「52ヘルツのクジラ同士は互いの歌が聴こえるのか…、と考えてしまう一作」52ヘルツのクジラたち yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
52ヘルツのクジラ同士は互いの歌が聴こえるのか…、と考えてしまう一作
同名小説を未読のまま鑑賞した観客による感想です。『市子』(2023)で素晴らしい、というかすさまじい演技を見せた杉咲花が、本作でも圧倒的な存在感を放っています。
登場人物の心情を反映したような映像が強く印象に残ります。暗く沈んだ心を表すような、青味の強い映像、あるいは夜明け前の鮮やかな空を背景に、シルエットで浮かび上がる登場人物など、一つ一つの映像が入念な計算と意図に基づいていることが画面から伝わってきます。かつてのテレンス・マリックや、最近のトレイ・エドワード・シュルツを連想するような画調ですね。
作中に明らかになる様々な事実は、それ自体物語を解き明かすうえで重要な意味を持っているため、ここで内容について具体的に触れる訳にはいかないのですが、冒頭で登場人物の一人が語っているように、「家族」そのものが苦しみの要因となっている人々の物語、ということはできると思います。
その縛りを解き放とうともがく姿、あるいは逃れようにもどうすることもできず苦しむ彼らの心を代弁するのが、「52ヘルツで歌うクジラ」です。52ヘルツの歌を歌うクジラは孤独かもしれないが、同じ波長で歌う者同士は互いの存在を分かり合えるかもしれない、そんな希望も垣間見ることができました。
結末にはある種の爽快感があるものの、上映時間の都合なのか、「苦しみの元凶となってしまった人々」の背景についてはそこまで掘り下げてなかった点が少し心残りでした。この辺りは原作小説には描写があるのかな?と、むしろ原作を読みたい気持ちが強まりました。
本作で杉咲花が演じた貴瑚の役どころが、塚本晋也監督の『ほかげ』の主人公とちょっと似てて、「あれ、『ほかげ』の主演って、杉咲花だっけ?(実際の主演は趣里)」という雑念が終始付きまとってたのが、個人的に残念なところ!