「中華系自主映画?な、ジュブナイル・ノワール」ゴールド・ボーイ パングロスさんの映画レビュー(感想・評価)
中華系自主映画?な、ジュブナイル・ノワール
本作は、『白蛇:縁起』(2019)、『ナタ転生』(2021)、『羅小黒戦記』(2022)などの中国アニメをはじめ、妻夫木聡が参加した中国の探偵コメディ『唐人街探偵』シリーズ(2 2018年、3 2021年)などを配給するチームジョイが製作したクライム・サスペンス。
すでに中国でドラマ化され人気を博した、紫金陳が執筆した『悪童たち』(2014/2021年 ハヤカワ文庫)を原作として、初めて映画化した作品である。
【以下ネタバレ注意⚠️(1回目)】
原作が中国の人気作家による推理小説であり、また、本作の制作・企画にチームジョイ取締役の許曄、制作・製作総指揮に同社CEO 白金の名前がクレジットされていることからして、本作は半ば以上、中国シフトの体制で製作されたことが分かる。
(ただし、チームジョイは、渋谷区神宮前に所在する日本企業のようではある。)
本作が面白くない、と言えば、嘘になる。
筋立ては、原作が良いのか、驚きに満ち、充分面白い。
俳優陣も豪華。
ベテラン、新人とも適役が揃い、スタッフも百戦錬磨の実績のある強者ばかりだ。
ところが、何故か、妙にチープな、低予算感というか、残念なニュアンスが作品全体に漂っている印象を払拭できなかった。
今まで、中国製の映像作品の配給では実績をあげてきたものの、本格的な映画製作は初めてと見受けられるチームジョイのインディペンデント性によるものかも知れないと考えたが如何だろうか。
スタッフの各トップには手だれを迎えても、アシスタントをはじめ実働部隊の手薄さが、こうした「安い」印象のもとではないかと睨んだ訳である。
*同様の印象は森達也監督の『福田村事件』(2023.12.25 Filmarks短評投稿)にも感じたところである。薄味の本作に対して『福田村‥』は濃厚な味つけではあったが。
また、製作会社がメジャーでないことのデメリットとして、経営が自転車操業であることもあってスケジュールに余裕がなく、ポストプロダクションやPR、プロモーションなどがおろそかになりがちだ、ということがあるだろう。
大手であれば、撮影等は1年前に済ませておいて、完成作の仕上がりを見て宣伝戦略を立てるはずのところが、そういったことも出来ていない可能性があるのではないか。
金子修介と言えば、2021年、ミヤオビピクチャーズという個人会社による初製作映画『信虎』(2024.2.22Filmarsレビュー)という、豪華なキャストを使った自主映画テイストの個性的な時代劇を監督したことが記憶に新しい。
それに対して、本作は、セミ中華系自主映画といった性格もあるのではなかろうか。
そうした印象を強くしたのが、本作におけるBGM、冒頭の岬の殺人シーンから流されるマーラーの交響曲第5番(以下、マラ5)の使い方である。
マラ5と言えば、ヴィスコンティの『ベニスに死す』(2023.12.25 Filmarks短評投稿)で使用されたことで映画ファンにも知られているところ。『ベニスに‥』で使われたのは、マラ5の第4楽章アダージェットである。
本作では、終盤近く、朝陽と夏月の一回だけのデートの際に、アダージェットが流れるが、上述したように、他の楽章(主に第1楽章か)からの音楽が、かなりのシーンで用いられている。
特に、ラストシーンに至るシークエンスでは、マラ5第1楽章の冒頭部分が流され、あまつさえ家から外出した朝陽がそのメロディを口ずさむ。
このマラ5全体の開始部分は、メンデルスゾーンの「結婚行進曲」冒頭のファンファーレを嬰ハ短調にアレンジして葬送行進曲としたもの。
第4楽章アダージェットは、ヴィスコンティも本作もそうしたように、愛のテーマと見なして良い。
つまり、マラ5は、全体として「愛と死」を音楽によって描いた作品だと言える(まぁマーラーの作品はほとんどがそうだと言えてしまうのだが)。
プロポーズの想い出の場所である岬を再訪した老夫婦が殺されるシーンから始まる本作の主題曲としては、まさに打ってつけであると言えよう。
