「個人的10年に1本の大傑作」デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章 ツツジさんの映画レビュー(感想・評価)
個人的10年に1本の大傑作
映像・演出・演技(20)
CGを駆使した母艦や、ラストのあの結末の描写は圧巻の一言でありみていて呆然としていた。特に記憶を覗く際の画面がサイコロ状になるメタ的な演出が気に入った。演技に関しても主演を務めた幾田りらさんとあのさんは本職と比較しても遜色ないほど上手だった。(特におんたんを演じたあのさんはハマり役でしたね!)
文句なし
20点
世界観(20)
ある日地球上に現われた空を覆う大きさの巨大飛行物体というアーサー・C・クラークの『幼年期のおわり』に似たモチーフの中で『(人類から見て)弱い宇宙人』と人類の闘争という形を表層の対立として描き、本質は侵略者と地球人双方が庶民同士で混乱や対立を起こし、その中で、『偉そうにしているクソ野郎』(作中の総理の一言)を相同したある種の元凶として描くという多層構造になっていた。この構造はある種現実世界のメタファーとして十分に成立するものでありリアリティーと重厚さを兼ね備えた肉厚な世界観であった。ただ、終盤のエヴァっぽい演出から始まる一連の現象は一回観ただけでは理解し切れなかったのでここの説明を丁寧にするべきだったのではないかと思う。
18点
脚本(20)
主人公たちが送る『クソ平和な』閉じられた狂気的ともとれる日常は東京壊滅を以って壊された。しかし、大切のものの数々を失ったはずの彼らはまた『夏休みの続き』を希求する。ハッピーエンドともバッドエンドとも言えないこの結末は我々の住まう社会のそれを予感させるという点で風刺的である。個人的には良い結末だと思う。ただ、門出の母との関係や、兄の死を受けた凰蘭のリアクション、母艦近くで描写された謎の透明なひらがななど、描写不足だったり畳みきれなかった伏線が合ったので多少マイナスか。
18点
キャラクター造形もしくは心理描写(20)
本作品は群像劇の様相を呈しており、数多くのキャラクターが登場するが、どのキャラもしっかりと立っていた。モブという存在を無くす試み(この姿勢は幼少期のおんたんが小学校のクラスメイトたちに向けて放った『そこの面白い顔した奴ら』というセリフに彼女が彼らの『顔』をしっかり見ているという行動そのものに集約されている。)はとても好感が持てた。主人公である門出と凰蘭のコンビは元の世界線での門出の結末や、彼女の『デーモン』(ちなみにデーモンは原義を辿ると善性と悪性のどちらを有する可能性がある存在らしい。)という作中のあだ名などから『魔法少女まどかマギカ』のまどかとほむらを彷彿とさせた。ただし『まどマギ』と本作では悪魔と天使の関係が逆転しているのが面白い点であると思う。
ただかなり主人公たちに近いのに存在の必要性が不明瞭なキャラがいるにはいたのでそこの掘り下げが必要だったのではなかろうか。
17点
メッセージ性(20)
9.11、3.11、原発、COVID19、陰謀論に対する世間の対応など(このほかにもたくさんある。)様々なテーマに内在する『他者』の出現、国民の傍観者としての姿勢を主なテーマに据えていたように思う。社会批評としては十分に分析に耐えうる可能性が高く、これらのテーマの数々を一つの作品にまとめ上げた手腕に感動を禁じ得ない。
20点
総評
うーん映画館で泣くことはあっても茫然としたのは初めてかもしれません。ここまでテーマ性のある作品を見たのは幾原邦彦監督の作品(『輪るピングドラム』や『ユリ熊嵐』など。)以来ですね。いまの時代に必要なテーマと社会に通底する問題をシニカルに、そして面白くとりあげるセンスに脱帽です。個人的に十年に一本の大傑作!文句なし!
93点