あんのことのレビュー・感想・評価
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あんという人間を見るべき
フィクションでありながら、事実に基づくとして始まるこの物語は、シャブ中の少女が成長し、社会復帰しようとする。
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過酷な家庭環境のシーンや、ドラッグからなかなか抜けられないシーンは河合優実の演技の素晴らしさが際立つ。見ているだけでこちらも泣けてくる。
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そんな彼女が、警察に捕まるんだけれど更生しようと一生懸命に生きる姿もまた素晴らしく心に刺さる。
河合優実の演技はぶっ飛んでてもすごいんだけどこういう闇深い役がめちゃくちゃ合うな、、凄い。マジで。
その生き様にまた涙する。心が抉られる。
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そんな彼女のストーリーと、警察、記者のストーリーが交差するので情報量が多いんだけれど、河合優実の演技に完全に感情移入してしまっているのですんなり入ってくる。そしてここでまた泣けてくる。
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ラストにかけてイベントの畳み込みがあり、最高に重いので、マジで気が滅入る作品なんだけど、これは見るべき映画です。
彼女の演技もそうだし、事実としての出来事もそうだし。
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実際の記事がネットで見れるようですが、見ない方が映画に入り込めるでしょう。
誰かにとっての光と影
せつない
性加害の問題など、昨今いろいろ悲しい話が表に出てきているので、こういう境遇の方もいるだろうな、と納得してしまう。
ただただ悲しく,切ない。淡々と描かれていて、とてもよかった。
多々羅のしたことは、ジャニー喜多川氏と似てるかな、と途中思った。ジャニー氏は、多分全ての子に手を出していたと思うけど。
個人的には,本来なら,子供の保護は政府がするべきことなんだと思う。コロナのせいで"仕方ない"ではなく、本来は政治がこういう子供を救うべきと思うけど、そういうシステムがないもんなぁ。。。
「記事にした自分が悪い」なんて、桐野が思うことじゃないのに。
稲垣吾郎さんのコメント
「人は生まれながらに誰かと繋がり生きていく権利を持っている。」
にとても共感。権利なんだよね。うん、うん。
わたしは飛び降りる直前のシーンで、
「あ、人って一人じゃないんだ。そして、一人では生きていけない、ってことを認識しないと。」
と、ふと思った。私はずっと自立しないと、と一人で頑張ってしまっていたんだけど。杏も、誰かれ構わず、頼れる人を探せるくらいだと良かったんだけど。
頼っちゃいけない、と思わされているところから、世の中狂ってきているのかも。
「お金があれば生きていける」と、思わされているところも一緒。
追記
今、TVドラマ見て思ったけど、ドラマの方がよっぽどかわいい。事実の方がだいぶ酷いことの方が多い。犯罪の内容も、人間性も。前に、警察内での横領などを題材にした映画の時も、「実際はもっとひどいから」と、教えてもらったことがあったなぁ。
あんのことをいつまでも考えてしまいます
信じられないような境遇で育った一人の少女。
でもそんな境遇の中でも懸命に生きようとした一人の女性の物語は、余りにも悲しい結末でした。
絶望の先にあるのはたった一つの道。
自分に負けたんじゃないよ。
負けたのは都合良く生きようとする大人の欲望と、やはり都合よくやり過ごそうとする社会の闇。
でも孤独の中から救いの手を差し出してくれるのもやはり人間であり社会であったりする。暖かい目を向けてくれる人だっている。
多々羅刑事だって杏を更生させたいと本気で思っていただろうし、介護施設だって学校だって杏に対して親身になってくれていた。
でも、表があれば裏がある。善と悪を使い分けた多々羅刑事も人間の真の姿であり、社会もまた、守るべきは自分たちであると見せつけ、弱者は常に弱者のままです。
