「イスラエル・ボイコット問題の根幹について知っているかどうかで感想が変わる映画」TATAMI Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
イスラエル・ボイコット問題の根幹について知っているかどうかで感想が変わる映画
2025.3.5 字幕 イオンシネマ久御山
2023年のジョージア&アメリカ合作の映画(105分、G)
2019年の柔道大会をベースとした、政治とスポーツの関係性を描いたスリラー映画
監督はガイ・ナッティヴ&ザーラ・アミール
脚本はガイ・ナッティヴ&エルハム・エルファニ
原題は『تاتامی』、英題は『Tatami』で、ともに「畳」という意味
物語の舞台は、ジョージアのトリビシ
そこでは世界柔道の大会が行われていて、イラン代表のレイラ・ホセイニ(アリエンヌ・マンディ)は60キロ級で出場することになっていた
代表を率いるのは国民的英雄と称される元柔道選手のマルヤム・ガンバリ(ザーラ・アミール・エブラヒミ)で、下馬評を覆す快進撃を見せていた
だが、2回戦を勝ち上がったところで、マルヤムの元に一本の電話が入った
それはイラン柔道協会からのもので、イスラエルの選手シャニ・ラヴィ(リル・カッツ)と戦う可能性があるから棄権をしろ、というものだった
マルヤムはその命令を拒絶するものの、当局はレイラの実家に覆面捜査官を派遣し、さらにレイラの父アマル(メフディ・バジェスタニ)を拉致監禁した
マリヤムはやむを得ずに協会の意向をレイラに伝えるものの、優勝できると意気込んでいたレイラは聞く耳を持たない
その後も勝利を重ねるものの、とうとうファンを装った工作員までもがレイラに接近し、父の監禁映像とメッセージを伝える
さらに、関係者以外は入れない会場にイランの工作員が混じってくる事態に発展していく
マリヤムは命の危険を感じ、レイラに棄権するように迫る
だが、レイラは頑なに拒み、さらに事態は深刻な状況に向かってしまうのである
映画は、パレスチナ問題に波及されるイスラエルに対する国家の姿勢がベースにあって、それをスポーツの世界にも持ち込むのか、というものがある
国の代表として出場する以上、国家が推し進めている方針に従うべきという意見もあるし、スポーツは政治ではないので、選手個人の想いが尊重されるべきという意見もある
今回の場合だと、国家の意にそぐわない行動をしたために脅迫するという流れになっていて、それは人権侵害ではないかというものになっている
国として止められないので脅迫という手段に及んでいるが、出場資格停止処分を世界柔道協会に出せば良いだけのように思うが、そう簡単なものではないのだろう
イスラエルを国として認めていないイランの方針は「イスラエル・ボイコット」という現象を生み出し、本作の事例に限らず、多くの分野で波及している
それゆえに、国家としては「イスラエル人と対戦させない」という明確な指針があるので、出場選手には大会に臨む前から通達していれば良いように思う
それを承諾できないのならば出場資格を与えないという明確な基準があれば選手も納得すると思うのだが、本作のように「出場してから対戦しそうだからやめろ」というのでは選手が納得しないのも当然だろう
映画は、その部分をイランの暴走と位置付けるために誇張している部分はあるが、それがプロパガンダになっている部分はあるのでフェアではないようにも思えた
基本的には、スポーツと政治を切り離すべきだとは思うが、選手側がスポーツの世界で政治を持ち込むこともあるので、問題は根深いものだと思う
だが、イランがイスラエルを国家として認める云々の前に、世界柔道協会が承認して参加させている以上、その枠組みに入るのならば、イラン側も同意の上で参加させる必要があるだろう
イランとしても、イスラエル人と対戦させないという前提があるのならば、イスラエルの参加を認めている大会すべてに出場しないという態度が必要で、そのために国内スポーツ産業の低迷や選手の流出が起こることを容認するより他ないように思えた
いずれにせよ、かなり政治色の濃い作品で、背景を知らないと「イランが悪者」にしか見えない作品となっている
脊髄反射で「イラン最低」となることを目的としているのだと思うが、そんな簡単に風向きを決めるのも早計であると思う
実際にこのような脅迫行為があったのならば人権侵害にあたるし、亡命やむなしというのも理解できるが、選手団のほとんどは国の立場を理解しているのでわがままを貫いているように見える
イラクにおける「イスラエル・ボイコット」を是正するとしても、それは内政干渉のようなもので、それをスポーツの世界に持ち込ませないというメッセージを付随させたいのならば、もっと明確に背景を描いてから、レイラ自身が覚悟を持って戦う姿勢を見える方向に演出しても良かったのではないだろうか

 
  
 
  
  
  
  
  
 