「1945年まで、台湾では日本語が公用語だった!」オールド・フォックス 11歳の選択 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
1945年まで、台湾では日本語が公用語だった!
もともと国共内戦の産物として成立した戒厳令が1987年に解除された後、バブル下にあった89年の台北を背景にした映画。
豪華な中華レストランの給仕頭として地道に働く父のタイライとガス代を倹約してまで慎ましく暮らしている11歳のリャオジエは、いつか店舗付きの家を買って、亡き母の願いだった理髪店を開くことを夢見ていた。リャオジエは、ひょんなことから、自分の家の地主であるシャと出会うが、彼は、富の象徴としてのロールスロイスやポルシェを乗りまわす。リャオジエは思春期に差し掛かる微妙な年齢でもあり、誠実一本やりのタイライではなく、老獪なキツネ(Old Fox:原題)とよばれるシャの言葉を受け入れるようになってゆく。リャオジエは、不幸があって安くなった物件を、シャと直接交渉して手に入れようとする。さて、タイライはどうするか。
最初、ホウ・シャオシェンの影響かカット・バックが多く、二人の美しい女性が交互に出てきて人間関係が掴みづらいこともあって退屈だった。少し我慢して見ていたら、漸くわかった。脚本を中心になって書いたと思われるシャオ・ヤーチュアン監督は、始め一人の女性を想定していたが、二人に切り分けたようだ。その一人は、シャの元で働き、いつも赤い服を着て「綺麗なお姉さん」と呼ばれて家賃の集金に来るリン。親子が風邪をひいたときには看病してくれた。きっと、タイメイに淡い恋心を抱いているのだろう。もう一人は、門脇麦が扮している、いつも黒い服を着ているヤン。彼女は、タイメイの初恋の相手で、レストランに来ては、料理をたくさんオーダーし、気前よく支払ってくれる。リンとヤンの二人は、一度だけ、シャの家で隣り合って座るが、二人とも顔の同じところに傷を負っていた。
シャに助けてもらって、いじめっ子に対して優位になったリャオジエは、レストランで立ち聞きしたことを、シャに告げ口する。それで窮地に立たされたのがリン。彼女がシャのことを思って情報を漏らした相手が、ヤンの夫というのが、二人の真のつながり。この二人は、大事な役柄なのに、直接、触れ合うところが少ないと、物語の構造が弱くなる。
それにしても、シャは一番肝心なところで、日本語が出る。演出だろうけれど、台湾は45年まで日本の統治下だったが、苦しい試練があったに違いない。台湾には、2018年まで、2から3年の男子皆兵があった。大変、賢そうに見えたリャオジエの将来は、どうなったろう?思春期の後の軍隊経験は、彼をきっと大きく成長させたのだと思う。