コラム:どうなってるの?中国映画市場 - 第26回

2020年12月28日更新

どうなってるの?中国映画市場

北米と肩を並べるほどの産業規模となった中国映画市場。注目作が公開されるたび、驚天動地の興行収入をたたき出していますが、皆さんはその実態をしっかりと把握しているでしょうか? 中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数279万人を有する映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さんに、同市場の“リアル”を聞いていきます!


第26回:今際の国のアリス、チェリまほ、MIU404――2020年、中国で注目された日本発ドラマを教えます

「今際の国のアリス」香港版ポスター
「今際の国のアリス」香港版ポスター

2020年、映画・ドラマ業界は新型コロナウイルス感染拡大の影響によって多大な影響を受けました。しかし、テレワーク・リモートワーク、在宅での自粛期間が増えたことで、映像コンテンツに触れる機会も多くなったはずです。日本国内では、上半期に韓国ドラマ「愛の不時着」によって再び韓流ブームが起こりました。また、中国国内では、2021年1月にWOWOWで放送される「バッド・キッズ 隠秘之罪」をはじめとした社会派サスペンスドラマが立て続けにヒットし、社会現象を巻き起こしたんです。

そんな中、日本のドラマが中国本土で大きな話題を呼んでいます。当コラムの第21回「『半沢直樹』『坂の途中の家』『ポルノグラファー』日本発ドラマに秘められた世界進出の可能性」では、中国における日本ドラマの鑑賞方法や人気作品を紹介させていただきました。今回は、ソーシャル・カルチャー・サイト「Douban」のデータベースに基づいて、2020年に中国で話題となった“日本発ドラマ”を語らせていただきます!


▼「今際の国のアリス」

「今際の国のアリス」香港版ポスター
「今際の国のアリス」香港版ポスター

Netflixオリジナルシリーズ「今際の国のアリス」は、約40の国と地域で総合TOP10入りを果たし、早くもシーズン2の制作が決まっています。中国ではNetflixを視聴することはできませんが、全世界配信日(12月10日)とほぼ同タイミングで海賊版が流出。元々Netflix自体に「中国字幕版」が存在していたため、今回は“字幕組”が翻訳する必要はありませんでした。

配信開始から2週間が経過すると、「Douban」では約4万人弱のユーザーが“見た”をチェック。点数は、8.1(10点満点)の高評価。「Netflixのオリジナル作品」という点が功を奏し、日本のコンテンツファン以外の人々にも注目されていたようです。

中国の映画ライターは「年末にこんな日本ドラマが出て来るとは思ってもいなかった。これまでの日本産ドラマと全く異なっている。これからの日本ドラマの可能性を感じました。さすが世界のNetflix!」と絶賛。一般ユーザーからは「『クイーンズ・ギャンビット』と同じぐらいの爽快感! 最高の作品!」「日本のドラマにも、こんなに面白いものがあるんだ! “げぇむ”の続きが気になります」「日本ドラマには『説教臭い内容』『中二病の主人公』がなくなりましたよね。これこそエンターテインメントですよ!」という声も。

鑑賞した人々は、作品の内容、演出について感想を出し合ったり、ディスカッションを重ねています。「今際の国のアリス」をきっかけに、日本ドラマが“さらなる進化”を遂げることを期待しています!


▼「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」

「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」
「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」

2020年、中国で最も注目された日本のドラマは何か――おそらく、多くの方々は「半沢直樹」(新シリーズ)と答えるかもしれません。しかし、この作品の存在も見逃してはいけません。テレビ東京の深夜ドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(通称:チェリまほ)が、爆発的に流行ったんです。

当コラムの第21回でも言及していますが、中国では「男性同士の恋愛」「性的内容」を題材にしたドラマを制作することができません。そのため、中国の人々は同様のテーマを扱った海外ドラマをチェックし続けていて(海賊版を通じてですが…)、日本の深夜ドラマも度々話題にあがっているんです。「Douban」のデータによれば、「チェリまほ」を“見た”にチェックしたユーザーは10万人を突破。なんと9.1という超高得点を叩き出しています。

作品のクオリティが評価されることは言うまでもなく、キャストの赤楚衛二町田啓太の知名度が中国で急上昇しています。11月28日に発売された赤楚衛二の写真集「A」は、中国国内でも早い段階で注目されていました。その結果、日本在住の中国人転売ヤーが早速動き始めるという事態に……。町田啓太は「チェリまほ」だけでなく「今際の国のアリス」にも出演しているので、既に中国国内では“超人気俳優”と言ってもいいでしょう。

「チェリまほ」以外に目を向けると、第21回のコラムでも紹介した「来世ではちゃんとします」、ABEMA SPECIALで配信されたドラマ「17.3 about a sex」もヒットとなりました。特に「17.3 about a sex」は「Douban」の点数が9.2。中国国内の性教育に不満を持っているユーザーが「『17.3 about a sex』は、もはや教科書だ! 中国の若者は全員見るべきです」という感想を投稿しています。

