「アメリカ社会のリアリティ」リアリティ R41さんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカ社会のリアリティ
2023年のこの作品は、実録そのものといっていいだろう。
この実際の「出来事」が映画として表現された背景は、主人公のリアリティという名前とその「出来事」に対する是非を、今一度社会に投げかけたかったにほかならないだろう。
つまりそれが映画の作り手のシンクロニシティになったと感じた。
制作者は、この事実こそが重要ではないかと思ったはずだ。
さて、
冒頭から、何の変哲もない女性の自宅前に現れたFBI
その意味することを彼女はすぐに理解できないまま、FBIの回りくどい質問を受ける。
自宅周囲を取り囲むイエローテープに書かれた「犯罪現場」という文字
やがて「誘導」されるようにリアリティは質問に答えつつ、自身が何をしてしまったのかを思慮することになる。
つまりリアリティは、NSAの諜報関連会社の語学専門官という契約社員であり、当時アクセスしてみた「ロシアゲート」の内容を外部に持ち出し流出させた罪で、取り調べられている。
この国家機密はTVでも取り上げられている通りだが、以下に概要と疑問を書いてみた。
リアリティ・ウィナー事件の背景と構造
1. 機密文書の内容と影響
リアリティが漏洩したのは、NSAの報告書で「ロシアのハッカーが2016年の米大統領選に介入した可能性がある」という内容。
これは、トランプ政権の正当性を揺るがすものであり、ヒラリー・クリントンが敗北した理由の一端として利用可能な情報でもある。
2. 機密文書へのアクセスと持ち出し
NSAの契約社員であったリアリティは、語学専門官として機密情報にアクセス可能な立場だった。
彼女が持ち出した文書は、印刷可能であり、チェック体制があったにもかかわらず、漏洩が起きたという点で、内部統制の甘さや「誰かが意図的に漏洩させた可能性」も否定できない。
3. ターゲットとしてのリアリティ
彼女が「選ばれた」のか、「自発的に行動した」のかは議論の余地がある。
FBIの尋問記録によると、彼女は理想主義的な動機で行動したように見えるが、NSAの中で彼女が「リークしやすい人物」として監視されていた可能性も排除できない。
トランプ vs ヒラリーの構図と情報戦
1. ロシアの介入とヒラリーの反応
ロシアはヒラリー陣営のメールをハッキングし、WikiLeaksなどを通じて情報を拡散した。
これはヒラリーにとって大きな打撃であり、彼女は「コミー長官の手紙と発言が敗因だった」とも発言している。
2. 情報機関の操作疑惑
CIAやFBIが作成した報告書が「党派的に操作された可能性」があるという指摘もあり、ヒラリー側がこの情報を「口実」に使える構造が存在していたとも考えられる。
3. トランプ政権の反応
トランプはロシア介入の存在は認めつつも、自身の陣営との共謀は否定。
情報機関への不信感を強め、コミー長官を解任するなどの行動をとった。
疑問点 1)
「すべての職員にチャンスがあり、『それをさせた』誰かがいて、当然チェックはかけられていたはずだ。その中でターゲットとなった何人かの一人がリアリティだったと考えることができる」
この視点は非常に重要だ。
リアリティは「偶然の漏洩者」ではなく、「構造的に選ばれた存在」である可能性がある。
NSAのチェック体制がある中で、彼女が持ち出せたという事実は、内部に「黙認」あるいは「誘導」があった可能性を示唆する。
2)
「そもそも犯人サイドがトランプだったのかヒラリーだったのかさえわからない」
まさにその通りで、情報戦の中では「真実」よりも「誰が語るか」「どう語るか」が重要になる。
リアリティの行動は、ヒラリーにとっては「敗北の正当化」、トランプにとっては「政権の正当性への疑念」として機能してしまう。
事実は、リアリティが起こした事件として幕を閉じた。
実際にこれを引き起こしたのが誰なのかはわからないままだが、どの職員にもそのチャンスが与えられていたのは確かだ。
最終的に引っかかったのがリアリティだったに過ぎない。
これがアメリカの「リアリティ」だ。
エンディングには「私は極秘と知っていたが、米国市民に仕えるとも誓っていた」
これが彼女の想いであり、米国市民としての言葉だ。
政府の機密事項を知る立場にある諜報機関会社に勤務している人物が持つこの至極一般的な思想。
それを逆手に取った手法で、相手陣営にダメージを与えようとする「巨悪な因子」がアメリカ内部に居ることをこの作品は伝えている。
そしていつものようにそれらは、すべて陰謀論となってしまう。
どの国も、ここまで腐りきってしまっているのが事実だろう。