オールド・フォックス 11歳の選択のレビュー・感想・評価
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少年の観察と気づきと成長を通じて、変わりゆくもの、変わらないものを描く
台北郊外の仄かな灯りの下、市井の人々のささやかな息遣いを丁寧に汲み取った上質なドラマである。1989年の不動産価格の高騰が人々の暮らしや価値観に影響を与える様子を描きつつ、そんな日々の中で出会う11歳の少年と、狐のような抜け目のなさで人々から恐れられる地主、オールド・フォクスとの交流を紡ぐ。側から見ると、まるで祖父と孫。しかし実質的には人生の師弟、もしくはフォックスの存在はさながらメフィストフェレスとさえ言えるのかも。作品の構造として面白いのは、物語を1989年に限定した「一点」で描くのではなく、フォックスが育った時代、少年の優しい父親が経た時代、それから少年自身の時代という、価値観や意識が異なる3つの生き様を交錯させているところ。世代間の差異が自ずと台湾の現代史、精神史を浮かび上がらせる。やや地味に思える側面もあるものの、忘れがたい味わいが沁み出し、我々を深く穏やかに包み込む秀作である。
「1秒先の彼女」の“彼”が善き父に。天才子役が演じる11歳の息子の“変心”が物語を牽引する
シャオ・ヤーチュアン監督は、1998年の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督作「フラワーズ・オブ・シャンハイ」で助監督を務め、2000年の長編デビュー作「Mirror Image」からこの第4作までホウ・シャオシェン製作のもと撮り続けてきたことから、侯孝賢の愛弟子であり継承者と言えそうだ。1989年の台北郊外を舞台にした本作でも、ノスタルジーと社会派視点が侯孝賢作品を彷彿とさせる。ちなみにシャオ監督の2作目はグイ・ルンメイ主演の「台北カフェ・ストーリー」で、お気に入りの台湾映画の一本。
台湾では1988年に戒厳令が解除され、投資の自由化が一気に進んだことで拝金主義が急激に広がるなど、日本とは歴史的背景が異なるもののタイミングとしては共時的にバブル経済の様相を呈していた。そんな中、劇中のテレビニュースから流れる台湾史上最大の集団型経済犯罪「鴻源事件」が起きたという(概要をより詳しく知りたいなら、「鴻源案」で検索し中国語版Wikipediaの項を翻訳して読んでみよう)。
亡き妻の夢だった理髪店をいつか持つため、レストランのウエイターと内職で地道に働き11歳の息子リャオジエと質素に暮らす父タイライ。当初は素直でおとなしい性格のリャオジエだったが、老獪な地主のシャと出会い距離が近づくことで、次第に心のあり方が変化していく。
タイライ役は「1秒先の彼女」でいつも1秒動作が遅いバス運転手を演じていたリウ・グァンティン。今回も誠実で穏和なキャラクターがうまくはまっている。息子リャオジエ役のバイ・ルンインは、父とはまるで正反対の生き方で成り上がったシャに感化され、目つきと表情が変わっていく過程や、大人たちの間で揺れ動く心模様を見事に体現。リャオジエの変化が物語を牽引する原動力といっても過言ではない。ちなみにシャ役のアキオ・チェンも、山崎努を少し若返らせてビートたけしっぽさをちょっと足した感じで味のある俳優だ。
困ったときや苦しいときに助け合う、片親の子は地域や職場で見守るといった昔ながらの美徳が、自分の成功や幸福のためなら他人を利用したり見捨てたりしてもかまわないといった利己主義に押されていく流れは、当時の台湾のみならず、日本や他の国々でも近現代のどこかの時代で経験してきたはず。そうした社会の縮図としてごく少数のキャラクターを配置し表現した脚本が巧い。失われゆく美徳へのノスタルジックな眼差しもまた、台湾ニューシネマの継承者と目される要因だろう。
映像の切り取り、脚本、人物構成など素敵だった。オールドフォックスの...
映像の切り取り、脚本、人物構成など素敵だった。オールドフォックスの哀しみをはねのける少年が良かった。物語は複層的。オールドフォックスが成功したのは、少年との約束を果たしながら、父親の気持ちを読んでいて、譲らせたことか。ラストシーンも寓話的。自伝的モチーフなのだろうか。父親に頭にきている少年の気持ちが伝わる。
1945年まで、台湾では日本語が公用語だった!
