「自分と「違う」ということをどこまで受け入れられるのか」隣人X 疑惑の彼女 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
自分と「違う」ということをどこまで受け入れられるのか
観たのはだいぶ前で、映画を観てから原作もあることを知った。他の人も書いていたが、タイトルからしてバリバリのSFサスペンスだと思っていたのだが、どちらかと言えばSFヒューマンドラマに近い内容だった。
宇宙難民であるXは、人類に同化していて見た目では全く分からず、性質的にも人類とそんなに違うとは思えない。アメリカは早々に難民Xの受け入れを表明し、それに追従するような格好で日本も難民Xの受け入れを決める。
この「アメリカに追従する」というところが結構重要だと思う。何しろ、国民に納得感がまるで無い。しかし我らが日本国民は基本的に「お上が決めたことは嫌々でも守る」という、何よりも常識と礼節を重んじる民なので、その捌け口が「Xのあぶり出し」という受け入れるけど差別するという行動に繋がっていくのだ。
「オレ、自分でも知らなかったけどXだったわ」とSNSで公開しちゃうアメリカ国民とはちょっと違うのである。
Xは見た目にはXだと分からない。Xだからクサいとか、Xだから非常識とか、Xはゲテモノを食べるとか、そういう違いなんて全く無いのに、躍起になってXを探す姿は滑稽でもある。
まぁ、Xと知らずに結婚したら子どもはXハーフなわけだから、そのうち人類はXだらけになるわけだし、何やら特殊な能力があるらしいことも後々発覚するので、人類存亡という意味では由々しき事態かもしれない。
でも一般生活に支障があるのか?と問われれば答えはノーだ。
結局のところ「自分とどれだけ分かり合えないか」しか他者との距離は測れないのに、理解以前の部分で他人を判断したがるのは単純に楽をしたいだけ。
特に不満は無いけど、これと言ってとても良いシーンも無く、面白く観られたけど印象の薄い映画であることは否めない。設定はインパクト有るのに…。
上野樹里の出演作を観ること自体が久しぶりで、映画だと「サマータイムマシ・ブルース」以来、個人的には10年以上観て無かったことになる。
「なんか久しぶりだなぁ」と思いながら観ていたことの方が印象深いくらいだ。
原作では良子とリンのバイト先でのちょっとしたやり取りみたいな日常パートの中で、彼女たちの心情を繊細に掘り下げているようなので、X探しよりも各人物を掘り下げる方向に作ったほうが深みがあって良かったんじゃないかと思う。