劇場公開日 2025年9月12日 PROMOTION

Dear Stranger ディア・ストレンジャー : 特集

2025年9月8日更新

4歳の息子が誘拐された。しかし誘拐犯が死体で見つかっ
た。一体、誰が? 警察はなんと息子に疑いを向ける…
やがて夫婦の“暴いてはいけない秘密”が浮かび上がる
衝撃と緊迫感に満ちた“極限のヒューマンサスペンス”

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4歳の息子を誘拐した男が死体で見つかった。警察がその犯人として疑ったのは、なんと息子だった――。



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そんな想像を絶する出来事に遭遇した夫婦が、封印していたはずの“秘密”と向き合い、激しく揺らいでいくさまを描く「Dear Stranger ディア・ストレンジャー」が、9月12日から公開される。

随所に張り巡らされた伏線の数々に“考察心”がくすぐられる極上のヒューマンサスペンス。夫婦の辿る結末は、静かに、しかし確実に心の深い部分に入り込み、ずっと抜けない棘のように心に突き刺さる。

この記事では、考察・解説を交えたレビューを通して、本作の魅力をじっくりと紐解いていく。


【予告編】愛が、試される。

【没頭の連続】息子が誘拐、犯人が死体で発見、夫婦
の秘密…衝撃に満ちた“極限のヒューマンサスペンス”

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ショッキングな設定以外にも、俳優陣の演技、スタッフなど、語りたくなる要素が非常に多い作品だ。


[ストーリーが極限]
主人公は、ニューヨークで暮らす夫婦。ある日、予想だにしない事件に巻き込まれて…夫婦にじわじわと忍び寄る破綻へのカウントダウン
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ニューヨーク・ブルックリンで暮らす日本人の賢治(西島秀俊)と、アジア系アメリカ人の妻ジェーン(グイ・ルンメイ)は、仕事や育児と日常に追われ、余裕のない日々を過ごしていた。そんなある日、4歳の息子が誘拐される。

ネタバレではない(物語の本質はそこではないからだ)のであえて言うが、息子は生きて帰ってくる。そして、この映画はここからがすごい

なんと誘拐犯が死体で見つかるのだ。しかも発見時、一緒にいた息子は血だらけだった。一体なにがあったのか?

警察は、“状況証拠がそう示している”として、あろうことか息子に疑いの目を向けはじめる。喜びも束の間、意外かつ強烈なストレスにさらされ、夫婦の関係が変化して……。

お互い“秘密”を封印することでなんとか保っていた夫婦関係は、この誘拐事件をきっかけにどんどん破滅へと向かっていく。


[俳優&スタッフが極限]
「ドライブ・マイ・カー」西島秀俊×「ディストラクション・ベイビーズ」真利子哲也 日本映画でもハリウッド映画でもない、独特の手触りの映画が誕生
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脚本・監督を手掛けたのは「ディストラクション・ベイビーズ」「宮本から君へ」の真利子哲也、主演に西島秀俊、そして共演にグイ・ルンメイ。

西島と言えば「ドライブ・マイ・カー」をはじめ数々の作品で評価され、今後はA24の新作「Enemies(原題)」やニコラス・ウィンディング・レフン監督の新作「Her Private Hell(原題)」など国際的な活躍が続き、今回はセリフの9割が英語。真利子監督と初のタッグを組み、全編ニューヨークロケが行われた。

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日本、台湾、アメリカの合作となるが、そのルックや作風を一言で表現すれば、とてつもなくいい意味で「日本っぽくも台湾っぽくもハリウッドっぽくもない」

これまでの真利子監督の作品は肉体のぶつかり合い的なイメージが強かったが、本作では精神のぶつかり合いをより深く描いており、今までとはまた違った手法で“得体の知れない感”が漂う唯一無二の映画を誕生させた。


[展開が極限]
リアル過ぎて心が痛い… 夫婦の秘密が明らかになった時、どんな結末が待っている? やばいくらいの緊張感を浴び続ける、唯一無二の映画体験
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夫婦がすれ違い、崩壊していくさまはかなりリアルで、痛いくらいの緊張感も最後まで途切れない。むしろ、この不穏な空気や散りばめられた違和感(詳細はレビューで後述)の効果もあり、ストーリーが進むにつれ、前のめりになって鑑賞していく。