厳しい検閲の関係上「制作できない物語」が多く存在している中国。この状況が続く限り、“中国で大ヒット”となる日本の深夜ドラマが再び出てくるでしょう。


▼「半沢直樹」(2020年版)

「半沢直樹」(ビリビリ動画版ビジュアル)
「半沢直樹」(ビリビリ動画版ビジュアル)

「半沢直樹」シリーズの新作は、アジア中で最も期待されていたドラマのひとつです。新型コロナウイルスの影響によって放送延期になったとしても、注目度はまったく変わっていませんでした。

11月5日からは、ビリビリ動画で中国独占配信をスタート。ですが、配信開始前、既に多くの人々が海賊版を鑑賞していたんです。「Douban」の点数は、2020年度における日本ドラマの最高得点9.4。日本ドラマという枠に留まらず、世界中で放送・配信されたドラマの中でも“今年の一本”として幅広く支持を集めています。

ちなみに、日本国内で話題になった「三菱UFJ銀行の頭取に“半沢”淳一氏」というニュース、中国でも大々的に報道されていましたよ。「半沢直樹」、原作・池井戸潤のTBSドラマは、既にブランドとして確立しました。日本以外のファンも“池井戸ユニバース”がどうなっていくのか、大きな関心を寄せているんです。


▼「MIU404」

「MIU404」(ビリビリ動画版ビジュアル)
「MIU404」(ビリビリ動画版ビジュアル)

2018年に放送された「アンナチュラル」は、中国でも社会現象となり、「Douban」の点数は9.4。“見た”をチェックしている人は、48万人を超えています。「逃げるは恥だが役に立つ」「重版出来!」放送時、脚本家・野木亜紀子の名前は既に知られていましたが、“オリジナル脚本”だった「アンナチュラル」で知名度は一気に急上昇。だからこそ「アンナチュラル」の主要スタッフが再結集し、同作とつながりのある世界感で制作された「MIU404」は、放送前からかなり期待されていました。

現在は、ビリビリ動画で独占配信中。「アンナチュラル」ほどの社会現象にはなっていませんが、全体的な評価はとても高く「Douban」のスコアは8.7。“見た”人は、既に約2万人です。また「アンナチュラル」のキャラクターが登場したことで“野木ユニバース”という言葉も誕生しました。

非常に評価されている部分は、社会問題に関する描写です。中国のドラマ評論家は「社会派作品の少ない日本ドラマのなかで、こんなドラマが出てきたのは非常に嬉しかったです。『政治』『宗教』『在日外国人』――実際、日本の社会問題は多い。なぜ、漫画原作ばかり撮っているのでしょう。だからこそ、野木亜紀子先生は本当に偉大です」と語っていました。


▼「恋はつづくよどこまでも」

「恋はつづくよどこまでも」(ビリビリ動画版ビジュアル)
「恋はつづくよどこまでも」(ビリビリ動画版ビジュアル)

日本のキラキラ青春映画・ドラマは、中国では既に賞味期限が過ぎていて、多くの人々が“少女漫画の実写化”に抵抗感を示しています。ですが、2020年1月に放送された「恋はつづくよどこまでも」は、注目の的になっていました。

ビリビリ動画で中国独占配信中の本作は、ストーリーは従来の少女漫画とそれほど変わりません。ですが「これこそ、少女漫画の真髄!」「佐藤健が格好いいので、ストーリーは脇役でいい」「冬にぴったりのドラマ。暖かいラブコメ! 佐藤健だから成立するかな。萌音ちゃんも超かわいい!」という好意的なコメントであふれていました。

一方、中国のドラマ評論家が評価したのは、演出面でした。

「少女漫画の実写化は、最早内容はあまり関係ない。“見た人の乙女心を甦らせる”ことができたら、成功だと言えるでしょう。そういう意味では、本作の演出は非常によかった!」

「なぜ本作の佐藤健はどんどん格好良くなっていくのか…。なぜ上白石萌音の可愛さは、毎話レベルアップしていくのか…。ここには、監督の実力が反映されているに違いない」

配信全盛期に入った2020年。どんな場所にいても、世界中のドラマを見ることができるようになりました。これからは、映像業界の勢力図も変わっていくはず。日本ドラマも含め“新時代の作品”の登場に期待しています。

筆者紹介

徐昊辰のコラム

徐昊辰(じょ・こうしん)。1988年中国・上海生まれ。07年来日、立命館大学卒業。08年より中国の映画専門誌「看電影」「電影世界」、ポータルサイト「SINA」「SOHA」で日本映画の批評と産業分析、16年には北京電影学院に論文「ゼロ年代の日本映画~平穏な変革」を発表。11年以降、東京国際映画祭などで是枝裕和、黒沢清、役所広司、川村元気などの日本の映画人を取材。中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数は280万人。日本映画プロフェッショナル大賞選考委員、微博公認・映画ライター&年間大賞選考委員、WEB番組「活弁シネマ倶楽部」の企画・プロデューサーを務める。

Twitter:@xxhhcc

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