「力とは何?」若き見知らぬ者たち Ericさんの映画レビュー(感想・評価)
力とは何?
物がないのではない。溢れかえっている。澱んだ空気に息が詰まりそうだ。
「何が」彩人(磯村勇斗)の命を奪ったのか。直接的には分かるがどういう力だったのか。暴力か、権力か。
彩人が自分の頭を拳銃で撃ち抜き初めて映画のタイトルが現れるがあれは彩人の願望であり、かつて見た父(豊原功輔)の最期だ。
とにかく皆多くを語らない。最後の試合直前の壮平(福山翔大)と治虫(伊島空)の会話が最長だっただろうか。しかし誰もが雄弁に語りかけてくる気がする。気がする、だけでそれが何かは全て分からないが。
彩人を押さえ付けた血が残る車止めを見下ろす松浦(滝藤賢一)。「花火」の現場検証で警察の誤認逮捕が判明したのか映画では教えてくれない。松浦は一度後頭部を撃たれ倒れるが、それは彩人と同じく現実ではない。あれもまた松浦の願望だったのか。
仮に壮平の対戦相手、ファビオ(ファビオ・ハラダ)が何らかの原因で試合後倒れ命を失ったら故意ではなくとも原因は力だ。
そして最後の麻美(霧島れいか)と日向(岸井ゆきの)の会話。麻美の症状は進んでいる。それに対する日向の笑顔。実はノベライズでは日向に新たな命が宿っている。この笑顔もそれでかもしれないが、動作がさりげなくて一見しただけでは分からずそれまで日向に起こったことで、もしかしたらと思わざるを得ない。
彩人が暴力で命を絶たれることは分かっていた。しかし店で暴れ始めた三人(カトウシンスケ。申し訳ありません、あと二人のお名前を存じません)は怖い人達ではなく普通の人だ。言うなればこの映画に出てくるのは皆普通の人達であり、現在では彩人の家庭さえ奇異とは言えないと思う。これは普通の世界で起こった出来事。
しかし力で人の命を奪うことは許されない。でも力とは何?
考えて答が出せる自信はない。