君の忘れ方のレビュー・感想・評価
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大切な人の忘れ方は…
「人生は後ろ向きにしか理解できないが、前向きにしか生きられない」と喝破したのは、デンマークの哲学者・セーレン・キルケゴールでしたけれども。
その箴言を映像化したとすれば、そのものズバリ、本作になるのではないかと思いました、評論子は。
そういう意味では、今は亡き大切な人の「忘れ方」というものは、決して文字どおりに「忘れてしまう「忘却してしまう」「記憶の彼方に捨て去ってしまう」ということではなく、「今は亡き大切な人との関係性を見直して、それまでとは違った関係性を築くことにある」というのが本作の訴えかけではないのかと理解した、ということです。
大切な人を亡くした時に、喪失感に苛(さいな)まれることは、機械ならぬ生身の人間としてはやむを得ないこととしても、いつまでも、未来永劫にその喪失感をいたずらに引きずることなく、ある時点に至っては、遺族としての気持ちの上での過剰な負担とならないように、今は亡き大切な人との関係性を組み立て直さなければいけないーというのが本作の言わんとするところだと理解するものです。
使い古された言い回しを例に引けば、幼くして両親を失ってしまった子供たちに、「お父さん、お母さんはお空の星になって、今度はお空の上から◯◯ちゃんを見守ってくれるんだね」と、子供の視座を切り替えてあげたりするのも、言ってみれば「関係性の組み立て直し」ということになるのかも知れません。
いずれにしても、その気づきは当の本人の内発的な自覚によるもの(よるべきもの)であって、外からの働きかけであるカウンセリングは、その端緒に過ぎず、その要素ではない―というのが本作の謂(いい)なのでしょう。
別作品『インサイド・ヘッド』『インサイド・ヘッド2』になぞらえて言えば、今は亡き大切な人との記憶も、人生に生起する幾多の想い出とともに、記憶のカプセルに丁寧に納めて、脳内の貯蔵庫に、大切に大切に収蔵しておくべきだーというように言い直すこともできるのかも知れません。
その意味では、岐阜でグリーフケアの集まりを主宰していた牛丸の「相手との関係性って言うんですかね。まあ、もう会えないのに関係性って言うのもね、なんかあれなんですけど。なんて言うんですかね。会えないけど、でも、変わっていくんですよね」という台詞。
そして、最後の最後に昴の、今は亡き美紀を抱き締めながら「見えなくても近くにいてね。忘れても思い出すから」という台詞は、それぞれ、本作の核心を言い得ていたと思います。
本作の作道監督は、別作品『いのちスケッチ』や『光を追いかけて』などで脚本家として実力を発揮し、今回、満を持して(?)の本作が長編処女作と聞き及びます。
これからも作品を観続けていくことが楽しみな監督さんをお一人「発掘」することができたことと併せて、本作も十二分な佳作と評価しておきたいと思います。評論子は。
(追記)
それにしても皮肉ですねぇ。
結婚式で使うために編集した写真の中から遺影を選ばなければならないというのは。
さぞかし、昴の心を押し潰したことでしょう。
その一事をもってしても。
(追記)
本作については、レビュアーの皆さんの間でも「ストーリーの展開が平坦で抑揚がない」「冗長」と言った指摘があり、評論子も、確かにテンポよくストーリーが展開する訳ではなく、作品の素材とも関連しているのか、登場人物の台詞回しも発声が明瞭とは言い難く、何かモゴモゴ喋っているという印象は、拭えませんでした。
これまでは、主として脚本を書いてきた監督さんの手になる作品のせいか、説明的な台詞が極端に少なく、その点でも、ストーリー展開の把握に難儀した作品でもありました。
あえて減点要素とは考えませんが、「分かりやすい」=「観客に訴えかけやすい(観客として味わいやすい)」作品とするためには、もうひと工夫が必要かとも、評論子は思いました。
(作品の素材は悪くなかっただけに、惜しまれます)
悲しいけれど大事なものを淡々と教えていただいた・・そんな感じの作品...
