「美しい音楽と情景で紡がれながらどこか苦みのある作品。」サイレントラブ natukiさんの映画レビュー(感想・評価)
美しい音楽と情景で紡がれながらどこか苦みのある作品。
美しい男女の恋愛映画と思って見に行ったけど、いい意味で裏切られた。
恋愛映画であることは間違いないけれど、スクリーンの世界の中で中立であろうとする自分ですらもどこかしら偏見があることに気付かされる皮肉さを内包している。
そこが内田監督の作品らしいなと思った。
他の方のレビューにもあったけれど、最後の事件のシーンで美夏に尋問がなかったのかどうかというところが私も引っかかった。
そんなことありえるのかと。
けれどそのシーンに関してはノベライズを読むことで補完された。
映画で切らざるを得なかったシーンなのかもしれないけれど、そこはモノローグでも良いからあった方が親切だったかもしれない。
無駄に説明はなく、シーンと音楽、今回の主人公蒼に至っては言葉すら発しない。
蒼は言葉を発しない代わりに山田涼介さんの目の演技のグラデーションは素晴らしい。
何事も興味を持たない光のない目は蒼の流れ行く生活を表し、美夏と出会うことで少しずつ生きている人間らしい力を有した瞳に変わっていく。
ライバルの野村周平さんも本当に全編通してクズという感じだったのに最後の事件から人間らしい表情に変わっていく。
そこのコントラストが非常に面白い。
あと目が見えない美夏だが、最初は意地を張ってワンピースを着ているけれど守ってくれる人がいなくなりパンツスタイルに、その後視力が少しずつ回復してきた辺りから再びワンピースのような女子スタイルにと変化していくことで美夏の変化をつけているところが面白かった。
あと古田新太さん。
実際にいるわけではないのに、あ、こういう人いる!ってなるのがこの人のすごいところ。
最後サクタが去るシーンと最後のニュースには騙された。
騙されたと知った時に自分も色眼鏡で彼を見ていたのだと気付かされ、衝撃と共に苦みを走らせる。
そして何よりも久石譲さんの美しい音楽。
ピアノが多いが、蒼の内包する荒々しさを表すためにエレキギターを用いていたり、生徒の弾くピアノを北村がつまらないと感じている時はわざと単調に弾いたりされているのも興味深かった。
最後の現場のシーンは賛否あるだろうが、それを差し引いても面白いなと私は感じた。
情報が反乱する社会の中で言葉や説明を削ぎ落とした演出は一見の価値があると考える。