それにしてもあの母親はどうにかならなかったのでしょうか。
誰か周りにいなかったのかなあ。今更言ってもどうにもなりませんが。
演じた河井青葉さんの狂気に満ちた演技は見事。見ていて寒々しく、いつどこに現れるかわからない恐怖を感じました。
そんな親の元で育ち、親の愛情などまるで知らない杏がハヤトを大事に預かっていたのが切ないですね。幼き自分を重ねていたのかな。
どこまでが実話でどこがフィクションかはわかりませんが、この作品の世界を作った三人のメインの演者が凄いですね。
河合優実の作り上げた杏と言う少女が見せる覚悟。
佐藤二朗が演じた多々羅と言う刑事が見せた人間の本性。
稲垣吾郎が演じる桐野が思惑を胸にしまって寄り添う絶妙さと後悔。
先述した河井青葉さんを含め心に深く残る圧巻の演技でした。
観終わって感じるのはどんよりした重苦しさだけですが、この作品に対しての思いがいつまでも頭をめぐります。
過酷な環境の中で育ちながらも、小さな希望の光の元で笑顔で過ごす時もあったでしょう。絶望と希望の間で生きた香川杏と言う若き女性が確かにいたことを忘れまいぞと思います。
いつもでも心に深く残る、いい映画を見ました
あんさんは居た
感謝はしても尊敬はしないという距離感を持つことで、家族の呪いは少しだけ和らぐ
2024.6.13 アップリンク京都
2024年の日本映画(113分、PG12)
2020年6月1日に朝日新聞に掲載されたある女性の顛末をモチーフにつくられた社会派ヒューマンドラマ
監督&脚本は入江悠
物語の舞台は、都心のどこか
14歳のときから母・春海(河井青葉)に強要されて売春を繰り返してきた杏(河合優実)は、ある日、客の男(山口航太)がシャブを打ったあとにぶっ倒れてしまう事件に遭遇してしまう
逃げ出すこともできずに警察の厄介になるものの、そこで担当になった刑事・多田羅(佐藤二朗)はおかしな男で、突然取調室でヨガを始めてしまった
多田羅は「サルページ赤羽」という名前の「覚せい剤から立ち直るためのセラピー」を個人的に運営し、そこで「覚せい剤から立ち直ろうとする人々」の復帰を支援していた
杏はそのセラピーに足を運び始め、多田羅の紹介で介護職に就くことになった
だが、初任給はかなりピンハネされていて、わずかな収入も母親に奪われてしまった
そのことが原因で杏は再び覚せい剤に手を出してしまい、多田羅は母親から分離させなければ難しいと考えた
杏は多田羅との約束を守って家出をして、シェルターに住むようになる
今度は多田羅の友人のジャーナリスト桐野(稲垣吾郎)の紹介で「若草園」という施設で勤めるようになり、さらに日本語学校にも通うようになる
徐々に笑顔を取り戻しつつあったある日、多田羅がセラピー参加者・雅(護あきな)への猥褻行為が発覚して逮捕されてしまう
さらに、コロナ禍の直撃に遭ってしまい、施設は非正規雇用の一時休職、日本語学校も休学となってしまう
そんな折、シェルターの隣人・三隅(早見あかり)から強引に子ども(稲野慈恩)を押し付けられてしまうのである
映画は、子育て以外は実話ベースになっていて、母親に売春を強要されたことや、親身になってくれた刑事が実はセクハラ常習者だったというところは事実になっている
それでも、事件の発覚の時系列(自殺後に逮捕)などが映画向けに改変されていて、あくまでも「モチーフ」として、完全再現を目指してはいない
本当に救いようのない映画になっていて、希望に見える部分はフィクションになっているので、現実はもっと悲惨であるように思える
孤独と孤立の違いが描かれていて、孤立状態が長く続くほど、孤独というものが強調されていくように見えてくる
杏を死に至らしめたのは、ざっくり言えば「それでも母を刺せない弱さ」であり、幼少期の思い出が「祖母を神格化させている部分」もあるように思う
俯瞰してみれば、杏のこの状況を作り出しているのは祖母(広岡由里子)であり、毒親の連鎖が続いていたように思える
母は杏を「ママ」と呼ぶのだが、それは目の前にいるはずの母は母ではないという意味になるし、母親らしきことをしてこなかったことに対する当てつけのように思える
そうして、繋がってしまった親子の絆というものが呪いになって、杏を縛り付けていたのである
いずれにせよ、コロナ禍を忘れないという思いと、あの渦中で杏のようにひっそりと死んでいった隣人がいるというのは衝撃的であるように思う