ずっと愛し続ける
坂東龍汰さんのファンなので劇場公開時映画館で観たかったが、日に1回上映の時間が合わず断念。
でも家で観てよかったかもしれない。
映画館で観たら、止められない涙声と鼻をすする音が館内に響き周りの人に迷惑をかけたかもしれないから。
愛する人を突然、病気や事故で亡くしてしまったら。
経験のない人は想像でしかないが、実際経験がある者には本作、共鳴しかない。
この映画は、
それでいい、愛する人を忘れなくていい、
愛しているのだから忘れなくていい、
そう寄り添ってくれる映画。
(途中、捕まっていない通り魔殺人の犯人を突き止めようとする南果歩さんの狂気から、
あっそっち系の映画? 犯人探し系?復讐?
とも思いワクワクしたが僕のカン違い。
しっとりとした、消えない愛の話でした。)
僕が6才の時、父が42才の若さで亡くなった。
脳出血の発症から2日後、眠るように還らなかった。
当時の医療技術ではなす術がなかったのだろう。
御葬式が終わるまで慌ただしくて悲しんでいる暇などなく、何がなんだか分からないまま時だけが過ぎた。
やっと家族だけになった夜8時過ぎ、庭で飼っていた番犬が吠えた。
門の来客チャイムも鳴らず、見ても誰もいない。
犬は何かを視て吠えていた。
それが3日間続いた。
母は「お父さんが会いに来てくれた」と微笑んだ。
僕はオバケが来るなんてコワイコワイと泣いた。
せっかくお父さんが会いに来てくれたのに。
次の日から父の訪問はなくなった。僕が怖かったから僕を想い、怖がらせられないと父は遠慮したのだろう。
あれから54年経っても、僕は今でも父に守られていると
毎日生きている。
まるで「君の忘れ方」の登場人物の誰か、みたいだ。
忘れ方というよりは向き合い方
タイトルや予告から連想できるように、大切な人を亡くした側(残された側)の再生の物語。
過剰な演出は無く、淡々としたテンポで物語は進む。劇伴は控えめで心地よい。
主人公が、母親を含む周囲の人たちに接していく中で、自身の喪失感に対し、客観的な視点をもって向き合えていく過程が丁寧に描かれていた。
何か明確な答えが提示される映画ではないが、大切な人を亡くすという経験をした際に、そっと背中を支えてくれるような映画であった。
準主役である美紀役の西野七瀬の台詞は大袈裟ではなく2,3言だったと記憶している。それにも関わらず繊細な演技で存在感を放ち、観る側に希望を与えてくれた。
他にはいない稀有な女優になってきたと感じる。
⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
自分で考える力がないと理解が難しいかも
悲しみとの向き合い方
公開週は他に観たい作品が多くて、手が回らなかった本作。スルーしようかとも思ったのですが、やはりちょっと気になって公開から1週間遅れで鑑賞してきました。
ストーリーは、結婚を間近に控えた婚約者・柏原美紀を突然の事故で亡くし、気力をなくしてしまった青年・森下昴が、心配する母に実家の飛騨に呼び戻され、そこで喪失の悲嘆から立ち直る「グリーフケア」というものに出会い、「つきあかりの会」に参加し、その主催者や他の参加者との交流を通して、亡くなった人との向き合い方を考えていくというもの。
本作で「グリーフケア」という言葉を初めて聞きました。確かに身近な人を突然亡くした悲しみは、言葉で言い表すことはできないし、簡単に癒えることもないでしょう。そして、それをどう受け入れ、どう乗り越えていくのかも、人それぞれです。
本作を通して、死や悲しみとの向き合い方はさまざまあり、忘れなくてもいいんだ、忘れてもいいんだ、そこに立ち止まっていてもいいんだと教えられた気がします。でも、一つだけ、後を追うようなことだけはしてはいけないと強く思います。
亡くなった人が何を考え、どう感じているかなんて、誰にもわからないから想像するしかありません。でも、その想像には、きっと自分の気持ちが少なからず反映されているでしょう。そう思うと、「天国のあの人が○○と言うはず」なんて、亡くなった人を言い訳にして、自分の思いを代弁させているだけのような気もします。結局、残された者は、自分の生きたいように生きる姿を、亡くなった人に見せ続けるだけでいいのではないかと思います。
