「【”排他、同調圧力。そして招いた因果応報。”大災害時、一棟だけ壊滅しなかったアパートに住む排他的行動を取った人々の愚かしくも恐ろしい姿を、物凄いシニカルな視点で描いたディザスタームービーである。】」コンクリート・ユートピア NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”排他、同調圧力。そして招いた因果応報。”大災害時、一棟だけ壊滅しなかったアパートに住む排他的行動を取った人々の愚かしくも恐ろしい姿を、物凄いシニカルな視点で描いたディザスタームービーである。】
■今作は、大災害に見舞われたソウルの街を舞台に、唯一崩落を免れたに「皇宮アパート」の住民たちのサバイバルを描いている。
そして、当然の如く周囲の倒壊したアパートたちの住人は「皇宮アパート」に殺到する。
◆感想
・「皇宮アパート」の婦人会会長が、アパートの軍歴がある比較的若い人を集めて行った、外部の人を受け入れるか、拒否するかを決める裁決シーン。
ー 結果は、圧倒的多数で拒否を決める人たち。更に、住民代表を決める選択で、住民代表に選ばれたのは、その前に一階で起きた外部から侵入した者による放火を身体を張って消火したヨンタク(イ・ビョンホン)であった。
ヨンタクは部屋の隅っこに座っていたが、住民代表に選ばれた事で、彼の狂気性が徐々に露わになって行くのである。
イ・ビョンホンはどんな役を演じても素晴らしい俳優であるが、今作は彼の圧倒的な狂気性を漂わせた演技が炸裂していると思う。-
・ヨンタクは、公務員であったミンソン(パク・ソジュン)を防犯隊長に指名し、危険の多い外部に出掛け、食料を調達し始める。
ー それを、心配そうに見ている妻、ミョンファ(パク・ボヨン)。彼女は唯一、人間の温かい心を最後まで持つ女性として描かれる。彼女は外部の母と息子を部屋に入れ、面倒を見ているのである。-
・だが、ヨンタクは外部の人間を”ゴキブリ”と呼び、匿っていた人達を連帯責任として正座で200回詫びの言葉を唱えさせるのである。
ー ヨンタクの狂気性と、彼に同調していく「皇宮アパート」の住民たちの姿は、軍国主義が形成される過程を見ているようである。
そして、婦人会会長やヨンタクの排他的思想、行動に違和感を感じ、外部の人間を匿っていた男は、そんな彼らに抗議するようにアパートから身を投げるのである。-
■場面は、一転して大震災前の「皇宮アパート」に血走った目で車を走らせるセボムという男(イ・ビョンホン)の姿が描かれる。
そして、彼は902号室に住む”ヨンタク”に”金を返せ。詐欺師!”と言って激しい乱闘になる。”ヨンタク”は不動産詐欺師であり、セボムはその被害者であった事が分かるシーンである。
・903号室に住んでいた若き女性ヘウォン(パク・ジフ)が奇跡的にアパートに帰って来るシーンから、ヨンタクは徐々に追い詰められて行く。ヘウォンはヨンタクを見ても挨拶もしない。当たり前である。
ー そして、ヘウォンはミョンファのみに、隣室に住んでいた男はヨンタクではないと密かに告げ、二人はヘウォンの部屋からベランダ越しにヨンタクの部屋に忍び込む。寝ていた老女は完全な痴呆状態であったが、部屋の中に在ったガムテープでぐるぐる巻きになっていた冷蔵庫を開ける・・。ウワワワー。ー
■ミョンファが「皇宮アパート」の住民の前で、殺された”ヨンタク”の身分証を見せるシーンも恐ろしい。
ヨンタクはあろうことか”このアマ!”と言ってヘウォンを深い亀裂の中に投げ込むのである。
統率が取れなくなった「皇宮アパート」の住民たちに襲い掛かる外部の人間達。
彼らは血だらけになり902号室に逃げ込んだヨンタクの脇を土足で歩き、物資を漁るのである。
ヨンタク=セボムは部屋に飾ってあった妻と娘と自分が幸せそうに写っている写真を見ながら事切れる。
ー ヨンタク=セボムも、”妻と娘と夢のマイホーム”を失った、哀しき男である事が分かるシーンである。ー
・そして、「皇宮アパート」を追い出された腹部を負傷したミンソンとミョンファ。二人は廃墟で夜を明かすが、日が昇った時にはミンソンは冷たくなっている。その姿を見たミョンファの目から落ちる一粒の涙。
ー 本来は、公務員として真面目に働き、妻を愛する男が、同調圧力により取った行動故の哀しき因果応報である。-
<ラストは、唯一心が慰められるシーンで終わる。一人になったミョンファは見知らぬ女性達と比較的損傷の少ない建物に入る。そして、そこで暮らしていた女性は、彼女達を拒否する訳ではなく、ミョンファに暖かいおむすびを差し出すのである。”温かいうちに食べて。”と言う優しい言葉と共に。
今作は、有事の際にこそ人間の善性を保ち行動する事の大切さを逆説的に描いた作品ではないかと、私は思ったのである。>
もっと人間の嫌な面ばかり見せられる胸糞の悪い終わり方をするのかと思っていました。観終わって直ぐは、韓国映画にしては物足りないような気がしましたが、一日経ってみるとあのラスト、生きている人は誰だって住んでいいんだとおむすびを分けてもらう終わり方が胸に沁みてきました。
今だからこそ観るべき作品だと思います。