このような世の中で生きていけるのは、自分のことだけ考えて、心配するふりをしている三隅のような人間であり、さらっと「お墓参りできないのですね」と自尊心を傷つけない程度に距離を置くところが恐ろしくもある
映画の主題は多田羅が語る最後のセリフであり、「現実逃避すら拒まざるを得ない絶望」というものが、このような顛末を引き寄せてしまうのかな、と感じた
重いけど惹き込まれる
鑑賞後、深い余韻が残る作品でした。
前半の希望の糸を手繰り寄せながら前を向いて生きようと上り坂を登り始める展開と、後半の下り坂を転げ落ちるような絶望に次ぐ絶望のコントラストが印象的な構成でした。
主人公のあんが今そこにいそうな息遣いで演じられていて、劇場内は満員で没頭できないかもと言う不安をよそにあっという間に作品の中に引き込まれました。あんの母親も怪演で性根から毒親という感じがして非常に説得力がありました。
少し残念だったのは、あんを取り囲む何人かの人物たちや演出の描写が雑というかアンビバレントだったこと。
稲垣吾郎は佇まいがSMAP稲垣吾郎すぎて、もう少し見た目やカラオケの歌をさらに下手に歌うようにするなどベテラン週刊誌記者に寄せたら入り込めたのにと思いました。
また、子供を勝手に預けたシングルマザーが最後はさらっと改心したのは脚本上話をまとめに行きたかったのでご都合的に入れられた気がしてしまい、そこに至る背景が説明不足な感じがしてしまいました。
さらに、あんが必死に子育てをする描写は良かったのですが、部屋に真新しそうなおもちゃがたくさん置いてあるのがあんの経済力からして違和感でした(あのおもちゃ達が1つ数千円以上するのになと思って見てしまいました)。
あんのクマの濃い風貌や安物のデイパック、心の機微の見せ方などあん自身には非常に丁寧に演出が施されていたように感じたので上記が余計ににちょっと残念に感じましたが、あんにフォーカスするそぎ落とした結果なのかもしれません。
終始カメラワークは少し1歩引いて、あんの日常を覗き見てるような感じで撮影されており、過剰な演出もなく、とても良かったです。それ故に、ブルーインパルスが舞う空や最後の手帳のメモがはらりと落ちていく演出的なシーンが引き立っていたように感じます。
コロナ禍のニュース映像やブルーインパルスの飛ぶ空は自身の記憶も呼び起こしてくれるものであり、たった数年前の出来事でも随分忘れて生きてしまっていることを再認識させてくれました。
そういった意味で、観客とあんのライフストーリーの接点をうまく作っていた作品だと言うふうに感じました。
総じて見て良かったと思える作品であり、普段無意識に対岸の岸の出来事と捉えてしまっている社会問題をグッと近くに引き寄せてくれるような力強い映画でした
コロナってこんなところにも……
あたしにとっての噛めば噛むほど味の出る「スルメ俳優」佐藤二朗さんも出ていらっしゃることですし、重苦しそうな映画ではあるけれど、河合優実ちゃん観たさに劇場に足を運んでみた。
いや〜重かった。そして苦しかった。
日本の映画ってホラーぢゃないけど『ある種ホラーにも感じられるよね』っていう日常的なヒューマンホラー映画作るの本当に上手いよね💦💦💦
実話をもとに、ってことだったけど特定の『誰か』を指してるわけではなく、こんな目にあった人がいるんだよってことになるのかな。
コロナ禍を振り返ると確かに自分の生活は大きく変化した。それまで考えたこともなかったテレワークが出来るようになったり、飲食店が不定期開店だから自炊するようになったり、人と会うことを極力避けるような行動パターンになったり。でも作中に出てくるような職場において密集度合いを考慮した人減らしにあって収入源が絶たれたり、夜間通っている学校の休業連絡を受けしばらく通えなくなったり、と比べたらさほど大きくもない変化だったのかな。
杏ちゃん、やっと頼れる人が見つかったのにね…
自分とは関係のないところで力が働きそのせいで自分にはどーしよーもないけど多大な影響が出る、そんな理不尽なことって人生の色んな場面で起きるけど、杏ちゃんの場合はただただ不憫で。少しでも希望を感じられたらよかったんだけど、そう上手くも行かなくて。
でもそんな杏ちゃんをしっかりと演じ切った河合優実ちゃんの実力はしっかりと感じました!LINEの縦読みドラマ『上下関係』で初めて観てから3年。良き女優さんになりました💖
この事実、どう向き合えばいい?
