コラム:第三の革命 立体3D映画の時代 - 第3回

2008年3月31日更新

第三の革命 立体3D映画の時代

第3回:映画館における立体上映システム

立体3D映画と言われると、あの赤と青のセロファンが貼られた眼鏡をかけて鑑賞するもの……と思い浮かべる人も多いかもしれない。では、昨今の映画館で上映される立体映画は、どのようなシステムで上映されるのか? 今回は近年の立体上映システムについて紹介する。

■立体上映という古くて新しい問題

映画館で立体上映を行うには、3D眼鏡の問題が常に付きまとう。小型ディスプレイなどには、裸眼立体用の製品が市場に登場しているが、大型スクリーンにはまだ有効な手段が見つかっていない(ソ連では1940年代に、ステレオキノと呼ばれる裸眼立体式の劇場が作られ、かなり長期に渡って興行を続けていたが、現在は廃れてしまった)。当分の間、眼鏡は必要となるだろう。

1926年当時のアナグリフ方式の眼鏡
1926年当時のアナグリフ方式の眼鏡

これまで映画館に用いられた立体上映方式は、主に3種類あった。まず、「スパイキッズ3-D:ゲームオーバー」や「シャークボーイ&マグマガール3-D」、「超立体映画 ゾンビ3D」(06年)に使用された、古典的な赤青眼鏡によるアナグリフ方式だ。原理の発見は1853年。最初の興行記録は1915年にも遡る。1920年代には小さなブームも起きている。

2つ目は、IMAX(R) 3Dシアターやテーマパークなどで広く用いられているパッシブ・ステレオ(偏光方式)である。これも原理は1891年に考案され、1932年にポラロイド社(※1)を設立したエドウィン・H・ランドによって実用化された。

そして、左右の画像を交互に表示するアクティブ・ステレオ(時分割方式)である。これも原理自体は古くからあり、1922年ハモンド・オルガンの発明者として知られるローレンス・ハモンドによって考案された。実際に一般化したのは、液晶シャッター眼鏡が登場した1980年代に入ってからだった。

※1 社名の由来は、ポラライザー(偏光板)とセルロイドの合成語

■Real D方式の登場

Real D方式で使用する円偏光眼鏡
Real D方式で使用する円偏光眼鏡

しかし最近、新しい立体上映システムが開発され急速に広まりつつある。まず05年末、「チキン・リトル」に採用されたReal D(TM)システムは、パッシブ・ステレオとアクティブ・ステレオを組み合わせた、画期的なものであった。

パッシブ・ステレオにつきものだった首を傾けると左右の像がずれる現象が無く、高コントラスト時に発生するクロストークも抑えており、アクティブ・ステレオで問題となるフリッカ(点滅)も一切感じない。これによって観賞時の疲労度が大幅に軽減された。

現時点で、世界で1100館以上のReal D常設館が営業されている。09年にまでには、4000~6000館もの上映館が生まれると見積もられている。

■ドルビー3D方式

ドルビー3D方式で使用される眼鏡
ドルビー3D方式で使用される眼鏡

米ドルビー研究所は、ダイムラー・クライスラー・リサーチセンターで開発されたInfitecフィルターをモーターで高速回転させ、アクティブ・ステレオと組み合わせる“ドルビー3D方式”を07年に発表した。Infitecフィルターとは、光を6波長に分光し交互に左右に振り分けるものである。

これまでは眼鏡が1つ数~10万円と、とてつもなく高価なことが欠点だったが、ドルビー社は一気に50ドルまで価格を下げ、盗難防止のICタグを付けて確実に回収し、再使用することで実用性を大きく高めた。そして「ベオウルフ/呪われし勇者」公開のタイミングに合わせて、世界80館に導入された。今後はReal D方式の強力なライバルになると考えられる。

■IMAX社の動き

国内では、後述するように閉館が相次いでしまったIMAXの上映館であるが、米国や中国ではIMAX 3D館を中心に増加傾向にある。

日本唯一のIMAX 3Dシアター サントリーミュージアム[天保山]の映写室
日本唯一のIMAX 3Dシアター サントリーミュージアム[天保山]の映写室

実際に「ベオウルフ/呪われし勇者」を例にとると、米国でこの映画は、2Dフィルム、Real D、ドルビー3D、IMAX 3Dの各方式で上映された。だが合計3153スクリーンの内、84スクリーンしかないIMAX 3Dシアターが売り上げ全体の17%(第2週目の数字)を占めていた。しかも売り上げトップ50館の内、45館までがIMAXシアターだった。

