一見相反するジャンルが絶妙なバランスで同居している
『サッドカラー』の、美しさの中に共存するバカバカしい笑いと狂気に大興奮!
『ホゾを咬む』の公開を楽しみにしていました。
『サッドカラー』が“笑いと狂気”だとしたら『ホゾを咬む』はミスコミュニケーションから生まれる“笑いと恐怖”…
恐怖と言ってもホラー的な怖さではなく、心がゾワゾワして不安感に襲われるので、サスペンスの恐ろしさに近い。
とにかく一つのシーンがコメディにもサスペンスにも映る面白さ!
そしてどちらも美しい愛の物語です。
漫画家の楳図かずお先生が「人間の原始的な感情である“恐怖”と“笑い”に興味がある。」と語ってらしたのがずっと心に残っていましたが、髙橋監督の映画で実感しました!
そもそも笑いは人の不幸で出来ているものですが、笑いと恐怖も紙一重。
行き過ぎた笑いは恐怖になって
行き過ぎた恐怖は笑いになる
まさに楳図ワールド
ちょっとした偶然なら笑えるけど、ものすごい偶然だと怖くなるし
ちょっとした勘違いなら笑えるけど、ものすごい勘違いだと怖くなる
知っていると思っていた相手の別の顔が見えた時…
相手のことを信じられなくなるのか?
それとも自分のことを信じられなくなるのか?
自分を形どっているはずの“自分”という存在までもが危ぶまれてくる恐ろしさ。
相手の見えていなかった部分が“本当”なのだとしたら、見えていた部分は“偽物”なのか?
でも、同じものを見ていたとしても、受け止め方は人それぞれだし、自分だって自分の耳の裏は見えていない。
自分自身ですら自分のことがわかっていると言えるのか?
むしろ出逢う人それぞれの中に、異なる自分が存在しているのだと思えてきます。
会話をじっくり分解して観察することで、会話に至るまでの心理の裏側が炙り出されていきます。
本当は聞きたいことがあるのに、言い出せなくて別の話題をしてみたり。笑
聞いて欲しかったのはそこじゃないのに、相手は別のポイントが気になっていたり。笑
こちらの真意は言葉にしないと相手に伝わらないけど、言葉にしたからといって相手に伝わるとも限らない。
私たちが普段あまり意識せずに交わしている会話の裏には様々な心理が交錯していて、表情やちょっとした仕草、間などから瞬時に判断して次の言葉を選んでいる。
“会話をする”ということは非常に高度でエキサイティングなコミュニケーション。
そのドキドキハラハラも伝わってきます。
見えていない部分を無理に見ようとしなくても良いけど、相手に一歩近づきたい。
子供の頃、大人たちがする天気の立ち話を生産性のない不毛な会話だと思っていましたが、コミュニケーションを取ろうとすること自体が愛なのよね。
監督でもあり脚本家でもある足立紳さんが「奥さんの事が大好きすぎる人の話し」とおっしゃってましたが、まさにその通り。
不器用な愛が笑えて泣けます。
こだわり抜かれたモノクロの映像は、どこを切り取っても絵になる美しさ。
こんな詩的な映像に笑いを入れてくるセンスがたまらない!
私、泣かせるよりも笑わせる方が難しいと思っているコメディ至上主義者です。
ベタな笑いも好きですが、本人たちはこの上なく真剣なのを引いた目線で捉えた笑いが大好き。
長回しだから活きる面白さに、カットのタイミングで笑わせる気持ち良さ!
寝室のシーンが最高に笑えました。
◾️2024/2/25 カラー版鑑賞
1回限りのカラー版の上映とのことで、ファンとしては見逃せません。
色がつくことで登場人物やモノに質量が生まれる!!
モノクロ版の幻想的な禍々しさや緊張感が薄れて、リアル世界のヘンテコな人々の物語に見えました。
確かに監督の狙いとしてはモノクロが正解なのですが、双子が座るソファーとラストの暖かな光には、カラーならではの感動がありました。
観ることができて本当に良かった。