もともと国共内戦の産物として成立した戒厳令が1987年に解除された後、バブル下にあった89年の台北を背景にした映画。
豪華な中華レストランの給仕頭として地道に働く父のタイライとガス代を倹約してまで慎ましく暮らしている11歳のリャオジエは、いつか店舗付きの家を買って、亡き母の願いだった理髪店を開くことを夢見ていた。リャオジエは、ひょんなことから、自分の家の地主であるシャと出会うが、彼は、富の象徴としてのロールスロイスやポルシェを乗りまわす。リャオジエは思春期に差し掛かる微妙な年齢でもあり、誠実一本やりのタイライではなく、老獪なキツネ(Old Fox:原題)とよばれるシャの言葉を受け入れるようになってゆく。リャオジエは、不幸があって安くなった物件を、シャと直接交渉して手に入れようとする。さて、タイライはどうするか。
最初、ホウ・シャオシェンの影響かカット・バックが多く、二人の美しい女性が交互に出てきて人間関係が掴みづらいこともあって退屈だった。少し我慢して見ていたら、漸くわかった。脚本を中心になって書いたと思われるシャオ・ヤーチュアン監督は、始め一人の女性を想定していたが、二人に切り分けたようだ。その一人は、シャの元で働き、いつも赤い服を着て「綺麗なお姉さん」と呼ばれて家賃の集金に来るリン。親子が風邪をひいたときには看病してくれた。きっと、タイメイに淡い恋心を抱いているのだろう。もう一人は、門脇麦が扮している、いつも黒い服を着ているヤン。彼女は、タイメイの初恋の相手で、レストランに来ては、料理をたくさんオーダーし、気前よく支払ってくれる。リンとヤンの二人は、一度だけ、シャの家で隣り合って座るが、二人とも顔の同じところに傷を負っていた。
シャに助けてもらって、いじめっ子に対して優位になったリャオジエは、レストランで立ち聞きしたことを、シャに告げ口する。それで窮地に立たされたのがリン。彼女がシャのことを思って情報を漏らした相手が、ヤンの夫というのが、二人の真のつながり。この二人は、大事な役柄なのに、直接、触れ合うところが少ないと、物語の構造が弱くなる。
それにしても、シャは一番肝心なところで、日本語が出る。演出だろうけれど、台湾は45年まで日本の統治下だったが、苦しい試練があったに違いない。台湾には、2018年まで、2から3年の男子皆兵があった。大変、賢そうに見えたリャオジエの将来は、どうなったろう?思春期の後の軍隊経験は、彼をきっと大きく成長させたのだと思う。
「あの時代の台湾を映す」
今年150本目。
どこの国の映画か知らないで見たので作中で台湾かなと、台湾、日本の合作でした。
たまに日本語のセリフが。
門脇麦さんが中国語を流暢にこう言う凄い才能を目の当たりにすると自分も頑張らなきゃと。撮影前に2か月間中国語を特訓したそうです。
株、不動産など1989年の台湾を映す、そこにリャオジエの変化、シャ社長が絡んで、見ていて喜びを感じる作品。好きな映画でした。
タイトルで大損してる
80年代の台湾の空気感が滲み出ていた。貧しさとバブル成金、古い倫理観と拝金主義が隣り合わせ。役者がみんないい。
たた、このタイトルはひどい。これでは何が描かれた映画かわからないし、英字にそえられた日本語のサブタイトルもセンスなさすぎ。
ウェルメイド
他人のことは構わず自分の利益を追求するのか、昔ながらの人々との繋がりや協調を重んじるのか、というある意味グローバルで現代的な問いを、息子シャオシェンの成長を通して描く。その仕掛けが秀逸。撮影も良くて、画面からも本作のウェルメイドな感じが伝わってくる。
ただし、息子があれほど家の購入に執着する理由とか、出来もしないのに亡き妻の夢である散髪屋にこだわる理由もちょっと腹落ちしないまま…
門脇麦だったり不動産屋の「キレイなお姉さん」だったりの描写も物足りず、ちょっとフラストするところもないではない。
が、ラストも含め、最終的な「彼の選択」にはニンマリしながら「そうだよね〜」と思う。そういう意味でやはりウェルメイド。良い映画でした。