彼女を助けたいとか、可哀想と思うのは、確実に私の驕りですね。それでも私、彼女のこと、忘れたくない。
世界の歪みって、いちばん弱い場所に、集中するんですね。誰よりも、誰かを傷つけたくない、誰よりも、誰かを護ってあげたい。その思いが強くなる程、世界は残酷になるようです。
事実に基づくお話だそうですが、すると、彼女の母親も、実在するわけですね。母さん、今頃何してるんですかね。この映画に気づいたら、私は、あんな親じゃないって、訴えそう。その時は、堂々と実名を公表したうえで、世に出てきてほしいものです。私の知る権利と、悪意が止まりません。
私が知ろうとしないだけで、このクニには、数えきれない杏がいる。私はその中の、たったひとりの杏に出会っただけなのかも知れない。今、私にできる事、自分でも分からない。ただ、今日、出会った杏のことだけでも、ずっと忘れたくない。
今の私にできる事って、それぐらいだけだから…。
私の好きな歌、杏ちゃんに届くかな。
あのささやかな人生を
良くは言わぬ人もあるだろう
あのささやかな人生を
無駄となじる人もいるだろう
でも 僕は誉める
君の知らぬ 君について
いくつでも
あのささやかな人生は
もしかしたら 僕に似ている
あのささやかな人生は
もしかしたら 君だったのか
通りすぎる街の中で そんな人を 見かけないか
瞬きひとつの あいだの一生
僕たちは みんな一瞬の星
瞬きもせずに
息をすることさえ 惜しむかのように 求めあう
中島みゆき 「瞬きもせず」
( ´Д`)y━・~~評価高いですが、、、、
連鎖
実話を元にした映画です。
いつも明るくニコニコしていて恥ずかしがり屋で、周囲から少し引いて、もじもじしているような女の子だったそうです。
伝えたいと思った。
でもそれは、様々な決めつけや偏見に苦しんだであろうご本人を、更に苦しめるかもしれない。
葛藤の中、最大の共感で寄り添いながら作られたこの作品からは、精一杯生きた主人公の人生が、とても愛おしく伝わってきました。
わたしの力では、世界を変えることはできないし、今生きて苦しんでいる、たくさんの杏を救うこともできない。
でも、目の前のほんとに小さなことを積み重ねることはしていきたいと思う。
誰にだって起こりえる瞬間の、あとほんの少しの勇気になることだってあるかもしれないから。
今目の前にいる誰かが、もしかしたら彼女ではないかと想像して、たとえ小さ過ぎることでも、できることをしていけたらと思いました。
一つだけ気になったのは、難しい問題だろうと思いますが、お母さんにも寄り添う必要があるのではと感じました。
生きるのは難しく、一人では乗り越えられないこともたくさんあるから、少しでも負の連鎖を正の連鎖に変えていけるように、支え合って生きていければいいなと、夢みたいに思いました。
無垢
すごい作品を観てしまった
上映中、ほとんど泣いていた。
あんが、日記を買ったり(盗まなくて良かった…)ぎこちなくはにかんだり、一歩引いてた所から少しずつ周りに馴染むようにがんばったり、そんな一挙一動に心を酷く揺さぶられ、とにかく涙が止まらない。
もう、彼女を愛さずにはいられない。
それくらい純真で、周りの優しさを素直に聞き入れスポンジの様に綺麗なものを吸い込んでいく。
奪われた少女時代を取り戻すように勉強し、働き、日記に丸をつけ、自然に笑えるようになっていく。
どんぐりころころなんて、他愛のない言葉も全て拾い上げる。
あんなに実の親から虐げられていても、腐るところなく明るく染まっていく。
アパートでカーテンを開けた瞬間、光があんを射し込み「すご…」そっと呟く。
しかし、悪いものも諦めたように吸い込んでいくのだ。
周りの大人達の勝手な優しさや裏切り、搾取、世界情勢、それらのピースが全てハマってしまった時、あんは真っ黒になってしまう。
最後に放たれた「恩人」の言葉。
