「『JUNK』シリーズ第二弾は本格タイムトラベルSF! 若干期待とはズレたが完成度は高し。」JUNK WORLD じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)
『JUNK』シリーズ第二弾は本格タイムトラベルSF! 若干期待とはズレたが完成度は高し。
さすがに見逃しちゃったかと思いきや、
まだ主要都市ではどこもやっていて凄いなあと。
祝・ロングラン!!
ようやくタイミングがあって観ることができました。
『JUNK HEAD』でフルスイングの衝撃を受けて、
長らく公開を待ち望んでいた続編ではあったが、
実際に期待していた映画だったかというと、
微妙に思っていたテイストとは違ったような。
でも、たどり着いた地下の街カープバールの
ペンキをぶちまけたような菌の増殖ぶりと、
気色の悪い生物のうごめくさまを見て、
違和感とか結局どうでもよくなった(笑)。
さらにはラストのメイキングで、あの街を
監督がせっせと「作っている」様を見せられたら……。
やべえ、ホントにあのジオラマ手作りなんだ(笑)。
『JUNK HEAD』は、予告編や事前の評判からすると、もっと手の込んだディストピアっぽい『銃夢』みたいなダークなスティームパンクかと思いきや、思いのほかプリミティヴで粗削りで「ただひたすら人形を動かすことに懸けた」ストップモーションアニメに仕上がっていた。
綿密な設定やSF的なガジェットはあるらしいのだが、そこはわかる人はわかればいいやということで、どちらかというと、とにかく人形を走らせ、高所から落とし、粉々に破壊し、それを再生させては、またエイリアンもどきの怪生物に襲わせて、破壊し、また再生する……そんな無限の悪夢的なループ(人形愛)を分かち合う、そんなインティメットで手作り感あふれる作品だった。
思ったより手工業くさかったが、
だからこそ『JUNK HEAD』に惚れた。
親近感がいや増しに増した。
そういう部分がたしかにあった。
だから、遅まきながら続編を見て、
率直にこう思ったのだった。
「なんか、ちゃんと出来過ぎててつまらんな」
ひどい感想だけど(笑)、意外に
そう思った人って多かったんじゃないかな?
― ― ― ―
『JUNK WORLD』は、『JUNK HEAD』と比べて、格段にまっとうなつくりのSF大作である。
物語や細かい状況説明はそっちのけで、ひたすら人形を動かしていた前作と異なり、今回はまず、語りたい壮大なSF的設定と時空をまたいだギミックがあって、それをきちんと丹念に順を追って叙述していく。「え? 堀監督ってこんなにちゃんとわかるようにナラティヴに取り組める監督さんだったんだ?」って意外に思うくらいに、ちゃんとSFしている。
描かれるのは、幾重にもタイムパラドックスが仕掛けられた、タイムリープとやり直しの物語だ。ありていに言えば、一人の女性を救うために、単に歴史を改変するどころか、ひとつの数千年に及ぶ「並行世界」までつくってしまう、一体のロボットの妄念と執念の物語だ。
そこには『シュタゲ』や『Re:ゼロ』のような、ヒロインを救うためならなんでもやろうとする徹底した「鍵ゲー」的必死さがあり、これはまさにタイムリープものの王道といってよい。
さらに一幕と二幕では、『カメラを止めるな!』風の「語り直しによる他視点の導入と意外な真相の提示」まで試みられていて、こんな凝った叙述トリックを仕掛けてくるのか、と結構びっくりした。
正直、ここまで「込み入った」話をギミック主体で語ろうとする監督さんだとは思っていなかったので、素直に感心もしたし、かつよく出来た話だとも思った。そこは本当だ。
ただ、『JUNK HEAD』の続編として自分の観たかった「ひたすら人形を動かす」ストップモーションアニメとしては、思いのほか洗練されすぎていて、だいぶと期待していたものからは「ズレ」があった。そういうことだ。
『JUNK HEAD』の最大の魅力は、ロビン(ポンコツロボット)の必死さ丸出しの「動き」にあったのに、今回出てくるのは「人間」のキャラばかりで、しかも出だしは棒立ちのシーンが多くて、アニメーションとしてはあまり魅力を感じない。
それから『JUNK HEAD』では地下世界が舞台で、奇怪な肉食生物が跋扈する腐海っぽいイメージ――暗くてじめっとしてて、なんか肉っぽい感じが魅力的だったのだが、今回は普通の室内かオープンエアの渓谷が舞台で、からっとしているしにちゃっとしていないし、キモキャラは出てくるにせよ単発的である(地下の街カープバールだけは前作の禍々しい雰囲気が踏襲されていて、うごめく動物も気持ち悪くて素晴らしいけど)。
そもそも『JUNK HEAD』の場合、徒手空拳の「弱い」ポンコツロボがギーガー的造形のエイリアン風怪物に襲われまくるドタバタと、それに伴う墜落と破壊という上下動のアクションが主体だった。今回の『JUNK WORLD』では、人間シルエットの強化人間やロボットやマリガンが剣や銃で武装した状態でバトルを展開する。要するに、やっていることがものすごく「普通」になっている。
しつこいようだが、『JUNK HEAD』が、やけに詳細な設定を練り込んであるわりには、そっちはパンフででも後で補完しておいてねとばかりに、専ら「ストップモーションアニメ」として人形を動かすことに淫していたのに対して、『JUNK WORLD』は、明快に王道のタイムトラベルSFを指向し、それをちゃんと成功させている。結構小難しい設定を、観ているだけで咀嚼できるようにうまく組み立ててある。
全体に「予算があがって」「手伝ってくれる人の手も増え」「3D造形やCG要素も加わった」結果として、内容として仕上がりが格段に「洗練」されたのはたしかに間違いない。