とはいえ、ストーリー的には大きな起伏もなく、平坦で物静かな流れは、心地よくもあり、眠気を誘われもして、込められたメッセージを必ずしもきちんと受け止められていない気がします。あと、逆に不穏なBGMはなんだか気になってしかたなかったです。ホラー感を演出したかったのでしょうか。だとしたら目ざす方向性が間違ってないでしょうか。そんな話ではなかった気がするのですが…。他の方のレビューを読んで補完したいと思います。
主演は、坂東龍汰さんで、抑制の効いた演技が本作にマッチしています。脇を固めるのは、西野七瀬さん、南果歩さん、津田寛治さん、岡田義徳さん、風間杜夫さんら。西野さんは出番もセリフも予想外に少なくてちょっと残念でした。
大切な人との向き合い方を考えるいいきっかけ。
『大切な人が明日、もしいなくなったら...』そんなことが頭をよぎったこの作品。
大切な人、それは、恋人でも、家族でも、人それぞれ。この作品を今、大切な人ができる前・大切な人がいるタイミングで観れたこと(大切な人が亡くなった時の向き合い方を学べたこと)は、とても良かったと思った。
個人的には、今の映画のアクション映画・アニメ映画もとても良いが、考えさせられるような作品こそ、映画の醍醐味ではないかと思う。
大切な人との向き合い方は、人それぞれ、忘れて、前に進む、それも一つの道だし、一緒に歩んでいく、それもまた、間違いではない。人の数だけ、向き合い方がある。
本作は、そんな大切な人を失った人の新しい歩みへの一歩を描いている。
ヒロインの使い方
大切なひとに静かに向き合う
最愛の伴侶と死別した際の、悲しみについて。 "グリーフケア" とい...
最愛の伴侶と死別した際の、悲しみについて。
"グリーフケア" という用語が出てきて、徐々に浸透してきているような。
反応の仕方… 心理・行動・人との接し方
故人をどう思い出すか・忘れるか、
時間がたてば解決するものか?、
など…
正解は一通りではなく、
本人がどうしたいのかを引き出すこと
傾聴・共感・受容
と、要所をまとめて言葉にすれば、心理学・カウンセリングの教科書的になってしまいます。
ですが、丁寧に紡がれた物語、演者さんも迫真に迫り。
身に染みる再確認をさせていただいたように感じます。
一般的に、ベテランやリタイヤの年齢層だと、身内や親友と死別した経験があるひとは、結構いるだろうとは察します。
一方で、この主人公の年代 (結婚式の支度、親がまだ勤務中) だと、
急な死別は、まだ慣れた出来事ではない、受け入れる前に拒絶反応、一時的な抑うつ、
諸々の症状が現れるのも、ありうる事だよね、とは感じました。
むしろ、遺族がさばさばしてたら、故人が悔しがるかもしれませんね (そういう意味合いのセリフありましたよね)。納得です。
伝えたいことはわかるけれど
群像的に登場人物それぞれのグリーフワークが描かれている映画。
坂東龍太と西野七瀬という期待を感じる組合せだけど、ドラマチックさはなくて、不穏さを感じるBGMと画面で、サスペンス調の展開。
カウンセラーの言葉が時折はさまり、そこで、観客の思考を深めようとしているのかなと勘ぐってしまった。
南果歩と、岡田義徳の2人が、狂気と現実の狭間を揺れ動く危うさを魅力的に演じていたが、その2人のエピソードが強烈なため、せっかくの坂東龍太が恋人と関係性を編みなおしてゆくプロセスが霞んでしまった感じがしてもったいないなと感じた。
主演の2人がとても良かっただけに、2人の関係性や複雑な感情にクローズアップしたものがみたかったかな。
忘れなくていいのでは?
大切な人との向き合い方
大事な人を亡くしてしまった痛みや悲しみからどのようにして現実を向き...
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