衝撃の結末は人によって感じ方はさまざま。重さを受け止める人や、なかには不思議と爽快感があるという人もいるので、あなたがどう感じるかは劇場で確かめてほしい。


【解説・考察レビュー】人形、廃墟、バベルの塔の意味
とは…本作を深く知れば知るほど、強烈に観たくなる。

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本作が持つもうひとつの特徴──それは映画ファンが強烈に惹きつけられてしまう、劇中に仕込まれた様々なメタファーやテーマである。

ここからは、本作に隠されたモチーフや重要なアイテムについて、レビューを通して考察していく。レビューをするのは、映画.com編集部スタッフと映画批評家の児玉美月氏。

鑑賞前の人も、鑑賞後の人も、この解説・考察を読めばより作品を楽しめるはずだ。


【考察レビュー①】映画.com編集部
“唯一無二の鑑賞感覚”と、“夫婦関係を考えさせるテーマ”が、観客の心を鷲掴みにする
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・本作、実は4Dばりの体感映画では…!? 「観客を映画館にいながらにして移民にする」ギミックに仰天
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本作は実のところ、“体感型映画”の側面を強く感じました(個人的には、まるで4Dばりの体感でした)。というのも、この物語は西島秀俊とグイ・ルンメイが扮する夫婦を通じて、筆者に「移民として生きることはどういうことか?」を味わわせてくれたからです。

賢治が暮らすのは、第2次トランプ政権前後と思しきニューヨーク。劇中では移民にとっては混沌状態とも言えるアメリカ社会で、日本人が暮らすシビアさも描出されており、私たち日本で暮らす日本人にはすぐに理解できないほど、常に不安と恐怖を抱えながら暮らしていることが示唆されています。

そうした賢治の視点で紡がれる“移民的困難”に加え、さらにはジェーンのようにアジア系アメリカ人だとしても居場所がないように感じている描写が、鑑賞する私たち自身にも息苦しさや孤独を追体験させ、これが現実に起こっていることとして重くのしかかってきます。

やがて本作の“体感型映画”としての優れたテーマ性が、魅力的に立ち上ってくるのです。日本の観客に映画館にいながらにして、「移民の孤独」を体感させる物語……本編を観たこの“唯一無二の感覚”、ひたすらに仰天させられたので、ぜひ味わってほしいです……!


・“いつまでも変わらない夫婦の愛”を信じる人が観ると…楽しさ倍増? 夫婦は一番近い“他人”なんですよ…
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夫婦関係についての“気づき”を与えてくれる点でも、本作は優れたメッセージを鑑賞者に送り届けてくれます。

鑑賞前の私は、夫婦生活にこんな持論がありました。夫婦はなんでも共有し合うべき!

しかし劇中では“過去に秘密を抱えた夫婦”がキーポイントとなります。その姿からは「夫婦といえども他人」「お互い踏み込まないようにしている“秘密”があるからこそ、ギリギリのところで保たれている平和がある」というテーマをひしひしと感じ、 「なんでも共有し合うべき」という持論が“必ずしも正しいとは言えない”という思いになりました。

変わらない夫婦の愛にどこか夢を見ていたような私にはかなりシビアで、痛くて、切なくて。新婚の今は考えたこともなかった夫婦の現実を目の前に突き付けられて、だからこそ忘れてはいけない映画体験として深く刻まれました。

「Dear Stranger ディア・ストレンジャー」。もう一度観ます、今度は絶対に夫と一緒に。そうして他人との意見交換を経て膨らんでいく映画体験も、本作の醍醐味のひとつだと思いますので、ぜひ皆様も“大切な誰か”と観てみてください――。