だけど――、それによって喪われた「何か」もあるんだよね。しょうがないけど。
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●今回、個人的に言うほどはまれなかった理由として、ヒロインであるトリスがあまりに女丈夫すぎて、イマイチ愛着のもてるキャラじゃなかったことが挙げられる。これがレムとかエミリアとかまゆしぃ☆とかクリスティーナくらい「助けたい」と思えるようなキャラだったら違ったんだろうけど(笑)。
軍服だし、顔はつぎはぎだらけだし、可愛げがないし、感情の起伏が薄いし、萌えられる部分が何もない。「ドラマ」がないぶん、ロビンの絶対的忠誠が単なる刷り込みのようにしか感じられない。
●むしろ作り手からすれば、本作の正ヒロインはバステトということなのかもしれない。こちらは愛嬌のある言動を見せ、ちょっとうるさいしうっとうしいが、献身的で一生懸命で共感のもてるキャラだった。
ロビンのトリスに対する絶対的忠誠と相似形を成すように、バステトはロビンに対して絶対的忠誠を誓っている。ロビンにとっては、バステトどころかリビーア族全体がトリスを救うためのギミックに過ぎなくて、基本的な接し方は戦略シミュレーションで街を増殖させているのとそう変わらない。一方、バステトにとってロビンは神に等しい存在であり、淡い恋心を抱いている。彼女は必死でロビンの役に立とうと奮戦し、最後は華々しい形で自己犠牲を遂げることになる。このへんのやけに容赦のない突き放した感じは、キャラを「人形のコマのようにしか思っていない」という意味で、堀監督の製作スタイルと通底した部分があるのかもしれない。
●マリガンオリジナルの再生体であるダンテは、寡黙ながら常識的で頼りになるキャラクターだった。「神経接続でクローンを乗り換えて1000年以上生きている」という設定はあまり生かされていなくて、ちっとも老成などしていないし、ふつうにアメリカン・ヒーローっぽい扱いではあったが。ラスト、なんであんなことに??(パンフには「ヴィジョンに従い」と書いてあったけど) 少しギリシャのオウィディウスの『変身物語』を彷彿させる超展開。
●マリガンが、目がないかわりに受容体みたいな装置を顔にぶっ刺して外界を認識しているのって、『ロスト・チルドレン』の「一つ目教団」とおんなじシステムだよね。
ちなみに、この映画で実際の目を露出させている生物キャラって、実はテリアとバステトくらいしかいない。あとはみんなレセプターかサングラスを着用している。おそらく人形を用いたストップモーションアニメで、人形に「目の演技」をさせるのが極端に難しいからではないのかな?
●ギュラ教の教祖プリオンのお姐系の口調とSMボンテージファッション、奇怪な身のこなしと狂いっぷりは、本作のある意味「メインデッシュ」。前半はプリオンのキャラで「もっている」といっても過言ではない。なんか『ヘルレイザー』とか『ベルセルク』の神様っぽい造形。
●カープバール市街の、臓物をぶちまけたみたいなカラフルな菌糸と、そこに棲息する得体の知れない不気味生物群は、まさに堀監督の真骨頂のような造形で素晴らしい。
●前作同様、男●器を思わせる「イワギンチャク」や「金根瘤」、ウ●コ状の「ウマミール」など、地を這うようなそのまんまの下ネタは健在。違和感のある人もいるかもしれないが、個人的には何の問題もなく大好物である(笑)。
●ただ、全般に「ピロピロ」とか「ギャランドゥ」とか、笑わせにかかっているネタの多くは、明確に「スベっていた」ふうに思ったのだが(笑)、僕の気のせいだろうか。
●せっかくなので「ゴニョゴニョ語」の字幕版で観たんだけど、前作の「ゴニョゴニョ語」もこんなんだったっけ??
なんか、その場面の文脈と関係のない日本語が多数耳に飛び込んできて、結構気を散らされたんだけど……。遊びとしては面白いのかもしれないけど、若干映画鑑賞の邪魔になる面白さだったかも(笑)。
あと、微妙にイントネーションとか言葉の吐き出し方が北朝鮮の国営放送みたい感じがするのって、人間たちの軍服姿がちょっとそういう感じなのと関係があるのだろうか?
●あと、「予算の都合で今回もしかたなく」という体で、スタッフ6人ですべてのキャラの声の演技を当てているが(当然「吹き替え版」もこの人たちが当ててるんだよね?)、実際はアテレコってやってみるとすごく楽しくて、手放したくないのではないかと邪推(笑)。基本的に「主導権」を誰にも渡したくないから、こういうクローズドなモノづくりをやっているわけで、プロの声優を入れること自体に結構違和感があるんじゃないかな。
●ラストはよくわかっていなくて、あんだけ何千年もかけてやってこの結末かよ!と思ったが、パンフを読んで、あのあとトリスが●●装置に入れられているらしいことを知る。てっきりお棺かと(笑)。
●パンフは2500円もするのだが、値段相応の価値のある素晴らしい内容。詳細な設定資料集、メイキング、ビジュアル集となっていて、めくってもめくってもみっちり『JUNK WORLD』の世界が堪能できる。詰め込みすぎで、のめりこみすぎで、独りよがりで、同人誌感があって、自らの創作物への愛であふれかえっている……ある種、作っている映画と同じようなノリでパンフまで作ってあるのが笑えます。
●次回作はパンフによれば、『JUNK HEAD』のパートンとニコ、本作のロビンとトリスが地下世界を旅しながら邂逅するような、総まとめの内容になるらしい。
楽しみに待ちたい。
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