「ポパイ弁当を食ってみたい」映画の朝ごはん La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
ポパイ弁当を食ってみたい
「こんな映画を観たかったんだよ」と、エンドロールが終わり客電(客席のライト)が戻ってから僕は深く頷きました。映画やドラマなどのロケ・スタッフやキャスト向けに毎朝、おにぎり2個と、おかず一品、沢庵のお弁当を届けている仕出し屋「ポパイ」の一日を巡るドキュメンタリーです。
深夜24時の炊飯から仕事が始まり、多種の具を盛り込んだおにぎり作り、海苔巻き、下味を付け、から揚げ、盛り付け、パック、そして指定の場所まで早朝配達と目まぐるしい忙しさです。でも、そこで働く人々、多くはオッチャン・オバチャンは元気で陽気です。そうして生み出される弁当は多くのファンを持ち、「ポパイのおにぎりは何かが違う」と語る監督・スタッフ・俳優さんの声が次々と紹介されます。
そのお話だけでも面白いのですが、実は本作は、この「ポパイ」紹介の姿を借りて「映画制作部」の日常を見つめるお話なのです。映画を撮る映画と言えば、殆どが撮影現場での監督のお話、或いは筆が進まない脚本家のお話です。でも、映画はもっともっと多くの人の手を経て我々観客に届けられています。その中でも地味なのが、日々の撮影に必要な条件を整え毎日のお弁当からお金の管理までを取り仕切る「制作部」です。「『制作進行』は『生活進行』」と呼ばれているそうで、「雑務」と呼ばれるような仕事一切を任されています。その一つ一つを極めて具体的に、時にはお金の額もしっかり示して紹介して下さり、この具体性こそがリアリティを生みます。一日の撮影開始よりずっと早くから動き始め、撮影後の片付け・翌日の準備・弁当の発注まで働き続ける制作部の若い人は「時給換算したら588円」と語ります。国の定める最低賃金の半分程度に過ぎません。でも、映画に関わる仕事が好きだから続けられるのでしょう。しかしまた、それこそが過酷な労働条件を当たり前とする「やりがい搾取」の土壌にもなります。
一方、こうしてポパイの弁当を発注できる一般映画やドラマの業界はまだましで、予算が切り詰められているピンク映画やVシネの世界の制作部は更に厳しい条件に晒されて来ました。その証言がまた胸に迫ります。
とはいえ、やっぱり皆さん映画が好きなのです。その思いが形になり、報われます様にと願う「祈りの映画」でもありました。映画好きの方ならば必見の一作です。