一瞬、報われたと思ったがそうではないのだ。
あんの生涯はそんな陳腐な言葉で片付けていいものではないのだ。
青い空にはインパルスが。
そして、あんを「ママ」と呼び依存する寄生虫毒母は上映中脳内で50回くらい刺しておいた。
崩れるのは一瞬
序盤の「お前がクスリやってんだろ」という佐藤二朗の取調べで、意外とコミカルなのかと。
まぁ、そんなワケないですよね…
劣悪な家庭環境の中、多々羅のサポートによって徐々に抜け出す術を知る杏。
河合優実の表情変化が素晴らしく、初めて笑顔を見せた時にはまだ数十分しか杏を知らないのに涙腺が緩んだ。
介護施設の所長もいい人だったし、サルベージで身の上を語った杏の肩を抱く多々羅が暖かくて…
だからこそ、多々羅が根っからの悪人とは思えない。
もちろんやったことは最低だが、すべてが下心からの演技ではないと感じるのは、自分の願望だろうか。
杏のことを時折「ママ」と呼ぶ母など、基本的に登場人物の深層までは明かされない。
このあたりは解釈の分かれるところだと思う。
桐野から、予告にある「正義感と友情に揺れる」様子が見られなかったのは残念。
多々羅が逮捕された後のフォローくらいしろよ。
早見あかりの役どころも、それまで交流があったかも分からず、最後のアレは逆に軽薄に映る。
ただ、彼らに悪意はないし、自分がそうならない自信もない。
個人的には、原さんや子供と接する杏が好きだった。
お年寄りだけなら祖母と重ねたのかと思うが、子供への接し方も愛に溢れていた。
あの生い立ちであれなのだから、本当に優しいコだったんだと思う。
また『サマーフィルムにのって』や『愛なのに』のような河合優実が見たいが、次回作もヤバそうだな。
蜘蛛の糸を這い上がれ無かったあん
こう言う作品、今迄数限りなく観てきましたが、どの作品も、最後は何かしかの救いが有りましたが、この作品、私には全く有りませんでした。初めてです。敢えて言えば、主人公の母親が、泣いてる子を追い出すのに、役所を使ったのが、主人公には救いを感じたかも知れませんね。佐藤二朗さん、初めてです、この佐藤二朗さんを観たのは。圧巻でした。
「蘇り彼女が残した物」生まれ死ぬまで何も無い、そして墓も無い
ギャンググースなど手掛けた入江悠監督作品
主演は河合優実、パワフルな演技の刑事役の佐藤次郎、「十二人の刺客2010」で悪役で好演だった稲垣吾郎が記者役として脇を固めます。実話が元で作られた作品で
小4で不登校、12歳で体を売りシャブの中毒で売人でもある21歳のあんの生涯を描いた作品。
生い立ちが不幸な主人公のあん演じる河合優実は腕にシャブの跡だらけ、目に大きなくまを作り痛々しいですが、そこにエネルギッシュな佐藤次郎が加わり、稲垣吾郎がカラオケでブルーハーツの情熱の薔薇を歌ったり、ハモリを入れたりとさり気ない歌手らしい演技もあり一瞬、作品に希望の光が差しますがこれが現実と言わんばかりに冒頭から終わりまで状況は変わりません。この作品にハッピーエンド、バットエンドなど存在せず、現実を描いたまでと思いました。
作中、あんが祖母にケーキを買って来たり、多々羅に手紙で感謝を告げるシーン、そして最後の墓は無いの一言は心に残り涙し、生きている者は真面目に強く生きなくてはと言うメッセージにも思えました。入江監督は「ギャングース」でも不幸な主人公達を描いており、今回の稲垣吾郎の様に「アンブロークン」のMIYABI、般若とアーティストも起用していてギター演奏もラップも無しでちゃんと俳優として扱うのが素晴らしいと思います。「ギャングース」は報われる所謂、ハッピーエンドですが幼児虐待、高齢化社会など日本の闇もしっかりと描写に入れています。「あんのこと」と「ギャングース」では真逆の結末ですが何れも日本の現実を捉え、力強い作品が多く大好きな監督です。
商業的な映画が多い中、「あんのこと」の様に
