「絶望の国の幸福な若者たち」デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章 sewasiさんの映画レビュー(感想・評価)
絶望の国の幸福な若者たち
映画が始まって3分ほどで、怒涛のスピードで物語が展開する。あっという間に、物語としての下地が整う。
母艦に爆弾を投下する場面。直下の街も巻き込まれる。このシーンで、ウクライナやイスラエル、ガザの市民が普通に生活している都市にミサイルが無差別に撃ち込まれる映像を連想してしまった。
彼らが東京上空に居続ける理由は、この爆撃が原因で動けなくなったからだ。いつまで待っても助けはこない。彼らは見捨てられた民だ。いつかは食糧も尽きる。地上に降りれば人間に殺される。まさに地獄だ。
原作では、中学生が石を投げただけで小型船が墜落する場面もある。「侵略者」と呼ばれているが、実際の戦闘力はゼロに等しい。
5人の友情を確かめ合ったクリスマスの夜に起きた不幸な事故。
翌朝。
「・・ニュース見た?」
「うん・・」
言葉が続かない……。
空気を読まず、いつも通りガンガンしゃべるおんたん。
思い詰めた表情で声をかける門出。
「知ってるよ!!」
人間と「侵略者」。
「君たちが仲良くなるために」
「共通の敵が必要なら」
・・・。
「その役割は僕が引き受けよう!」
キホちゃんが亡くなった後日、学校の屋上で母艦に向かって叫ぶおんたん。
そこに謎の少年が現れる。
ここで一気に映像が展開する。「回想シーン」などという、ありきたりなものではない。まるで喪黒福造の「ドーーーン!」のようなインパクト(たぶん違うけど)。
きっかけとなったのはショッピングセンターの駐車場の場面。いつものように人助けをしていた門出は、車内で熱中症でぐったりしている男の子を見つける。助けようとしたが、加減を誤り車を吹っ飛ばしてしまう。焦燥しているところに、いかにもバカっぽい親が現れる。
バカな大人に対する怒りを感じつつも、人助けをやり直したくて「困っている人」を無理やり探す。「少し失敗したけど自分は間違ってない」という思いが、彼女をそう駆り立てる。UFOを見たという話を誰も信じてくれず、逆にそれが原因でいじめられた悔しさもある。
自分は間違ってない。
間違ってない。
間違ってない。
間違ってない。
間違ってない。
人助けが「正義の執行」となり、次第にエスカレートしていく。
もともとそこまで正義感が強かったわけではない。ただ、引っ込みがつかなくなってしまったのだ。
「おんたんだけは助けてあげる」
その一言で二人は決裂。そりゃそうだ。
5月24日に公開される後編はどうなる?安直に予想できるのは、闇に堕ちた小比類巻にそそのかされた門出が再び暴走する展開。その暴走をおんたんが止めようとするシーンだろう。
(実際どうなるかは原作を読んでいるので知っているが)
原作と比べると、かなりカットされ、詰め込んだ印象が強い。原作は多角的な視点で読めるように描写されており、小比類巻にも共感できる部分があるが、映画では時間が限られているため、分かりやすく熱い展開に振り切った感じだ。ふざけているように見える場面でも、実はふざけていないことが伝わるような音楽が流れている。
すごくよかったと思う。原作も素晴らしいが、直球勝負の吉田玲子の脚本が熱い。
この映画は、信念を貫いた原作者にとってご褒美のようなものだ。この映画をきっかけに原作に興味を持つ人が増えるといいと思う。自分の精神が無限の時空にまたがって存在し、互いに共鳴し合っていると考えると、他の時空を生きる自分に恥じない生き方をしたいと思うようになった。この作品には感謝している。