだった。

あらP★