「国民の方を向いていない指導者」ビヨンド・ユートピア 脱北 bikkeさんの映画レビュー(感想・評価)
国民の方を向いていない指導者
よくぞ、撮ったものだ。
冒頭「再現フィルムではない」と一文が入る。
すべてが隠し撮りの映像、
見つかると命を失うドキュメンタリーなのだ。
撮影スタッフも、もちろん脱北する家族と
それに帯同するキム牧師も、
たまたま運が良かったとしか思えない
緊迫した時間が映し出される。
明かりを最小限にして幼い子どもたちと祖母を連れ、
10時間も山の中を歩き通し、小舟で国境を渡る。
信頼できるのかも定かではない
ブローカーに命を託すしかない綱渡りが続く。
そんな彼らに、自ら一緒について行き、
ブローカーと連絡を細やかに取る牧師がいてくれる、
それはなんと心強いことだろう。
脱北を果たした幸運な家族と対照的なのが、
もう一方の家族。
自分も幼い息子を置いて脱北した母親。
10年以上を経て呼び寄せた息子が国境で捕まってしまう。お金を用意するがどうにもならず、
角材で殴られ胸も腰も痛め、食べ物も噛めない
様子を聞かされるなんて酷すぎるよ。
17歳の息子は母にも会えず
過酷な拷問でひとり死んでいくだろう。
息子の幸せのためにどうすれば良かったというのか。
飢えて道で野垂れ死んでいる市民の映像や
放課後、毎日何時間もマスゲームの練習をさせられたと
語る、脱北した若い女性のインタビューが挟まれる。
なんという国。なんという指導者。
そして、これほどまでに生命や人権が脅かされている
というのに、周りはなすすべもないのだ。
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