IMAX社は、ジャイアント・スクリーン用のIMAX DIGITAL プロジェクション・システムを開発しており、08年中にはリーガル・シネマズやムビコ・シアターズ、そして100カ所のAMCシアターといった米国の劇場に導入が予定されている。その中の多くは、IMAX DIGITAL 3Dプロジェクターとなることが決定しており、すでにドリームワークス・アニメーション社が上映契約を結んでいる。

■韓国の動き

マスターイメージ社の MI-2100システム
マスターイメージ社の MI-2100システム

アメリカに次いで、立体上映システムの普及が盛んなのが韓国である。劇場では、韓国シネコンNo.2のロッテシネマ社が、Real Dシステムを18館に導入している。そしてこれに対抗して、シネコン最大手のCGV社が、2台のデジタル・プロジェクターと直線偏光フィルターを用いたシステムを6館に設置した。同様のシステムは業界No.3のMEGA BOX社も2館に導入している。

この他に、機械的に回転する円偏光フィルターを用いたMI-2100システムが、韓国のMaster Image社で開発され、CGVの劇場6館に導入されている。Real Dに比べて1/3ほどの価格ということで、香港や米国への導入も予定されている。韓国全体では、2009年までに250館がなんらかの立体上映システムを導入すると見積もられている。

■日本の動き

国内では、05~07年にReal Dシステムを4館が導入したが、その後はなかなか増える様子が無かった。その主な理由は、立体コンテンツがまだ少な過ぎることだったが、しかし「ベオウルフ/呪われし勇者」公開と同時に、Real Dが21館、ドルビー3Dが8館と一気に導入が進んだ。その一方で国内のIMAX 3D上映館は減少し続け、2000年には7館あったものが、現在は大阪のサントリー・ミュージアム[天保山]1館だけになってしまった。

また、立体映画の制作に関して言うと、国産の長編劇映画の計画はなく、輸入一辺倒という状況が寂しい。韓国では、具体的な題名は明らかにされていないが、すでに長編立体映画の製作が開始されたそうで、先を越されたのは残念だ。

■国内の主な立体上映館

【Real D方式採用】
シネマイクスピアリ(千葉)
ワーナー・マイカル・シネマズ多摩センター(東京)
ワーナー・マイカル・シネマズ浦和美園(埼玉)
ワーナー・マイカル・シネマズ港北ニュータウン(神奈川)
ワーナー・マイカル・シネマズ江別(北海道)
ワーナー・マイカル・シネマズ名取エアリ(宮城)
ワーナー・マイカル・シネマズ守谷(茨城)
ワーナー・マイカル・シネマズ千葉ニュータウン(千葉)
ワーナー・マイカル・シネマズ市川妙典(千葉)
ワーナー・マイカル・シネマズ板橋(東京)
ワーナー・マイカル・シネマズむさし野ミュー(東京)
ワーナー・マイカル・シネマズ新百合ヶ丘(神奈川)
ワーナー・マイカル・シネマズみなとみらい(神奈川)
ワーナー・マイカル・シネマズ羽生(埼玉)
ワーナー・マイカル・シネマズ新潟南(新潟)
ワーナー・マイカル・シネマズ各務原(岐阜)
ワーナー・マイカル・シネマズ御経塚(石川)
ワーナー・マイカル・シネマズ茨木(大阪)
ワーナー・マイカル・シネマズりんくう泉南(大阪)
ワーナー・マイカル・シネマズ福岡ルクル(福岡)
ワーナー・マイカル・シネマズ熊本クレア(熊本)

【ドルビー3D方式採用】
新宿バルト9(東京)
梅田ブルク7(大阪)
広島バルト11(広島)
T・ジョイ大泉(東京)
T・ジョイ新潟万代(新潟)
T・ジョイ長岡(新潟)
T・ジョイリバーウォーク北九州(福岡)
エクスワイジー・シネマズ蘇我(千葉)

【IMAX 3D方式採用】
サントリー・ミュージアム[天保山](大阪)

筆者紹介

大口孝之のコラム

大口孝之(おおぐち・たかゆき)。立体映画研究家。59年岐阜市生まれ。日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター、世界初のフルカラードーム3D映像「ユニバース2~太陽の響~」のヘッドデザイナーなどを経てフリー。NHKスペシャル「生命・40億年はるかな旅」のCGでエミー賞受賞。「映画テレビ技術」等に執筆。代表的著作「コンピュータ・グラフィックスの歴史」(フィルムアート社)。

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