貧乏は辛い
本映画の宣伝から想像した内容とは違ったが、貧乏生活は辛く悲しい印象を与えたかったようで雨のシーンも多い。
子供の頃は金の価値もわからないし、
食うに困らなければそこまで不幸ではないと思うが。
親の夢を応援し、貧乏をバネに自分の人生が上昇するのであれば辛い幼少期も良い薬か。
全体的に暗く悲しい映画なので、観ていて暗い気持ちになるのでご注意を。
既に金持ちの人が貧乏生活の気持ちを味わうには丁度良いかも。
父子の愛情にじんわり
台湾の市井の中に入り込んだような
リアリティがありました。
また、
母を亡くした父子家庭の
つつましいけどあったかい雰囲気も
じんわり沁みてきます。
オールドフォックスの金持ちおじさんも
喜怒哀楽が渋くてダンディで
魅力がありました。
門脇麦さんがすっと光が差すように
シーンに入ってきて、驚きと、
華を添えてましたね。
久しぶりにミニシアター系アジア映画を
楽しみました。
高評価レビューが多いので、鑑賞してみた。
正直者が馬鹿をみる世界はあってはならないと思う。だが、この映画の悪役を引き受けている地主は、本当に悪人だろうか。法を犯すとか犯罪に手を染めろと言ってはいない。むしろ、人間通であることが成功の条件と教えているように私には思えた。他人を思いやることで、成功した財界人は果たしているのだろうか。
居て欲しいと私は願っているが、幻だろう。現実はもっと厳しい。まぁ、映画は庶民の夢を描く役割も担っているので、良しとしよう。
金持ち父さん貧乏父さん?
綺麗なお姉さんと寂しげなお金持ちの奥様、最初はリッチマンが良かった?んだろうけど、衣食足りて礼節を知るじゃないけど、結局は優しい善良なイケメンに惹かれていくのね。門脇麦の顔に傷を作る流れのシーン、悲哀が漂っていてゾクっとしたわ。麦ちゃんの悲しげな表情、めっちゃ綺麗。男の子成長の話しだけど‥11歳であんなに家にこだわる?とか思った。両親の夢だったからなんだろうね。古狐は良いわー、好きだな❣️。昔流行った貧乏父さん、金持ち父さん思い出したわ。
台湾バブル 要はバランス
日本も経験したバブルの台湾バージョン 土地の価格はうなぎ登りで平民には家を買うことも… 不動産を持つものは… バブルとは、富める者は富 恩恵にを受けられ無いものは貧乏なままであるが、ある意味不平等をリセットする好機であるとも言える 正にオールドフォックスはバブルを謳歌した勝ち組(ゴミ収集業)であり、子供の父は負け組であったのだろう しかしKYではなく、周りをしっかり考える(見ることができる)人間らしい人生だったと思う 建築家になった息子はオールドフォックスの化身にも見えた…
思いのほか…
なんとなく観に行ったが
思いのほか良かった。
ストーリーの盛り上がりという意味では
そんなに抑揚はなく
淡々と進んでいく感じではあるが、
さまざまな価値観に触れ、
社会の不公平に触れ、
もどかしい想いを抱きながら
少しずつ、確実に11歳の少年の心が
変化して行ってる様子が伝わってくる。
言葉で多くを語らず
映像で表現されているところが
映画らしくて良い。
それにしても、やたらと雨のシーンが多い映画で
それもまた、全体の雰囲気を創り出しているかもしれない。
個人的にはラストシーンが好きです。
これ、定期的に見返したくなるやつだー
#オールド・フォックス #老狐狸
めっちゃんこ好き。
2時間弱という短い時間の中に巧みにかつわかりやすくたくさんの人たちの人生模様を詰め込んでいるのに詰め込まれた感を感じさせない&飽きさせないあたし好みな良作🍀
“貧乏暮らし”かもしれないけど、仕事があって、職場の人は子供同伴で出勤することに理解を示してくれて、亡くなった奥さんと共有している夢があって、子供と過ごす時間もあって、趣味のサックスがあって、周りには優しい人たちが溢れていて……言うなればそんなささやかな幸せな生活を送っている事にシンパパは満足している模様。でも、11歳の僕ちゃんはわかっちゃいるけど、もっと上を!もっともっと!と思ってしまうお年頃。