ちゃんとお金を払いたい映画が増えたらと心から願います。
物語~結末
映画開始早々に誰も居ない薄暗い街を虚ろな表情で歩く主人公のあん。
既に幸せな結末にはならない予感が伝わり、シャブの中毒であり売人である事が描かれ
家に帰ると足の踏み場も無いゴミ部屋に売人で得た金を強請る母親、足の不自由な祖母。
父親は見当たらず、冒頭の予感が絶望と言う確信に変わる。そんなあんは、逮捕される事を機に佐藤次郎演じる刑事、多々羅に出会う。リストカットを即座に見抜く鋭い洞察力を持ちながら取調室で呪文を唱え、机の上でヨガを始める奇想天外な刑事の行動にあんはお手あげ。股間を探りコンドームに入った白い粉を差し出す。煙草は吸わないあんに対し「煙草位吸っておけ!バカヤロー」と浴びせると
この人もシャブ中なの?と思う位にぶっ飛んだ行動る反面、生活保護申請など真摯にサポートする姿にあんは徐々に心を開き、刑事主催の更生セミナーに通う。その後、刑事の紹介で介護施設に働く事になるがこれはあんが将来、祖母を介護したい意向による事だった。
早々に施設ではわざと、飲み物をこぼす老人(老害)も登場し老人介護の闇も描かれ。
そう簡単に上手に進まないと思いきや、足の不自由な祖母の面倒に慣れているあんは、何も気にせず仕事をこなす。
初給料を貰い(真っ当な)日記と祖母にケーキを買う。セミナーで多田羅がシャブを使用しない日の日記に〇をつけろと言う言葉に従うが日記は平仮名ばかりだ。同様に祖母にケーキを買って帰る健気なシーンは心を打たれますが、それを早々に酔っ払い、男を連れた母親が破壊し初給料も奪われてしまいそうになる。ハンカチに赤い血。
あんは家を出て自立する覚悟を固める。
給料の不当な扱いからあんは、セミナーに取材に来る桐野の紹介で違う介護施設に移る。
給料を強請りに母親が職場に乱入する事もありながら施設の人々は追い出す事はなかった。
あんを暖かく迎える職場、新しい住まい、セミナー以外にも新たなに学校に通う。全く新しい生活に生きる喜びを得たあん。
セミナーで手紙を読むシーンは小学生で食べる為に万引きを繰り返し不登校。12歳で母親の強要で売春と不幸な生い立ちを告白しながら多田羅に感謝を伝える姿は目頭が熱くなります。
セミナーに通う人達を取材すると言う記者、稲垣五郎演じる桐野はあんに接近する。(実際は多田羅の不正行為のリークがあった為に通っていた)記事にする為と言うより、純粋に多々羅とあんに惹かれた様子で三人で過ごす描写が多くあります。桐野は取材を続けセミナーに通っていた女性から多々羅に性的要求されたと言う情報が入る。多々羅の行動を良く思わない施設の人間、刑事もおり早々に多々羅は逮捕される事になる。ショックを隠せないあんに、今度はコロナの猛威が襲う。
信頼していた、多田羅の逮捕。(親友)
逮捕によるセミナーの廃止。(同じ境遇の仲間)
コロナによる出勤停止。(金)
通学していた学校の休校。(学)
ボクシングで言うならば井上尚弥の本気パンチを4発連続で顔面で受ける。過去も不幸なだけにヘビー級ボクサーのパンチレベルかもしれない。
何れにせよ、普通の人では一発だけでも立ち上がる事は困難で最悪死に至るレベルだ。
追い打ちは終わらず今度は突然、アパートの住民に子供を預かってほしいと強引に子供を渡され逃げられてしまう。(あんは前夜にその母親の怒鳴り声と子供の声で寝れなかった)
もはや、極限状態で引き金を引いた銃やピンが抜かれた手榴弾を手渡された状態だ。
あんは仕方なく子供の世話をはじめ、子供の食事のアレルギーなど日記にメモを残していく。実の家族の様に子供と生活をする様になった所で偶然、あんの母親と遭遇してしまう。
「祖母がコロナにかかったかも知れない」と言う言葉に釣られ家に戻ると祖母は元気で、嘘をつかれた事に気が付いたあんは逃げようとする。
