「ロボットは幸せの夢を見るか?」ロボット・ドリームズ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ロボットは幸せの夢を見るか?
アカデミー賞にノミネートされたスペイン/フランス合作のアニメーション。
音楽や効果音はあるが、台詞やナレーションはナシ。それでも物語や感情がしっかり伝わってくる。
手書きタッチで絵本のような温もり。しかし話は思ってたよりビター。
ハートフルでほろ苦さ切なさ滲む作風は、アニメ玄人の日本人に刺さる。
擬人化した動物たちが暮らす1980年代のNY。
ドッグは親しい友達もおらず、アパートで一人、ほとんど外出もせず、TVやゲームだけの空虚な日々を送っていた。
そんなある日TVで友達ロボットのCMを見、堪らず購入し、組み立て起動。
動き出したロボットとすぐさま友達に。ご飯を食べるのもTVもゲームも何処に出掛けるのもいつも一緒。
見つめ合ったり、微笑み合ったり、手を握り合ったりする様はラブラブカップル。
夏の終わりのある日、海水浴へ。海水を浴びてロボットは錆び付いて動けなくなってしまう…。
ドッグは救出道具を持って翌日急ぐが、海水浴場はシーズンオフ。立ち入り禁止に。
突然引き離されてしまったドッグとロボットは…。
ドッグも何もせず手をこまねくばかりじゃない。助けようと忍び込むが、逮捕されてしまう…。
挙げ句、来年夏の海開きまで待たなくてはならない…。
長い長い一年の始まり…。
隣にロボットがおらず、また寂しさ募る。
しかし、月日が経つ内に…。新しい遊びや体験を知る。
時折ロボットの事を忘れたかのように…。
ふとした時に思い出す。
後もう少し。遂に一年が経ち、海開きの日。
ドッグは初日早々海水浴場に急ぐが…。
一方のロボット。
一人ぽつんと、動けない彼を、様々な出来事が見舞う。
親切な人に助けられ、動けるようになり、ドッグの元へ。
良かった良かった、めでたしめでたし…と思ったら、タイトル通りの“夢”。
何度か何度か、現実と思ったら、夢。
いずれもまた自由に動けるようになったり、ドッグと再会したり。ロボットの夢=心からの願いの表れ。
しかし、現実世界は…。
あのボートのうさぎ連中、いい人たち…と思ったら、何て畜生!
雨雪に晒され、砂に埋まってしまい…。
砂を掘り返した猿が助けてくれたと思ったら、廃品工場へ。そこで売られ、経営者に…。
温もりあるタッチなのに、ここは酷すぎた。辛すぎた。
電源もオフ。ここで一巻の終わり…。
砂浜にロボットは見当たらず、ドッグも再会果たせず…。
まさかのバッドエンド…?
捨てる神あれば拾う神あり。
廃品工場でバラバラになったロボットの部品を買ったあらいぐま。
足りない部分はラジカセなどで補強して修理。
何かこのシーン、ジ~ンとしたなぁ…。
修理が完了し、再起動。
新しい身体、新しいパートナー。新しい生活を始める。
その頃、ドッグは…。ロボットを忘れられず、新しいロボットを購入する。
こちらも新しいパートナー、新しい生活。
それぞれの道を歩み始めた時、ロボットが新しいロボットといるドッグを見掛け…。
グラフィックノベルを基に、スペイン人の監督が昔、NYで一人暮らしていた時の体験を織り込んで。
一人の寂しさ。誰かと触れ合いたいという気持ちが伝わってくる。(監督はそんな時、今の奥さんと出会ったとか)
あちこちに名作オマージュの遊び心。お気に入りの『オズの魔法使』、ハロウィンには『シャイニング』や『エルム街の悪夢』の仮装。あらいぐまの名前はあの日本アニメでしょう!
80年代ミュージックもふんだんに。中でも、テーマ曲として使われたアース・ウィンド・アンド・ファイアーの『セプテンバー』。正直、アーティスト名も曲名も出てこないが、聞けば知らない訳ないあのノリノリの名曲ではないか!
これが2人の幸せな日々、夢、そしてラストシーンに効果的に用いられている。
ドッグを見掛けたロボットは急いで駆け付け、交差点で信号待ちしているドッグに手を伸ばすが…。
これも夢。が、アパートの窓から、間違いなくドッグの姿が…。
ロボットは2人の思い出の曲を流す。勿論、『セプテンバー』。
踊るロボット。微かに聞こえる曲に、身体が反応して踊るドッグ。
離れていても、思い出はシンクロ。
だが、2人はすでにそれぞれの道を歩んでいた。
運命と思った相手が生涯のパートナーに必ずしもなるとは限らない。
時として不条理な何かが間を引き裂く。
そんな時、新しいパートナーと出会えば…?
そちらこそ、運命の相手と思わずにいられない。
ずっと一緒にいる事だけが幸せや夢じゃない。
もう会う事は叶わない。相手の幸せを願って…。
そんな夢もある。
所々残酷だったり、ほろ苦かったり切なかったり悲しかったり。
だけど最後は温かさと幸せに溢れていた。
ドッグとロボットのように、ふとした時に思い出してじんわりする、良質作。