廖界(リャオジエ)が無垢な少年から若狐狸へ、そしてパパの良さを理解するフェーズの移り変わりが見事。この子役くん、今後も観たい(´∀`艸)♡♡
箇条書き👇
・シンパパ役、『1秒先の彼女』の彼だとは気が付かなかった😅
・門脇麦ちゃん!耳が良いのね!!チャイ語も英語も発音綺麗😊
(ご参考)
知らなかったから調べてみた👇
>日本の観客に伝わりにくいのは、1990年に発覚した、“台湾史上最大の集団的経済犯罪”といわれる「鴻源事件」だろう。1981年に設立された投資会社・鴻源機構は、高金利をうたって1,000億台湾ドルもの資金を不正に集めながら1990年に突如倒産。16万人の債権者と900億台湾ドルもの負債を残し、金融システムに混乱をもたらした。<
期待度◎鑑賞後の満足度○ Like father. like son
①邦題が良くない。「オールド・フォックス」では何のことか分かりません。
原題の『老狐狸』(“ずる賢い悪人”のこと)を直訳するのも何だけど。
もちっと台湾映画らしい叙情的な題名にしたら良かったのに。
②1990年代の台湾というと『エドワード・ヤンの恋愛時代』で描かれたような高度経済成長期だが、それらしい雰囲気は父親の働き先であるレストランくらい。
前半は台北市の下町で店子暮らしをする父親と息子との慎ましい生活の描写が中心。
③少年が大人の世界に触れながら成長していく(子供が大人になっていくのを一口に成長と言って良いのかどうかは別にして)お話は山ほどあるので目新しくはないが、本作では提示された2タイプの大人のどちらになるかを少年が選択するところがミソである。
ビジネスでは成功者だけど、幸福度は低い
不条理で混沌とした社会を生き抜き、名誉と財産を築き上げたシャだけど、どこかしら寂しそうだった。
道端の屋台で食事をしている時は、特にそう感じた。
リャオジエから見れば、「凄い爺さん」的な存在に見えたのだろう。
雰囲気はいいが、エピソードがうまく流れない
ほとんど夜と雨のシーンだが、ノスタルジックな台湾の雰囲気は素晴らしい。
しかし、雑多なエピソードが詰め込まれ過ぎ、一部理解不能な部分もあって、少年が老人(オールド・フォックス)から人生の厳しさを学ぶという主題に、うまく乗っからない。そのため、これといった感動もない映画になってしまった。
狐の恩返し
予告編から抱いたイメージではリャオジエ君、どんどん闇落ちするのかと思ったけれど、そんなことはなく、子供ながらの一途さがけなげでしたね。
シャ(古狐)も非情ではあるけれど親子を見守る視線に温かみというか、それを超越した愛のようなものを感じ取りました。
正直者で馬鹿を見て逝ってしまった母と同じ匂いのするタイライを「負け組」とリャオジエに言い含めていたけれど、本当はその二人のように真っ当に、正直に暮らすことができることが一番だと思っていて、きっと(賢い)リャオジエなら明と案・善と悪を天秤にかけて善き方へ進むだろうと考えて伝えたのではなかろうかと、ワタシ的には全てを性善説に捉えるような解釈に至ったハートフルな作品でした。
足踏み式ミシンの奏でる音も郷愁を誘われましたが、げに恐ろしきは「お金」、それはお国が違っても変わらないのですね。
「清貧」という言葉を改めて心に刻みました。
丁寧に描きすぎだとは思うが
台湾ニューシネマっぽさを感じたが、説明のための画が多すぎる。
当時の映画を観て慣れた分、もう少し余白を用意してもいいのにと感じる。
ただ心の揺れ動きはわざとらしくなく、読み取りにくくもなく絶妙なラインだったと思う。
面白かったです。
世界観が良かった
派手さのない、地味な映画だったけど、日本で言う昭和が舞台のレトロさが良かった。日本と違った台湾の昔が懐かしさ温かさがあった。ちょっと貧しい生活の父と息子だが愛に溢れ親子の小さい夢を追ったドラマが何か良かった。
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