ところが、本作では、マーラーの原曲のままではなく、妙に薄手のアンサンブル(電子ピアノか?)で演奏され、メロディラインにまでも変形の手が加えられている。
マーラーファンとしては、最初「あっ、マーラーだ」と気づくものの、次の瞬間には聴きなれないチープなアレンジに妙なイラつきを覚えてしまうのだ。
‥‥ということで、最初の印象が要らぬ先入観となってしまったのかも知れないが‥‥
あとは、本作の良いところをホメなければならないが、何を書いてもネタバレになってしまうので、改めて、興味を持たれた方は、先に鑑賞されることを強くお薦めする。
【以下ネタバレ注意⚠️(2回目)】
サイコパスを演じさせて岡田将生の右に出る者はそういないだろう、と誰もが思うキャスティング。
岡田も見事に難役をこなし、期待に応えている。
それに増して、驚かされたのが、主役安室朝陽を演じた羽村仁成(16歳)だ。
始まってしばらくは、登場人物のうち、もっともピュアな少年に見える。容姿もしかり、賢そうな話し方もしかり。
ところが‥‥
難役に違いない。
岡田が期待通りだったとすれば、羽村は想定外の演技/存在だった。
本作、最大の殊勲賞と言える。
ジャニーズJr.だったそうではないか。
やはり旧ジャニーズ事務所は若手俳優の宝庫だ、という伝統は受け継がれていたようだ(『夜明けのすべて』2024.2.19Filmarksレビュー参照)。
どこかで見たことあると思ったら、TBS放映のクドカンドラマ『俺の家の話』(2021年)に出てたのか。
ヒロシ役の前出燿志は、昔のキムタクに似ていて沖縄の少年らしさを発揮。
ただし、本作では、沖縄言葉(ウチナーグチ)が全く使用されていないことは減点要素にはなろう。
福井舞台の『罪と悪』(2024.3.4 Filmarksレビュー)が福井らしさを感じさせないのに比べれば、ロケ地ばかりでなく、沖縄らしい道具立てにかなり工夫が凝らされてはいた。
2回ネタバレ注意を促したし(そもそも本レビュー冒頭にも書いてしまったが)、改めて明記してしまうと、本作は、ジュブナイル・サイコ・ノワールである。
プロットは、原作の良さに起因してか、よく出来ていて驚きもあるが(脚本の穴は指摘するとかなりある)、ノワールだとするには、低予算感も相まって、あまりにも軽量級な感じを否めない。
この点、少年少女を主人公にしても、容赦なく(本作も描写自体は容赦ないが)ノワール感の演出に長けた韓国映画に敵わない。
香港関係者が本作には多く参加しているようだが、『インファナル・アフェア』などを観たのはだいぶ前で記憶も薄れたものの、香港映画ももっと重厚だったはずだ。
スコアは、プロット展開の面白さでは、
4.0
としても良いが、脚本の穴、全体として感ずるチープさ、ノワール感の欠如が減点で、
3.7( 映画.com は 0.5 刻みなので 3.5 )
とした(齊藤勇起初監督作の『罪と悪』のようには特に応援しなくても良さそうなので)。
本作はポスター/チラシのアートワークにも見られたようにマイナー感を払拭できず、興行成績も振るわないようだが、今後、根強いファンによってカルト的な人気を維持していくこととは思う。
そのことと、香港、中国、韓国をはじめとするアジアでの人気獲得とは、おそらく別の話になるはずだ。
推移を見守りたい。
※以上、Filmarks投稿を一部修正して投稿
コメントありがとうございます! 僕はいつも基本的にはなるべく好意的にとらえるようにしています、単純にそのほうが気持ちよく感想が書けるので(笑)。旋律、若干いじってたのは僕もびっくりでした。またなにかありましたら気兼ねなくご紹介くださいませ!
「俺の家の話」大好きできちんと見ていましたが、全然覚えてません、そこに出ていた男の子。もしかしたらお能に目覚めて頑張る子だったでしょうか?
この映画の舞台設定を沖縄にしたのはとてもよかったと思います。わからないとわからないけれど、わかるとそれがとても効いている、と思いました
共感ありがとうございます。
原作の“悪童たち”という題名は今作だと、朝陽だけ、強いて挙げても銀メダルくん位でぴんと来ないですね。女の子なんか健気ー! 可哀そう!と思いました。