「声なき声を聴くとは?」52ヘルツのクジラたち TSさんの映画レビュー(感想・評価)
声なき声を聴くとは?
本屋大賞は、自分のなかでは、数ある文芸賞の中でもその評価の納得性が高い賞。この作品も知っていたが、重いテーマを扱っているらしいということで、読むことを避けていた。感動した小説の映画化作品を観てガッカリした経験が何度もあるので、映画を先に、と決心して観た次第(2024年映画館鑑賞8作目)。
虐待、育児放棄、介護、トランスジェンダー、DV、自傷行為・・・。現代的な重い問題の数々が2時間ちょっとの時間に盛り込まれている。しかし、それほど重苦しく感じないのは、個々の問題を深く掘り下げていないというだけではなく、こうした問題を扱うニュースに慣れてしまって感度が鈍くなっているせいなのか。もはや、私自身も(恐らく大多数の日本人も)当事者達の叫び声を「聴きとる耳」を持っていないのかもしれない。
貴瑚(杉咲花)の「声」を聴き、救った安吾(志尊淳)。ムシ(愛)(桑名桃李)の「声」を聴きたいと言った貴瑚。それぞれ傷を抱えた者どうしだから、その姿を見て、わかり合いたい、救いたいと思ったのだろうか?
傷ついた者同士しか、声なき声を聴くことはできないのか?そんなことを考えてしまった。
杉咲花の演技はさすがで、表情と眼に引き込まれ、彼女が泣くと涙腺が緩む。この難しいテーマの映画を最後まで破綻なく支えているのは、紛れもなく、彼女の演技力だと思う。
原作小説を読んでみよう。
確かに、認知度が高まったことは事実だけど、じゃあ、個別具体的にはどう向き合うのか。
そういうことをなるべく多くの人が自分の頭で考えることができる世の中であって欲しいと思います。
レビューを書くのも、自分の頭を整理するためのひとつの方法。そして他の方のレビューで違う考え方にも触れる。
そういうことの積み重ねによって、いつか社会的寛容性が身につく。
そうなることを祈るばかりです。