「珍妙な展開になるのが低評価になるところの大半の理由。」サイレントラブ yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
珍妙な展開になるのが低評価になるところの大半の理由。
今年44本目(合計1,136本目/今月(2024年1月度)44本目)。
(ひとつ前の作品は「コット、はじまりの夏」、次の作品は「カムイのうた」)
※ 当方は行政書士の資格持ちかつ、一方で重度身障という立場でもあるので、どちらの観点でも見に行きました。少し辛口のレビューになるかもしれません。
こういった事情がありますので、ストーリーの感想は少な目にして上記の観点(特に重度身障者と刑法とのクロス論点ほか)で見ていきましたので、そのあたりを中心に。
他の方も触れられていた通り、この映画の予告編ほかをみれば、聴覚・視覚に障害を持っている方の恋愛の部分にスポットがあたっているように普通は考えるでしょうし、普通はそう思ってみるのですが、いざ映画館にいってシアターに入ってストーリーが始まると、飛び降りるだの何だのといった不穏当な話が始まったり…という「珍妙な展開」というより、「何を述べたいか一見して理解しがたい」という部分があります。
そして「白杖を振りかざすことによるけがを負わせるトラブル」の描写についても、映画のストーリーのようにしたいのは理解するものの(ストーリー重視というかお話の展開重視というか…)、ここが何とも…と言ったところで(後述)、この映画は「重度身障者などの社会進出」「重度身障者とて何も罰せられないわけではない」(旧刑法等と事情が異なる)という現在の「厳しい意味でのノーマライゼーション」を考えると、うーんきついなぁ…といったところです。
ただ趣旨は理解できるし、上記のように「重度身障者も健常者と同じように民事・刑事上も責任をおうべき」という重いテーマにしたくはなかったのだろうということは推知もできるし、減点幅がやや特殊です。
採点に関しては以下を考慮したものです。
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(減点0.3/映画の予告編からこうしたストーリーになることの予想が難しい)
・ 普通は多少の暴行シーン(ここでいう「暴行」は普通の意味)等はあっても、映画の趣旨からして、重度身障者の社会進出等の論点がメインなのだろうと思いきや、それはあるとしてもヘンテコな展開に飛びまくるのが厳しく、うーんこれどうなんんだろう…といったところです。
とはいっても、1月4週全体をみてもガンダムに極端に吸われる現象は考えにくいし(正直「本命馬」ならぬ「本命映画」が見当たらない)、この映画も「本命」に来そうなところ、ちょっと残念なところです。
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(減点なし/参考/重度身障者と民事・刑事の責任の負い方(白杖関係))
・ 刑法上、現在でも有効なのが「心神耗弱などのケース」です。逆にこれら以外の規定は重度身障者等も社会に進出することが当たり前になった今日(こんにち)においては「保護的に」(換言すれば、おせっかいかもしれないが、当事者を守るという観点から)置かれていたものは削除されています(昔は聴覚・視覚障害をお持ちの方の減免規定があった)。
ところでこの映画のトラブルシーンとなる「白杖に関すること」でいえば、民法上は不法行為を構成するとしても、当然民事にしろ刑事にしろ全体を考慮して判断されますから、映画のような状況では民事上責任を負わない(あるいは負うとしてもきわめて少額になる)か、刑事上も考慮される(不起訴処分は一切の事情を考慮してなされるもの)です。そしてそれでも起訴されれば、新聞・ニュース報道等をみて「誰それさんを守る会」等が結成されるということになります(これは重度身障に限らない話。加害者の責任が形式的にあっても、被害者側の責任が強く非難されるなら加害者だけを罰するというのは社会通念上妥当ではない)。
そうであればそのように争えばよいだけで、最終最後は裁判官が決めることではありますが、重度身障等であること「のみ」をもってかなり考慮されるわけではなく(多少は考慮されましょうが)、どちらも「全体として本人がどの程度の責任を負うべき事案なのか」ということにになります。換言すれば、「重度身障だからといって守られる時代」ではもうないのです(こうした保護規定は心神耗弱等の一部の政策的なものに残っているだけ)。
こうした点からのアプローチがないので、「かばいあいをしても仕方がない」し、「重度身障であっても民事・刑事上の責任は等しく負うべき(裁判には応じるべき)」という観点ぬけぬけになっているのが、何だかなぁ…といったところです。