劇場公開日 2024年2月2日

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「赤信号みんなで渡れば青信号」ダム・マネー ウォール街を狙え! かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5赤信号みんなで渡れば青信号

2025年6月23日
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2021年コロナ禍が蔓延し世界中の人々が鬱々としていた頃に、ロックダウンでほぼほぼ家に缶詰め状態のアメリカ人が目を見張るような金融事件が起きたのである。「ゲームストップ事件」がそれ。将来的に値下がりが予想される会社の株をヘッジファンドが借り受け売りを仕掛け、安くなった時に買い戻す=ショートセリングを仕掛けられたビデオゲーム小売会社の株を、小口投資家集団が買いに走ったため株価は急騰。空売りを仕掛けていたヘッジファンドが結果破産に追い込まれる前代未聞の金融クーデターをベースにしているそうだ。

投資フォーラムを主宰するローリング・キティことキース・ギル(ポール・ダノ)は大手ヘッジファンドに空売りを仕掛けられているゲームストップ株を5万株保有していることを公開し、SNSでフォロワーに投資を呼びかけていた。過去10年にCEOが何回も交代しているビデオゲーム小売チェーンのどこに投資対象としての妙味があったのかはよくわからんのだが、ほとんどのショップが店を閉めているコロナ禍中にあって、このゲームストップだけは店を開けて細々と営業を続けていたそうなのである。

ショップ店員にどこまでのロイヤリティがあったのかは定かではないのだが、多くのネット住民たちがゲームストップの営業姿勢にある種の“誠意”を見たのは事実だろう。Uber Eatsのバイト中に届け物のつまみ食いばかりしている弟のケビン、老人ホームで働く介護士、大学の奨学金返済に悩んでいるレズビアン女子大生…このままコロナ禍が続けば将来食い詰めること間違いなしのプア・ピープルが一発大逆転をねらってゲームストップ株を買い始めるのだ。

豪勢なお屋敷に贅沢なランチ、会員制のテニスコートで腹をすかせることぐらいしか能のないヘッジファンド幹部が、予想外の株価の動きに大慌て。しまいには米国金融当局まで動き出し、ゲームストップ株は売買停止にまで追い込まれてしまう。さらに、当局からの圧力によってギルの運営する投資フォーラムまでアクセス不可に。民主党お得意の情報封鎖によりあわれギルはbanされてしまったのだ。

当然ゲームストップ株価は爆下がり、買い増しを続けていた小口投資家は大損をぶっこくのであるが、ギルだけは頑として売ろうとしない。小口投資家の応援のかいもあって株価は反転しギルたちは大儲けするのだが、空売りをしかけたヘッジファンドやギルのSNSを凍結した株式売買サイト運営会社ロビンフッドに当局のメスが入るのである。忘れてはならないのが、ウォール街そのものは民主党の有力なサポーターであり彼らにとって不利な判定は絶対に下さない、ということなのだ。

当時は民主党支持だったはずのイーロン・マスク(多分声優による物真似)からギルに激励の電話があったり、ニューヨーク州下院最年少議員として当選をはたした貧民出身のオカシオ・コルテスご本人が出演してさも“私はこちら側の人間です”的な発言をしていたが、ゲームストップ人気に便乗した売名行為に違いなく、貧民vs.金持ちのガチンコ勝負をどっちらけにさせる要因にもなっている。

ギルのポジションを確認できずに一度はゲームストップ株を手放した女子大生たちも、「なんだか気持ち悪くて眠れないの」と言ってゲームストップ株を買い戻すのである。損得でいったら売りぬけて当然のタイミングなのだが、コロナ禍における閉塞感も手伝ったのだろう、ローリング・キティとともに夢を見続けたいドリーマーたちの良心が、ヘッジファンドの実利主義を(結果的に)やっつけたのである。

しかし夢はそう長く続かない。実際にゲームストップ株を押し上げたのは、空売りを仕掛けた連中のショートスクイーズ(踏み上げ)と、ゲームストップ人気に着目したその他ヘッジファンドによるコールオプションが原因だったとか。ローリング・キティも現実的にはヘッジファンドの“踏み上げ=買い戻し”を狙って、フォロワーの買いを煽りつつひたすらホールドを続けていた可能性が高いのだ。

この事件に端を発し、空売りを仕掛けられていた別銘柄でも似たような急騰案件が発生し、クレディスイスが破綻に追い込まれたという。実際には、狂暴なハイエナ同士の仁義なき戦いの間に漁夫の利を得た“キティちゃん”たちのおとぎ話だったわけである。ゲームストップも時代の流れには逆らえずその後大規模なリストラを敢行、ゲームソフト小売業からデジタル販売会社へと転身中だという。株価は現在23.5ドルと低迷を続けている。

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かなり悪いオヤジ
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