劇場公開日 2023年11月18日

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「取材道具を携え街を駆ける畠山理仁の後ろ姿に希望をみる」NO 選挙,NO LIFE 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5取材道具を携え街を駆ける畠山理仁の後ろ姿に希望をみる

2023年11月20日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

ほぼ予備知識がないまま観始めて、このドキュメンタリーの“主役”であるフリーランスライター・畠山理仁が2022年9月の沖縄県知事選の取材で辺野古ゲート前を訪れる場面で、「あれ、よく似たシーンを最近観たな」となり、ほどなく「国葬の日」(2023年9月公開)だと思い至った。「国葬の日」の前田亜紀プロデューサー・大島新監督のコンビが、この「NO 選挙,NO LIFE」では役割を交換して携わっている。

「国葬の日」のレビュー枠では、東京・下関・奈良など10都市で別々の取材班が昨年9月27日に街中の人々にカメラとマイクを向けた映像だけで映画を作るという企画だったがゆえに「映画としてのピントがずっとぼやけているようなもどかしさ」と書いた。一方で「NO 選挙,NO LIFE」は、立候補者全員に話を聞くという独特の手法で選挙を取材する(本作の前半で取り上げられる2022年7月の参院選・東京選挙区では候補者34人!)畠山をひたすら追いかけるという明確なストーリーラインがあり、視点と論点がぶれないのがいい。

有力候補であろうと泡沫候補(畠山の表現では「無頼系独立候補」)であろうと分け隔てなく主張を傾聴し、ときには採算度外視で現場から次の現場へと駆けめぐる、選挙取材がライフワークになっている畠山を指すのが「NO 選挙,NO LIFE」の第一義だろう。ただし、経済が長らく低迷し、投票率の低さに端的に表れているように民主主義も衰退しつつあるこの国で、有権者ひとりひとりにとっても選挙は生活と人生を左右するほど大切なことなんだという作り手のメッセージも題に込められていると感じる。畠山理仁のような人たちが選挙のリアルを伝え続け、また本作のように大ヒットは難しくても政治について考える契機を提供してくれる映画が作られ続ける限り、希望はつながっていくのだろう。

高森 郁哉