【考察レビュー②】映画批評家・児玉美月
謎めいたモチーフを読み解けば読み解くほど、物語が巧みに深化し、より興味深くなっていく――
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・ここをおさえて観てほしい…「廃墟」と「人形劇」と「バベルの塔」。廃墟と人形劇は“現実逃避”“夫婦の共通点を象徴し、バベルの塔は“言語が分断された社会の混乱”を意味する
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夫が探求する廃墟、妻が情熱を注ぐする人形劇──「Dear Stranger ディア・ストレンジャー」の核となる主要なモチーフは、まずはこのふたつだといえる。

映画の序盤、廃墟を専門とする建築学者である賢治は言語の違いによって人間を分断した「バベルの塔」を引き合いに出しつつ、廃墟は「神の仕業」なのだと講義する。現実に耐えかねたときによく訪れるのだという廃墟という場は、賢治にひとときの現実逃避をもたらす。

一方、人形師であるジェーンはまだ4歳の子供の育児と家事に追われながらも仕事との両立を望み、子供と一緒にいるべきだという価値観を持つ母親や自分の仕事で精一杯の賢治の狭間で葛藤を抱えていた。

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賢治に対して日頃から言葉を飲み込んでいることが伝わるやり取りに続けて、ひとり書斎で人形劇に興じるジェーンの場面がそこに繋がれる。その官能的かつ荒々しくもある雰囲気を醸す人形劇は、ジェーンにとって鬱屈とした感情の秘めたる吐け口となっているように見えるだけでなく、賢治が廃墟の研究に没頭するように、ジェーンも人形劇という“自分と向き合う感受性”を大事にするからこそ、この二人が夫婦として結ばれたことをも示唆する。

冒頭で言及されるバベルの塔は、本作が「言語が分断された社会での混乱を描く」ことを観客に説明(ゆえに“言語と混乱”を意識して本編を観ることをおすすめしたい)し、加えてディスコミュニケーションの状態に陥っているこの夫婦を象徴する記号ともなっている。アジア系アメリカ人のジェーンと日本人の賢治は異国の地で英語を話しながら生活しているが、ふたりが口論になったときにジェーンは、「この言語だって私たちのものじゃない」とふと漏らす。母国語ではない言語に翻弄されてしまう彼ら自身、よもや言葉の傀儡といえるかもしれない。


・“巨大な人形”にも注意を払うと、物語がまた変化。人形は妻ジェーンにとって「もう1人の自分」…夫がそれに触れようとした瞬間、どうなった?
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さらにジェーンが自らの「分身」として大切にする巨大な人形は、男性のように造形されている。

母親でもある自分と折り合いをつけようともがくジェーンにとって、別の性である人形を纏って舞台に立つ時間だけはそうして社会から背負わされてしまうジェンダー・ロールからも束の間解放される。

その意味でこの人形はただの人形以上の意味を含み込む、決して手放せないもうひとりの自分なのだろう。その幻影が目の前に現れ、手を伸ばした途端に消えてしまう賢治にとっては、それは掴めないジェーンの本質のようなものかもしれない。

「Dear Stranger」はこうしてさまざまな謎めいたモチーフを随所に鏤めながら、巧みに物語を深化させていく。


・最後に:愛が持つ“心理的な暴力性”を明らかにした秀逸作。夫・賢治の「美しく恐ろしい運命」は、一体、何について言っているのか?
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真利子哲也は、「暴力」を主題とする映画作家だといわれるが、性暴力の被害に遭った恋人の復讐を果たすため喧嘩に乗り出す「宮本から君へ」(2019)では、暴力とともに、主人公が父親になるまでの心の過程も描かれた。本作でも、父である賢治が誘拐事件をきっかけに“父とは何か”と葛藤し、苦しみ、やがて自身の“父親像”を見つけることも興味深い点である。

「Dear Stranger ディア・ストレンジャー」の「暴力」を抽出しようとしたとき、そこに前景化するのはこれまでの長編映画において過剰なまでに横溢していたフィジカルな暴力というよりも、愛がつねに内包してしまう心理的な暴力性のほうなのではないか。

賢治は廃墟とは「朽ち果てた美しさ」であり、「美しく恐ろしい運命」なのだと語る。それは廃墟のことをいっているようでその実、愛のことをいっているようにも聞こえてくるのだ。


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