しかし、母親に子供を人質に取られ体を売って金を稼いで来いと要求され、あんはそれに従う。
あんは体を売り得た金を握り、母親に子供を返す様に要求する。
母親は子供が面倒だったから市役所に引き取って貰ったと告げる。あんは怒り、包丁を手にするが母親の圧力に負け、家を後にし再び覚醒剤に手を出してしまう。
目覚めたあんは、◯を付けてきた日記に目が止まる。再び覚醒剤を打ってしまった事、多々羅に対するやるせない気持ち、我が子の様に育てた子供を奪われ、何をしても上手く行かない人生の嫌気、衝動で日記を燃やそうとする。途中で慌てて火を消して焼け残ったメモを見つめ泣き崩れる。
窓の外を見上げると、コロナと闘う医療従事者をはじめとする多くの人々に、敬意と感謝を示すためのブルーインパルスの飛行が目に入る。
青空に不死鳥を意味するスモークが残っていた。
しかし、あんにはその意味も分からず、
分かっていたとしても理解する余力は残って居なかった。
導かられる様に窓を開けてベランダへ向かう。
そして、あんは再び覚悟を決める。
終盤、あんに子供を預けた母親が子供を市役所に引き取りに来る。母親は職員からあんが亡くなった事を告げられメモが渡される、メモはあんが子供の為にアレルギーなど書き残した物だった。
母親はあんにお礼が言いたいと
墓の場所を尋ねるが職員は
「母親が遺骨を取りに来たが、墓は無いでしょくね」と告げられる。
生まれてから殆ど良い事も無く、何か進んでもそれを覆す不幸な毎日、そして墓も無い。
このシーンは見ていて重い石がすっと体から落ちた感覚になり言葉を失いました。
映画は引き取られた子供とその母親の後ろ姿で幕をとじる。
スクリーンに蘇った彼女が残した物。
預けられた子供を救った事も勿論、
この作品を見て子育て、仕事、私生活と個人で刺さるポイントは違えど真っ当に生きなくてはと言う気持ちになった人は多いだろう。
真っ当な人間が増えればあんも、あんに預けられた子供の様な事は減る訳ですから。
この映画であんの様な子が一人でも減れば、報われると思います。
只、悲しい、可哀想と言う感想だけの人が多いのは
個人的にも残念で、監督や作品も亡くなったあんも
わざわざスクリーンで蘇らせてまたその一言で終わられてしまうのは報われないと思います。
悪い意味では無く日本が平和な証拠。
光が見えた矢先に訪れる困難、そして・・・
ドラッグの常習犯だった杏(あん)、ホステスの母親、
そして身体の悪い祖母と、ゴミ捨て場のような家で暮らす。
幼いころより母親より暴力を受け育ち、中学?で売春。
義務教育も放棄し、中学卒業もできず、21歳となった杏は警察に捕まり、
そこで、多々羅という刑事、ジャーナリストの桐野と出会い、
更生の道を歩み始める。
仕事に就き、学校にも通い始め、遅れを取り戻し始めたのだが、
そんな時に、新型コロナが流行、人々の生活が変わり、
杏、多々羅、桐野の三人の生活もいろいろと・・・
まあ、なんといっても鬼畜ばかり。
杏の母親、なんなの!最後の最後までひどすぎる。
それに、多々羅刑事、変わった刑事だなという反面、
ドラッグ中毒者の更生という慈善活動、素晴らしいと思いきや、
裏では・・・ひどすぎる
また、最初から怪しかったけど、ジャーナリストの桐野、
やっぱり探ってたんだよね。ひどすぎる。
幼子を杏にいきなり預け、失踪する女性。
こいつも母親としてどうだよ。ひどすぎる。
せっかく光が見えてきたという矢先に訪れる、
困難の数々、そして周りから頼れる人がいなくなり、
最後は鬼畜の母が。。。
主人公の杏を演じた河合優実さん、素敵ですね。
「不適切にもほどがある」は最初しか見ていませんが、
自然な演技、素晴らしいです。これからも注目。
多々羅刑事は佐藤二朗さん、ちょっと前に見た「変な家」といい、
あまり、らしくない役柄でしたが、好演でした。
最後、無事母親のもとに戻れた幼子のシーンが救い?
