劇場公開日 2024年5月3日

「 出演者もスタッフもロケ地も、日本と台湾がほどよくミックス。しっとりとした情感の盛り付けもそつがなく、青春の忘れ物を回収する旅というロードムービーに気持ちよく泣けました。」青春18×2 君へと続く道 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 出演者もスタッフもロケ地も、日本と台湾がほどよくミックス。しっとりとした情感の盛り付けもそつがなく、青春の忘れ物を回収する旅というロードムービーに気持ちよく泣けました。

2024年5月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

幸せ

 原作は台湾出身のジミー・ライによる紀行エッセイ『青春18×2 日本慢車流浪記』。エグゼクティブプロデューサーを務めたチャン・チェンがジミー・ライの紀行エッセイにインスパイアされて映画化を企画し、監督に藤井道人を切望したことで今回のプロジェクトが始動したそうです。(Wikiより)

●ストーリー
 台湾に住む36歳のジミー(シュー・グァンハン)は来日し、信州・松本、新潟・長岡などを巡って旅します。最終目的地は福島・只見地方。台湾で出会ったアミ(清原果耶)の古里です。
 この旅の始まりは18年前の台湾でのこと。カラオケ店でバイトする当時高校生だったジミー(シュー・グァンハン)は、日本から来たバックパッカー・アミ(清原果耶)と出会います。旅の途中で財布を落としてしまったアミは、飛び込みでこのカラオケ店にいきなり働きたいと申し出たのでした。採用となったアミは店の人気者となります。天真爛漫な彼女と過ごすうち、恋心を抱いていくジミー。ふたりはやがてデートもする仲になっていくのです。
 しかし、突然アミが帰国することに。意気消沈するジミーに、アミはある約束を提案します。
 時が経ち、現在。36歳になったジミーは、自身が作りあげたゲーム制作会社から追い出されたとき、ふとかつてアミから届いた絵ハガキを再び手に取るのです。ハガキを見るほどに、初恋の記憶がよみがえり、あの日の約束を果たそうと彼女が生まれ育った日本への旅を決意したのでした。
 鈍行列車に揺られ、一期一会の出会いを繰り返しながら、ジミーはアミとのひと夏の日々に想いを馳せます。たどり着いた先で、ジミーが知った18年前のアミの本当の想いとは…?

●解説
 鎌倉・由比ヶ浜や福島・只見線が走る雪景色、台湾・十分(シーフェン)のランタンフェステイバル……。日本と台湾の写真映えする観光地を主人公たちは訪ねるます。外国人向け観光ガイドになりかねないところを藤井道人監督は切ないラブストーリーに巧みに仕立てました。「新聞記者」「余命10年」などで注目され、新作を発表し続ける監督の才気は日台の国際プロジェクトでも発揮されています。

 ロケ地の選択もストーリーも目新しさはありませんが、 台湾での初々しい恋のかけひきと、鎌倉、津南、奥只見などを訪れるジミーの旅を交互に配して、ジミーのアミヘの思慕を紡いでいく見せ方がうまいのではっとさせられます。
 また2人乗りしたバイクで夜道を疾走するシーン(演じた清原は、初めすごく怖かったそうです)、願いを込めて空に放つランタンの幻想的な映像(クランクアップの日に撮影。雨と風が強いもののもうあとがなくて、ギリギリ明け方まで粘って撮ったシーン)が情感を高めてくれました。
 さらに、台湾の主な舞台は台南周辺で、ジミーとアミの爽やかなやりとりが南国にぴったりです。
 一方、日本は雪国が中心で、凜とした寒さが旅情をかきたてられます。物語も現在と過去を行き来し、アミの秘めた思いへの興味が最後まで途切れることがありません。
 アミとの大切な時間、仕事に熱中した日々の記憶は、観客の内にある郷愁と後悔を浮かび上がらせるものです。旅の展開はべ夕でも、人はなぜ旅をするのかという問いにつながるセリフの数々にも心をつかまれることでしょう。道枝駿佑、黒木華らが脇に回りいい味を出していました。
 加えて、アジアで人気の映画『Love Letter』(岩井俊二監督・1995年)を効果的に使って、日台の人気俳優の魅力も引き出しました。

●感想
 日本と台湾との配分だけでなく、現在と18年前とが交互に展開するカットバックのテンポも心地よく、ジミーが旅する理由や、アミとの出会いと別れの過程がしっくり腑に落ちる流れになっていて、一切説明臭くなく、また3月に公開された『四月になれば彼女は』のようなご都合主義的な展開も皆無で、藤井監督の傑出した才能を感じました。
 一番感動的だったのは、本作のほとんどがジミーの視点で語られるなかで、唯一終盤のアミからの手紙が明かされるところ。画面がアミの視点にガラリと変わり、この物語に伏せられていた秘密が明かされるのです。アミの秘めた思いに触れたとき、涙が止まらなくなりました。
 あの三木孝浩監督の『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』ラストのリフレインシーンに匹敵する名場面だと思います。

流山の小地蔵