コラム:(大人向け)タイトルが気になる昭和のお色気映画 - 第4回
2021年8月30日更新
これまで本コラムでは配信で楽しめる作品をご紹介してきましたが、今回はリアルな劇場で鑑賞した番外編をお届けします。
※紹介する作品はすべてR15+もしくはR18+指定で、今日の観点からすると不適切な表現も含まれます。紹介作品をご鑑賞の際は、その旨ご理解ください。
<第4回>(番外編)成人映画館初体験の東大生と「ふるさとポルノ記 津軽シコシコ節」を見る/(1974/R18+/日活/白井伸明監督)
時は今年の5月某日。映画館への営業自粛要請が出され、大手シネコンと同様に休館したミニシアターも多数ありました。そんな状況の中でも、営業している劇場には足を運びたいなあと、SNSをチェックしていて見つけたのがこの作品、日活ロマンポルノ「ふるさとポルノ記 津軽シコシコ節」(1974/白井伸明監督)です。仕事柄、毎年数百本単位の映画タイトルに接していますが、これは一度目にしたら忘れられない強烈なインパクトです。5月時点で配信はなし、これは見に行くしかありません。
もう成人式を2度迎えたような世代の筆者にとっても、ひとりで成人映画館に行くのはちょっとハードルが高く、見たい作品がある際は、この手の映画や劇場に興味を持ってくれそうな友人に声をかけます。感染対策を万全にし、今回お付き合いいただいたのは、若い友人のMさん。中高一貫の女子校から東大に現役合格した大学3年生で、映画やアートを愛し、ジェンダー論なども学ぶ才媛です。彼女は今回、成人映画館初体験。令和の若者は昭和のエロスをどのように捉えるのでしょうか? 後ほど感想も聞いてみましょう。それでは、熟女と女子大生による「津軽シコシコ節」ツアーをレポートいたします。
訪れたのは、「シネロマン池袋」。昭和49年(1974年)創業の老舗の成人映画館で、池袋西口の北出口からほど近い場所にあります。上映作品のポスターを眺めながら、地下への階段を降り、券売機でチケット購入。3本立てで女性と学生はサービス料金の1300円(※一般1800円)でした。筆者がこちらを訪れるのは2度目。前回は神代辰巳監督、一昨年話題を集めた「火口のふたり」荒井晴彦さんの脚本、ロックンロール内田裕也さん主演の日活ロマンポルノ「嗚呼!おんなたち 猥歌」(81)を見ました。これがまた傑作だったので、いつかご紹介したいです。ヨロシク!
ロビーには「迷惑行為禁止」と大きく注意書きが貼られています。映画の撮影や録音が法律で禁止されていることは周知の事実ですが、昔から、成人映画館では性描写を多分に含んだ映画が上映されるという場所柄、カップルや互いの合意の下で出会った人たちがフィジカルなコミュニケーションをとることがある、という噂も聞きますよね。そういった体験を間近に求めていない人は、両サイドに物を置いて、ソーシャルディスタンスを取るのが安心です。同館では女性客も歓迎とのことで、入り口のカウンターで申し出れば、ダミーの荷物を貸してもらえます。
さて、お目当ての「ふるさとポルノ記 津軽シコシコ節」。ひらがなと郷愁、地名、外来語、オノマトペという日本語のバリエーションを最大限に生かしており、「みちのくプロレス 花巻ボコボコ戦」「おかあさんビストロ 小千谷コトコト亭」などどんなジャンルにもアレンジ可能、味わい深い良タイトルです。
映画は農閑期の出稼ぎで男性がいなくなった架空の村、佐世路村が舞台。都会で修行を終えたハンサムな若僧侶が帰省し、村の女性陣からモテモテになる……という明るく大らかなエロティックコメディでした。素朴な野の草花を映すオープニング、農作業後に半裸で手ぬぐいで汗を拭いながら談笑するモンペ姿の婦人たちと、まるで絵画のモチーフになりそうな田園描写が美しく、全編牧歌的なムードで物語は進みます。
ジャン・ルノワール、今村昌平作品なども想起させ、古き良き日本の山村へのタイムスリップ気分を味わえる作品です。とりわけ映像的遊び心を交えた狂騒のラストシーンは必見です。こちら、なんと「房総ペコペコ節 おんな万祝」「信州シコシコ節 温泉芸者VSお座敷ストリッパー」というシリーズも展開しています。全作DVDが販売されているので、ご興味がある方はぜひチェックしてみてください。
筆者はこんなコラムを担当していますが、実は直接的な性描写にはさほど執着がなく、人間の欲望の根源とも言われるリビドー(byフロイト)、そしてエロスの概念とそこに付随して生まれるドラマのファンなのです。この日は「シコシコ節」でもうおなか一杯でしたので、Mさんと協議の上、2本目の作品の最初のサービスシーンのみ見届け退出しました。3本立てですが、上映が1本終わるとすぐに扉が開けられ場内が明るくなり、劇場のスタッフさんが座席チェックに入ります。この日の私たち以外の観客は、見たところ男性客が10人前後という感じ。鑑賞中に誰かに声を掛けられたりすることもなく、映画に集中できました。
ここで、Mさんの感想を聞いてみましょう。
――初の成人映画館での鑑賞経験は?
「映画館がオープンでいつでも出入りできる空間だったのは私にとって新しく、気楽な感じでした。ただ客層や映画のラインナップが特殊なので、さすがに普段使いはないかな(笑)。あくまで観光地気分といった感じで楽しみました。成人映画は自由な表現の一つであるとはいえ、性描写が苦手な方もいるので、上映が難しい映画館も少なくないでしょう。このままだと成人映画という存在が忘れられかねません。そのため、こういった劇場は映画を守る機能も果たしているんだなと思いました」
――今回見た作品、また成人映画にどんな感想を持ちましたか?
「大きな盛り上がりや映像美もなく、途中まではちょっとダラダラしてるなあと(笑)。ただ、ラストシーンはまさにお祭りの狂喜乱舞みたいでした。この全体を通したリズムが、耕作とお祭りを繰り返す農村の生活リズムと共通しているかもしれません。ポルノ映画の名のもとに単なるポルノ映像を作るのではなくて、コメディであれ、ヒューマンドラマであれ、人間と風景を映した、物語を持った映画として作られているのは魅力的です。また、成人映画には実験的で自由な表現も多いので、そこは見どころですね」
昨年からコロナ禍の影響で、特にミニシアターは今も厳しい状況が続いています。成人映画館も日本の映画文化を支える施設のひとつとして、存続を願うばかりです。エロティックな要素を含んだ作品を自宅で個人で鑑賞するのが当たり前となった今、あえて他者と場を共有するという非日常を体験できる面白さもあります。筆者も、気になる作品が上映される際にはまた訪問したいですし、このような劇場を知らなかった方々にも興味を持っていただけたらいいなと思います。