でも、また捨てられるかも、と思うと・・・
これが実話?あまりのバッドエンドな分だけ減点。。。
公開規模
ここ数年、「この作品にも河合優実」と見過ごせないばかりか、必ず印象に残る演技で爪痕を残してきた彼女。そんな彼女が主演と聞けば「いざ行かん」と本作公式サイトで劇場情報を確認すると、思いのほか公開規模が小さく。。正直一時は、入江悠監督(の過去作品たちを)を槍玉に挙げて配信待ちにまわす可能性もあったのですが、スケジュール的に無理がなさそうだったので久しぶりの丸の内TOEIです。記録がないため、何年ぶりなんだろう?大変ご無沙汰いたしました。サービスデイの11時の回は当日券を求める行列もあったりして、平日とは言えそこそこの客入りです。
で、鑑賞後の感想ですが、、入江監督、大変申し訳ありませんでした。凄かったです。ここまで衝撃を食らうとは思っておらず、帰途もついつい「あんのこと」を思い出し泣きそうになるほどで、これはしばらく要注意。かなりダウナー作品のため、これからご覧になる方も注意が必要です。何なら、これを配信で観ようものなら最後まで通して観ることが出来るのか?やはり劇場で見る意味の大きい作品でもあると思います。
本作、兎に角キャストの皆さん、もれなく演技が素晴らしく、そして凄まじい。比較的、個性強めな俳優さん揃いですが、皆さん悪目立ちすることなくまさにこの作品に存在する人間として違和感ないため、鑑賞していて否が応でも作品内に没入させられます。そして、緊迫のシーンが本当に怖く、だからこそ安寧な日々に幸せを感じ、さらにそこからの絶望に容赦のなさを感じます。
いやぁ、、言葉にならず申し訳ないですが、本作は予想をはるかに超えて刺さりました。キノフィルムズさん、これは公開規模拡大すべきです。少しでも多くの方に観ていただき、「関心領域」をひろめるべき。とても重要な作品だと思います。
環境
入江悠監督作品は初めて見ました。
この作品は事実を基にしているとの事、胸が痛むひどい話でしたが、映画にする意義は大きいと思いました。
あんという女性がいた事、彼女のような人たちがまだまだいるであろう事。
毒親・鬼畜母(または父)を映画で見る度、病気だなと思います。まともじゃない。娘への愛情など微塵もなく、あるのは執着心と支配欲だけ。育つ過程に何があったのか、負の連鎖?おばあちゃんは優しい人なのに。この母逮捕されりゃいいのにと本気で思いました。
シェルターで隣のシングルマザーからあんな風に子どもを押し付けられるなんてそれも驚き。この母親も男とトラブルって…最後「あんちゃんありがとう」ってさー(`´) 日記帳の切れ端見て悟ったとかそれは分かったのですが、びっくりしました。
手を差しのべてくれた多田羅刑事も、聖人君子ではなかった。でも行動によってあんの人生が変わっていこうとする事は唯一良かった点ではないかと思います。皮肉にも押し付けられた子どものお世話に懸命になり、老人ホームのおじいさんからも慕われた、あんの最後が残念でなりません。
俳優の皆さん素晴らしかった。
河合さんは脇役でちょいちょい拝見してましたが、実力派。すごくいいですよね。今年、一気にきましたね。今後も楽しみ。
佐藤二朗さんは「変な家」を見た後だけに、余計良かったです。
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