「そこそこ高い知識が求められるところはあるが好印象。」PHANTOM ユリョンと呼ばれたスパイ yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
そこそこ高い知識が求められるところはあるが好印象。
今年390本目(合計1,040本目/今月(2023年11月度)22本目)。
(参考)前期214本目(合計865本目/今月(2023年6月度まで))
1930年時代(ただし、後述)の京城(現:ソウル)を舞台にしたスパイもの。
本国の韓国でもっぱら作成されている(日韓合作ではない)ところ、いわゆる「日韓併合」について、どちらかの言い分に極端に偏った描き方になっていない点は好印象です。また、おそらくこの映画は海外進出を想定しているものと思われ、日本語版では字幕の大半(日本人パート)ほかが《これはテスト》のような形になりますが、そこは海外版では他言語に変わるものと思います。
どうしても映画の性質上誰が犯人だのトリックだの書き始めるとネタバレどころの話ではなくなるのでそのあたりは省略で…。あと、一般的な韓国映画と比べると若干長い(140分ほど)ので要注意です。前半が推理もの、後半がアクションものという扱いになると思いますが、明確に分離できるわけではありません。
映画のストーリーそれ自体は架空のものですが、当時の韓国併合時代や日本、朝鮮(ここでは、韓国、北朝鮮を指していう語。以下断らない限り同じ)、中国ロシアほかの「当時の歴史」を知っているかどうかだけでも理解度はかなり上下します(この点、日本では日本史でも世界史でもほとんど扱わないので)。
一方、明確にヘンテコな字幕や、法律系資格持ちの立場からは気になる点も若干あります。
評価としては以下の通りです。ちょっと手厳しいかなぁ…。
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(減点0.3/「役不足」の意味)
・ この語は「日本語としては」誤った用法で用いるほうが一般的になりつつありますが、意味が通らなくなる部分が2か所あります(「一般的な」(誤用の意味での)解釈をしないと意味が通らなくなる)。
(減点なし?/参考/登場人物の一人の「佑璃子」)
・ この「璃」の字ですが、日本で人名として使えるようになった(人名漢字への追加)のは1981年と比較的新しいものです(ただ、1930年~終戦ころの時点でそもそも人名の漢字制限があったのかは微妙?漢字としてあるのならオールありの「無制限」だったという可能性もある。この点調べてもわからず)
(減点なし?/参考/「朝鮮が滅んで10年…」)
李氏朝鮮が倒れた後、「大韓帝国」という国があった(1897~1910)もので、それを指しているものと思います(1910に10を足すと1920になる。ただし、この映画は先述した通り1930年が舞台で、計算が実は合わない)。
※ 「大韓帝国」を李氏朝鮮の一つとみなす立場もあります(その場合、李氏朝鮮の滅亡を1910年に取ることになる)。また、「大韓帝国」は現在の韓国(正式名称は大韓民国)と紛らわしいため、あえて李氏朝鮮の延長と考えてあえて使わないこともあります。
※ 「大韓帝国」は現在の朝鮮半島全体を国土に持っていたのに対して、今の韓国(大韓民国)はいわば「南朝鮮」にあたるため(現在の北朝鮮との地理的な比較であえて使用したもの)、そもそも「母体も異なる」概念です(ただし、日本では一般に北朝鮮寄りの歴史を習う機会がないため、このことは度外視されることが普通)。
(減点なし?/参考/当時の日本では、日本人が韓国語を流暢に話すことができたか?)
※ 「韓国語」は便宜上使用する名称。以下すべて同じ。
ここが実は微妙で、映画内ではかなり流暢に話している部分もありますが、歴史上微妙な部分があります。
つまり、朝鮮総督府による1930年に「諺文綴字法」、1933年に「朝鮮語綴字法統一案」が定められるなど、ハングル表記は混乱していた時代があるのは史実上事実であるため、いわゆる「国語」が何度も変わるという歴史があったため、「何が正しい表記なのか」すらまともに決まらず国語辞典(ここでいう「国語」は韓国語を指す)も混乱した時期もあり、日韓は確かに文法体系も似るし、「現在においては」オンライン学習等の環境がそろい「学習しやすい言語」にはなりましたが当時は当然そのような技術がなく、日本人が「正しい」表記による「正しい」韓国語を当時話せていたのかはかなり微妙です(統治していた日本人向けの「ハングル表記を日本語表記に合わせる場合の表記対応表」もあり、それらが何度も変わった。日本人の読解のために、ハングルに無理やり濁音や半濁音をつけたような謎の文字まで(読解のために)現れて大混乱をきたした)。
なお、このことは映画内では一切出てこない(あたかも現代韓国語がそのままあるかのような状態)のも、現地では「国語」扱いなのでしょうが、ここは明確に追加の字幕が必要だったのではなかろうか、と思えます。
※ この点は、どうしても外国人問題を扱う行政書士は気にするところで、特に大阪のように当事者が多く住む地域の場合、上記の事柄も「わずか90年ほど前」に過ぎないため、「当時の書き方(文法)による文書」なども登場するからです(ただし、一般には必ずしも日本の行政書士の資格持ちが韓国語のこうしたことに精通しているとは限らないので、表記を見極めて翻訳依頼をかけるということになります(この時代と現在ではハングル表記が異なり、「消えた母音・子音」もいくつかあるため、それらの有無である程度判断が可能です)。
子の名に当用漢字以外が使えなくなったのはご高承の通り1947年の改正戸籍法の運用規則に依るものです。それまではどんな字も名前に使えたので「璃」を名前に使った可能性はあります。ただしこの字は仏典由来で抹香臭く(瑠璃も玻璃も照らせば光る…イロハカルタですが)で少なくとも戦前は仏教家以外は子の名にしなかったのはないかと思われます。近年は字の意より先に音を優先し字を当てはめますので名前に使う漢字として発掘されたということでしょう。つまり大戦前の名としてはかなりモダンだということですね。