恋愛も性も完全にない世界はユートピアか、それとも――蒔田彩珠×村田沙耶香「消滅世界」予告
2025年10月10日 06:00

蒔田彩珠主演で、芥川賞作家・村田沙耶香氏の小説を初めて実写映画化する「消滅世界」の予告編(https://youtu.be/CN_7PZ6Dyno)とメインビジュアルがお披露目。映像には、夫婦間の性行為はタブーであり、生殖は人工授精となっている世界が切り取られている。
原作は、今春、英語版が刊行され、米ニューヨーカー誌でも映画化が報じられるなど、世界的な注目を浴びる同名長編小説。超少子化の先――「性」が消えゆく世界で激動する「恋愛」「結婚」「家族」の在り方に翻ろうされる若者たちを描き出す。映画化にあたり、国内外のアーティストのライブやミュージックビデオ、CM、ショートフィルム、大河ドラマのドキュメンタリーなど多岐にわたるフィールドで活躍する映像ディレクター・川村誠が、初監督・初脚本を手がけた。
本作は、結婚生活に性愛が入ることを禁じられた世界で、愛し合った夫婦から生まれた少女が、自分の周りにある“普通”と自分から湧き出る欲情に向き合っていく物語。予告編では、見る者の「正常」を試すような世界設定と物語、性が消えつつある日本の衝撃的未来が鮮烈なビジュアルで提示され、アニメーション作家・Wabokuがデザインした、ストーリーを牽引するアニメキャラクターの造形や、注目のバンド「D.A.N.」による書き下ろし主題歌「Perfect Blue」も披露されている。
舞台は、人工授精で子どもを産むことが定着した近未来の日本。夫婦間の性行為はタブーとされ、恋や性愛の対象は“家庭の外”の恋人か、二次元キャラが常識になっており、“両親が愛し合った末”に生まれた子は異常とされる世界だった。主人公・雨音(蒔田)は、「お前、人工授精じゃないの? 気持ち悪い」と学校でいじめられ、母親・雫(霧島れいか)に嫌悪を抱いていた。
雨音の性愛の対象は、二次元キャラのラピス。雨音は、自分がラピスに恋をしていると実感するとき、「自分は母とは違うのだ、周囲と同じく正常だ」と、喜びを感じていた。やがて、ラピスを同じく愛する同級生・水内(結木滉星)と特異な性関係をもつようになる雨音は、水内との身体のつながりに心が満たされていく。
大人に成長した雨音は、性愛を持ち込まない清潔な結婚生活を望み、夫以外の男性やキャラクターと恋愛を重ねていた。“普通”であるはずの夫(清水尚弥)と結婚したものの、その夫は「身体が反応してしまって……」と、“妻”である雨音に性行為を求めるが、それは“近親相姦”と非難される行為だった。夫が許せなかった雨音は離婚を選択し、間もなく、元夫とは正反対の朔(栁俊太郎)と出会う。朔は、雨音との結婚を意識しながらも、ほかの恋人がいる。雫は、そんないまの世界の常識を「あぁ嫌だ。汚らわしい。ちゃんと愛し合って子どもを作りなさい」と叱責するが、雨音は朔と結婚する。
映像には、住民全員で計画的に人工授精、出産、管理を行い、ともに子育てをする実験都市「エデン」の様相も活写。雨音と朔にとってまさに“理想の楽園”である、恋愛も性も完全にない世界に、ふたりは居を移す。朔から「ふたりの遺伝子を受け継いだ健全な子を産むんです。もちろん人工授精で」と持ちかけられた雨音は「朔くんとの子なら作りたい」と同意するが、その人工授精による妊娠が、ふたりの関係を狂わせていく。果たしてエデンは、本当にユートピアなのか、ディストピアなのか――不穏な空気のまま、映像は幕を閉じる。
本ビジュアルは、住民全員が着衣している白い装束をまとった雨音と朔が、エデンの無機的な空間のなかで無表情に佇む姿を活写。キャッチコピーである「あなたの正常が試される」が視覚化されたビジュアルは、本作が、見る者の判断そのものが問われる物語であることを暗示している。

予告編にも登場する、雨音が恋をするアニメキャラの少年・ラピスのデザインを手がけたのは、「ずっと真夜中でいいのに。」や、Eve、ポーター・ロビンソンなど数々のミュージックビデオで知られるWaboku。本作の映像世界と、Wabokuが描くキャラクターが高い親和性を示し、物語の中核のひとつである“二次元の恋”にリアリティを与えている。自身の作品について「共通するキーワードは“退廃”と“寂しさ”」と語るWabokuと、「その退廃的な世界観が本作に非常に合う気がした」と明かす川村監督がタッグを組んだ。
「消滅世界」は11月28日に公開される。Waboku、川村監督のコメントは、以下の通り。
この世界のアニメキャラが持つ存在感は、言うまでもなく現実のアニメよりも大きいです。
空想の産物である彼らと、フィクション越しでしか関わる事ができない私たち。その壁が取っ払われたとき、果たしてどんな関係性に変わるのか、お互いがどう見え始めるのか。デザインに取り掛かる前に、宙を見つめて小一時間思案していた記憶があります。
「キャラひとり生み出すなら、本来それくらい考えなきゃダメ。」と諭されている気がして猛省もしました。
そんな気持ちで描き上げたラピス。普通のアニメキャラにはない奥行きが少しでも生まれ、誰かの心に届く事を願っています。
Wabokuさんの退廃的で独特な作風・世界観に「消滅世界」との親和性を感じ、主人公が愛するキャラクター・ラピスのデザインをお願いしましたが、作品のコンセプト、物語に強く共感いただいて作画いただけたことが何よりの喜びです。
次第に漂白されていく人間の世界とは裏腹に色彩が失われた世界で色を取り戻していくラピスの造形は、主人公の葛藤と希望を象徴するものとなりました。
Wabokuさんによる劇中アニメイメージともう一人の主人公ラピスが作品を牽引してくれているので、是非劇場の大スクリーンでご覧いただきたいです。
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